近未来判事「タクヤ」

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事件簿008 『白波看板』その9

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近くで一部始終を見ていた角右衛門は、心から感動した。

「この世知辛い世の中で、信じられないものを見た。あの女はボロ布を身にまとっていた。間違いなく乞食だろう。それなのに拾った金を我が物にしないどころか落とし主に届けてくれた。その場に居合わせて何もしなかったでは白波角右衛門の名が廃る!!」

角右衛門は、手下を総動員して金を届けた女乞食を探させた。
女乞食は数日で見つかった。

名前はお幸。
お幸には右腕が無かった。
角右衛門はお幸を上野の最高級の料理屋、浜田屋に連れて行った。

着物はボロボロ。
汚れた顔に裸足。
ぼさぼさの髪。
浜田屋の仲居たちは明らかに厭な顔をしている。

「あの・・・。私はこんな立派なお店には入れません・・・。」

帰ろうとするお幸の左腕をつかんで、角右衛門はづかづかと店に入っていった。

「この方は私の大切なお客様だ!失礼の無いようにお迎えしてくださいよっ!」

盗賊の正体は知られていないが、角右衛門はこの店の最高の上客。
その角右衛門の言葉に仲居たちは慌ててお迎えの準備を始めた。

部屋に上がり、最上級の鰻をつつきながら角右衛門はお幸に尋ねた。

「50両もの金を拾ったら、名前が書いてあるわけでもない、誰だってそのままいただいてしまうだろう。どうして正直に落とし主に返したのかね?」

「わたしは世間のお余りで生活させて貰っています。でも世間様には何とかしてご恩返ししたい。お店なら看板のようなものを出したい気持ちです。乞食ですが、ご恩返しを乞うている、わたしの看板を。」

聞いていた角右衛門は、涙が止まらなくなっていた。
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