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54.日記3
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1年間の婚約期間を経て、アルティシアはエスクード侯爵家に輿入れした。
婚約後、オレリオ卿は交易船の再調査を行い、瞬く間に豪商引いては公国の伯爵の悪巧みを暴き、季節が2つ過ぎる頃にはアルティシアを狙っていた伯爵たちは首だけとなり、その首も粉々に砕かれて森の奥深くに捨てられる事となった。
公国からは没収した伯爵家の財産が賠償金としてアバルト侯爵家と王室に献上され、国王はアルティシアへの慰労とオレリオ卿への功労から王宮内の神殿での結婚式を特別に許可し、王族以外で初めて王宮の神殿で結婚式を挙げた二人は、未だに貴族の憧れとして語り継がれている。
アルティシアは幸せだった。
貴族の結婚は利害が優先で愛が伴わない事は多々ある。
それでも、お互いの努力で愛情を育み、睦まじい夫婦になる事も少なくない。しかし、アルティシア達は違った。
「初めて会った時、なんて美しい女性だと思った。しかしそれだけだった。だが、あの夜庭園で私の部屋を見つめる君を見て、不思議な感覚に陥ったんだ。あの美しい女性が眺めているのはどこだろう。私の部屋ならいいのにと。そしてずっと君を見ていた。君が私の部屋を見ていると確信するまで」
初夜を迎えた夜、オレリオは告白した。
アルティシアが自分の部屋を眺めているのだと確信すると、いてもたってもいられなくなり、窓を開け声を掛けてしまった。
そして、走り去ろうとするアルティシアの姿に、頭が真っ白になって、気が付くと魔力を体に纏い窓から飛び出していた。
本当は抱きしめて口付けをしたい衝動にかられた。
けど、この可憐で純粋な人にそんなことをして軽蔑されたら生きていけないだろうとオレリオは考え、留まることができた。
二人は同じ時に恋に落ちたのだ。
しかし、1年経ち、2年が過ぎ3年目が終わろうとする頃、アルティシアは妊娠の兆候がない事に不安になり始めた。
夫婦関係は良好で、オレリオはアルティシアを飽きることなく求め続けたし、アルティシアも拒む事無く応じていた。
5年が過ぎる頃になっても妊娠しないアルティシアに、アバルト侯爵は苛立ちを隠せなかった。
貴族の妻の本分は跡取りを産むこと。
ましてエスクード侯爵家とアバルト侯爵家の血を引く子供ともなれば、王族の次に尊い存在になるのだ。
その栄誉を与る機会なのに、なぜお前は子供の一人も生むことができないのだ――
アバルト侯爵はエスクード侯爵への恩義を忘れていなかった。
なんとしても、アルティシアに子を産ませて、恩を返したいと思っていたのだ。
父の思いは、アルティシアにとっても同じようなものだった。
ただ一つ違うのは、貴族の妻としての役割よりも、愛するオレリオの子を産み、共に育てたいと強く思っていたことだった。
アルティシアは段々一人思い悩む日々が続いていた。
不安がる妻を案じて、オレリオは侍医にアルティシアを診せる事にした。その結果はアルティシアを絶望に叩き落すものだった。
「奥様の魔力量は通常の人よりも非常に少なく、旦那様の魔力量は通常の人よりも非常に大きいものです。奥様の魔力量がせめて通常の人よりほんの少し多い程度で良いのですが――それだけあれば旦那様の魔力を受け止め、子を成される事は可能です。しかし、現状では――」
侍医は最後まで言い切るのを憚れたのか、言い澱んだ。
魔力はその人が持つ命と対になるものだ。母の胎内で育つ子供は父と母の魔力を受けてその命を育てていく。
だが、その器となる母の魔力が弱すぎると、父の魔力を胎内に留める事ができず、子供はその命を育てることはできない。
アルティシアはその場に跪いて泣き崩れながらオレリオに謝った。
