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6.魔力暴走
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ロメオにとても良く似ている――混乱した頭でカインはぼんやりとアバルト侯爵を見上げた。
そして母上にも。
夫人がカインに微笑みかけてくれたらきっとこんな雰囲気だろうと、いつも思っていた優しい目元だった。
母の柔らかい鼻筋や、きつく閉じられているが形のいい美しい唇とは全く似ていないが、目元は夫人とよく似ていた。
だからさっきの客間でロメオを見たとき、少し懐かしさを覚えたのか。
「貴族の礼は散々して疲れただろ?私とは大人の略式の挨拶をしよう」
呆然とするカインにアバルト侯爵は右手を差し出すと、反対側の手で、いつの間にかロメオの手が離れていたカインの右手を掴み、自分の右手に握らせた。
「初めまして。エスクード公子。私はあなたの叔父にあたるが年の離れた友人になれれば光栄です」
ロメオと同じ、いたずらっぽさを含んだ笑顔で目線をカインに合わせるとアバルト侯爵は右手にそっと力を込めた。
その心地よい力強さと、優しさを含んだ暖かさがカインを漸く我に返らせた。
「初めまして。アバルト侯爵。エスクード侯爵が嫡男カインです。お心遣い感謝いたします。浅学非才な身ですが王家に仕えるにふさわしくなるよう、ご指導をお願いいたします」
「うん。いい挨拶だ。――そうだ。漸く旅ができる年齢になったのだから、今度はぜひ我が領地にも来られるといい」
母に似ているからだろうか。それともロメオに似ているからだろうか。アバルト侯爵と交わした短い挨拶でカインの心は少しずつ落ち着きを取り戻そうとしたその時。
「エスクード領とうちは隣なんだし、獣車で1日もかからないんだよ。ね?伯母様」
無邪気にロメオが伯母であるエスクード侯爵夫人を見上げると、夫人はカインをちらりと見てから返答し辛そうに眼をそらした。
「街道も整備されているから、交通の便が良く移動も楽だといつもおっしゃっているじゃないですか。そうだ、カインと一緒に来られたら僕とカインにご本を読んでください!新しい物語を買ってもらったんです。きっとカインも――」
気に入ると思います、という言葉はカインの耳には入らなかった。
いつも……?いつもってなんだ?新しい物語?なんで当たり前のようにロメオは母上に甘えているんだ?
「本……」
カインの呟きを聞き逃さなかったロメオは、カインを振り返り「そうだよ」と笑いかけた。
「伯母様は季節ごとに領地に来られるんだよ。大抵は父上と話をされているんだけど、時間があるときは僕に本を読んでくれたり――」
ロメオの言葉は最後まで発せられなかったし、夫人の姿もカインはもう見ていなかった。
ロメオとティン=クエンは溢れ出たカインの魔力に圧倒され、その場に膝をついて息もうまくできなくなっていた。
カインは自分の体が一気に熱くなっていくのが分かった。しかし同時にカインの頭の中も真っ黒い熱が占領し、周りのことは何も理解できなくなっていた。
「カイン!――あなた!」
「ロメオ!ティン=クエン!」
一気に溢れ出たカインの魔力は、子供だけでなく大人さえも圧倒し若々しい緑の芝生の上に、色とりどりの衣装を着た大人たちが倒れ始めた。
アバルト侯爵は咄嗟に結界を張ろうとしたが、結界のスクロールを胸元から出す前にロメオ達を抱きながらその場に倒れた。
エスクード侯爵夫人もまた、絞り出すような声で夫であるエクシード侯爵を呼んだ直後、膝をつき、空気を求めるように喉元を抑えていた。
エスクード侯爵は異変を感じると、一瞬迷った後、すぐに王のいる東屋へ駆けつけた。
そして、結界のスクロールを胸元から出すと魔力を流して発動させた。
しかし、それは時間稼ぎにすらならない事は、侯爵も王も理解していた。
侯爵は今すぐ夫人とカインの元に駆け付けたい衝動を抑えながら、スクロールに込める魔力をさらに強めた。
「侯爵――公子は」
「わかりません。念のために今日の朝も能力者によって魔力を吸収させてきましたし、魔力は安定していました――一体何が」
「何があったかなどどうでもいい!早く抑えねば――」
続く言葉は「アベル王子のように魔力渦を発生させて国が焦土と化す」だという事を、侯爵も王も理解していた。
魔力暴走を止める手段は二つだけだった。
溢れ出す前ならいざ知らず、こうなってしまっては意識を絶っても溢れ出る魔力は止まらない。能力者によって溢れ出た魔力を吸収するか――カインの命を絶って魔力を解放させる。
侯爵にとっても、王にとっても後者は避けたい選択だった。
王にとってアベル王子の再来とも言えるカインの強大な魔力は、是が非でも手元に置いておきたいものだった。
しかし、首都にいる能力者をすべて集めても、僅かに溢れた魔力を吸収する事すら難しかったというのに、一体どうやって抑えればいいのだ。
侯爵は次々に倒れていく貴族たちの中に、妻の姿を探した。ほどなくして折り重なった華やかな布の向こうに立ちすくむカインと、その傍らに何とか意識を保ちカインに近寄ろうとする妻の姿が目に入った。
「陛下。結界からお出になりませんよう……そして、お許しください」