「ごめんなさい。私の魔力が弱いせいであなたの子供が産めない……私なんかがあなたの妻にならければ、あなたは今頃健康でかわいい子供を抱いていたはずなのに」
魂を絞り出す様な悲痛な叫びに、オレリオは堪らずアルティシアを抱きしめた。
「君でなければ私は未だに独身だっただろう。跡取りなど気にするな。我が家系には優秀な傍系が捨てるほどいる。今も誰かが私の寝首を掻こうと狙っているほどだ。爵位などそいつらのどれかにくれてやればいい。私はお前がいいんだ」
オレリオはアルティシアが落ち着きを取り戻すまで抱き締め、何度もそう囁いた。
後日再び一人で侍医の診察を受けたアルティシアは、どうしても妊娠する方法はないのかと尋ねた。
「ございません――奥様の魔力は少なすぎるのです。子宮の中で命が宿っても、旦那様の魔力を維持しきれずお子を包み込むことができません。そうすると授かった命は子宮に根付く前に命を失い、体外へ排出されるのです」
申し訳なさそうに、しかしはっきりと侍医は説明した。
「それでは、私の魔力を増やす方法は――?一時的にでも、子供が授かれるだけでいいのです。その分だけでも魔力を増やす方法はないのですか?」
アルティシアは、まだ20代前半と思えない程疲れ切った表情をしていた。ずっと泣いていたのだろう。
「一般的には魔力は命と対になるものです。生まれ持った命が弱ければ魔力も弱いものです――奥様のお体があまり丈夫ではないのがそう言う事です」
侍医は首を横に振った――が、すぐに何かを思い出したような顔をした。
「これは不確かな情報ですし、私も聞いた話ですが」
言っていいものか迷うような表情で、もごもごと前置きをしたうえで続けた。
「古の王子アベルが行った秘術があると聞いた事があります。医師の間でのみ伝えられる話です。魔力量が大きすぎるアベル王子が自分の子孫を残すため、妻のラウラに施した術で、一時的に魔力を増幅するのものだとか」
侍医の話を聞き終えると、アルティシアは自室に戻り、アバルト侯爵家へ使者を走らせた。
婚約後、オレリオ卿は交易船の再調査を行い、瞬く間に豪商引いては公国の伯爵の悪巧みを暴き、季節が2つ過ぎる頃にはアルティシアを狙っていた伯爵たちは首だけとなり、その首も粉々に砕かれて森の奥深くに捨てられる事となった。
公国からは没収した伯爵家の財産が賠償金としてアバルト侯爵家と王室に献上され、国王はアルティシアへの慰労とオレリオ卿への功労から王宮内の神殿での結婚式を特別に許可し、王族以外で初めて王宮の神殿で結婚式を挙げた二人は、未だに貴族の憧れとして語り継がれている。
アルティシアは幸せだった。
貴族の結婚は利害が優先で愛が伴わない事は多々ある。
それでも、お互いの努力で愛情を育み、睦まじい夫婦になる事も少なくない。しかし、アルティシア達は違った。
「初めて会った時、なんて美しい女性だと思った。しかしそれだけだった。だが、あの夜庭園で私の部屋を見つめる君を見て、不思議な感覚に陥ったんだ。あの美しい女性が眺めているのはどこだろう。私の部屋ならいいのにと。そしてずっと君を見ていた。君が私の部屋を見ていると確信するまで」
初夜を迎えた夜、オレリオは告白した。
アルティシアが自分の部屋を眺めているのだと確信すると、いてもたってもいられなくなり、窓を開け声を掛けてしまった。
そして、走り去ろうとするアルティシアの姿に、頭が真っ白になって、気が付くと魔力を体に纏い窓から飛び出していた。
本当は抱きしめて口付けをしたい衝動にかられた。
けど、この可憐で純粋な人にそんなことをして軽蔑されたら生きていけないだろうとオレリオは考え、留まることができた。
二人は同じ時に恋に落ちたのだ。
しかし、1年経ち、2年が過ぎ3年目が終わろうとする頃、アルティシアは妊娠の兆候がない事に不安になり始めた。
夫婦関係は良好で、オレリオはアルティシアを飽きることなく求め続けたし、アルティシアも拒む事無く応じていた。
5年が過ぎる頃になっても妊娠しないアルティシアに、アバルト侯爵は苛立ちを隠せなかった。
貴族の妻の本分は跡取りを産むこと。
ましてエスクード侯爵家とアバルト侯爵家の血を引く子供ともなれば、王族の次に尊い存在になるのだ。
その栄誉を与る機会なのに、なぜお前は子供の一人も生むことができないのだ――
アバルト侯爵はエスクード侯爵への恩義を忘れていなかった。
なんとしても、アルティシアに子を産ませて、恩を返したいと思っていたのだ。
父の思いは、アルティシアにとっても同じようなものだった。
ただ一つ違うのは、貴族の妻としての役割よりも、愛するオレリオの子を産み、共に育てたいと強く思っていたことだった。
アルティシアは段々一人思い悩む日々が続いていた。
不安がる妻を案じて、オレリオは侍医にアルティシアを診せる事にした。その結果はアルティシアを絶望に叩き落すものだった。
「奥様の魔力量は通常の人よりも非常に少なく、旦那様の魔力量は通常の人よりも非常に大きいものです。奥様の魔力量がせめて通常の人よりほんの少し多い程度で良いのですが――それだけあれば旦那様の魔力を受け止め、子を成される事は可能です。しかし、現状では――」
侍医は最後まで言い切るのを憚れたのか、言い澱んだ。
魔力はその人が持つ命と対になるものだ。母の胎内で育つ子供は父と母の魔力を受けてその命を育てていく。
だが、その器となる母の魔力が弱すぎると、父の魔力を胎内に留める事ができず、子供はその命を育てることはできない。
アルティシアはその場に跪いて泣き崩れながらオレリオに謝った。
「ごめんなさい。私の魔力が弱いせいであなたの子供が産めない……私なんかがあなたの妻にならければ、あなたは今頃健康でかわいい子供を抱いていたはずなのに」
魂を絞り出す様な悲痛な叫びに、オレリオは堪らずアルティシアを抱きしめた。
「君でなければ私は未だに独身だっただろう。跡取りなど気にするな。我が家系には優秀な傍系が捨てるほどいる。今も誰かが私の寝首を掻こうと狙っているほどだ。爵位などそいつらのどれかにくれてやればいい。私はお前がいいんだ」
オレリオはアルティシアが落ち着きを取り戻すまで抱き締め、何度もそう囁いた。
後日再び一人で侍医の診察を受けたアルティシアは、どうしても妊娠する方法はないのかと尋ねた。
「ございません――奥様の魔力は少なすぎるのです。子宮の中で命が宿っても、旦那様の魔力を維持しきれずお子を包み込むことができません。そうすると授かった命は子宮に根付く前に命を失い、体外へ排出されるのです」
申し訳なさそうに、しかしはっきりと侍医は説明した。
「それでは、私の魔力を増やす方法は――?一時的にでも、子供が授かれるだけでいいのです。その分だけでも魔力を増やす方法はないのですか?」
アルティシアは、まだ20代前半と思えない程疲れ切った表情をしていた。ずっと泣いていたのだろう。
「一般的には魔力は命と対になるものです。生まれ持った命が弱ければ魔力も弱いものです――奥様のお体があまり丈夫ではないのがそう言う事です」
侍医は首を横に振った――が、すぐに何かを思い出したような顔をした。
「これは不確かな情報ですし、私も聞いた話ですが」
言っていいものか迷うような表情で、もごもごと前置きをしたうえで続けた。
「古の王子アベルが行った秘術があると聞いた事があります。医師の間でのみ伝えられる話です。魔力量が大きすぎるアベル王子が自分の子孫を残すため、妻のラウラに施した術で、一時的に魔力を増幅するのものだとか」
侍医の話を聞き終えると、アルティシアは自室に戻り、アバルト侯爵家へ使者を走らせた。
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