王が止める間も無く侯爵は結界を飛び出し、膝が折れそうな圧力の中カインと妻に駆け寄った。
懐に忍ばせていた護身用ナイフを握りしめて。
そして母上にも。
夫人がカインに微笑みかけてくれたらきっとこんな雰囲気だろうと、いつも思っていた優しい目元だった。
母の柔らかい鼻筋や、きつく閉じられているが形のいい美しい唇とは全く似ていないが、目元は夫人とよく似ていた。
だからさっきの客間でロメオを見たとき、少し懐かしさを覚えたのか。
「貴族の礼は散々して疲れただろ?私とは大人の略式の挨拶をしよう」
呆然とするカインにアバルト侯爵は右手を差し出すと、反対側の手で、いつの間にかロメオの手が離れていたカインの右手を掴み、自分の右手に握らせた。
「初めまして。エスクード公子。私はあなたの叔父にあたるが年の離れた友人になれれば光栄です」
ロメオと同じ、いたずらっぽさを含んだ笑顔で目線をカインに合わせるとアバルト侯爵は右手にそっと力を込めた。
その心地よい力強さと、優しさを含んだ暖かさがカインを漸く我に返らせた。
「初めまして。アバルト侯爵。エスクード侯爵が嫡男カインです。お心遣い感謝いたします。浅学非才な身ですが王家に仕えるにふさわしくなるよう、ご指導をお願いいたします」
「うん。いい挨拶だ。――そうだ。漸く旅ができる年齢になったのだから、今度はぜひ我が領地にも来られるといい」
母に似ているからだろうか。それともロメオに似ているからだろうか。アバルト侯爵と交わした短い挨拶でカインの心は少しずつ落ち着きを取り戻そうとしたその時。
「エスクード領とうちは隣なんだし、獣車で1日もかからないんだよ。ね?伯母様」
無邪気にロメオが伯母であるエスクード侯爵夫人を見上げると、夫人はカインをちらりと見てから返答し辛そうに眼をそらした。
「街道も整備されているから、交通の便が良く移動も楽だといつもおっしゃっているじゃないですか。そうだ、カインと一緒に来られたら僕とカインにご本を読んでください!新しい物語を買ってもらったんです。きっとカインも――」
気に入ると思います、という言葉はカインの耳には入らなかった。
いつも……?いつもってなんだ?新しい物語?なんで当たり前のようにロメオは母上に甘えているんだ?
「本……」
カインの呟きを聞き逃さなかったロメオは、カインを振り返り「そうだよ」と笑いかけた。
「伯母様は季節ごとに領地に来られるんだよ。大抵は父上と話をされているんだけど、時間があるときは僕に本を読んでくれたり――」
ロメオの言葉は最後まで発せられなかったし、夫人の姿もカインはもう見ていなかった。
ロメオとティン=クエンは溢れ出たカインの魔力に圧倒され、その場に膝をついて息もうまくできなくなっていた。
カインは自分の体が一気に熱くなっていくのが分かった。しかし同時にカインの頭の中も真っ黒い熱が占領し、周りのことは何も理解できなくなっていた。
「カイン!――あなた!」
「ロメオ!ティン=クエン!」
一気に溢れ出たカインの魔力は、子供だけでなく大人さえも圧倒し若々しい緑の芝生の上に、色とりどりの衣装を着た大人たちが倒れ始めた。
アバルト侯爵は咄嗟に結界を張ろうとしたが、結界のスクロールを胸元から出す前にロメオ達を抱きながらその場に倒れた。
エスクード侯爵夫人もまた、絞り出すような声で夫であるエクシード侯爵を呼んだ直後、膝をつき、空気を求めるように喉元を抑えていた。
エスクード侯爵は異変を感じると、一瞬迷った後、すぐに王のいる東屋へ駆けつけた。
そして、結界のスクロールを胸元から出すと魔力を流して発動させた。
しかし、それは時間稼ぎにすらならない事は、侯爵も王も理解していた。
侯爵は今すぐ夫人とカインの元に駆け付けたい衝動を抑えながら、スクロールに込める魔力をさらに強めた。
「侯爵――公子は」
「わかりません。念のために今日の朝も能力者によって魔力を吸収させてきましたし、魔力は安定していました――一体何が」
「何があったかなどどうでもいい!早く抑えねば――」
続く言葉は「アベル王子のように魔力渦を発生させて国が焦土と化す」だという事を、侯爵も王も理解していた。
魔力暴走を止める手段は二つだけだった。
溢れ出す前ならいざ知らず、こうなってしまっては意識を絶っても溢れ出る魔力は止まらない。能力者によって溢れ出た魔力を吸収するか――カインの命を絶って魔力を解放させる。
侯爵にとっても、王にとっても後者は避けたい選択だった。
王にとってアベル王子の再来とも言えるカインの強大な魔力は、是が非でも手元に置いておきたいものだった。
しかし、首都にいる能力者をすべて集めても、僅かに溢れた魔力を吸収する事すら難しかったというのに、一体どうやって抑えればいいのだ。
侯爵は次々に倒れていく貴族たちの中に、妻の姿を探した。ほどなくして折り重なった華やかな布の向こうに立ちすくむカインと、その傍らに何とか意識を保ちカインに近寄ろうとする妻の姿が目に入った。
「陛下。結界からお出になりませんよう……そして、お許しください」
王が止める間も無く侯爵は結界を飛び出し、膝が折れそうな圧力の中カインと妻に駆け寄った。
懐に忍ばせていた護身用ナイフを握りしめて。
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