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第一章 英雄の帰還

4 一筋の希望

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 【オッド襲撃事件】

 2022年6月6日。

 オッドで確保した感染者がジャナヴァルへと変貌。オッドの各地を襲った。

 襲われた人々は永遠に眠り続けてしまう病気となった。我々はこれを【永眠病】と名付けた。

 被害者はメディクスの2名と、一般の人は7名。

 【メディクス】
 アント・ゴルベン
 ヨアキ・クッコネン

 【オッド一般市民】

 リータ・ハンソン
 サリ・カノーネ
 ジーク・アンドレ
 カスパル・ホルム
 ヤーコプ・ハウン
 メイジー・クライトン
 カンナ・ロバーツ

 以上9名である。

 その内メディクスの2名、そして一般市民のサリ・カノーネは死亡が確認された。

 被害は全体で50世帯ほど。

 事件は英雄の一人であるグラウベン・キングがジャナヴァルを撃破したことにより解決した。

 しかし今回の事件の最も異常な点はここからである。

 今回オッドの町を襲ったジャナヴァルの感染者の名は【レオナルド・ロバーツ】。

 彼は記録では感染から24時間も経っておらず、今までの「72時間で怪物化する」という常識を覆すものだった。





 事件当日の夜。キンじぃと俺はメディクスに呼び出されていた。

 そこは見慣れた町の風景とは程遠い景色だった。

 多くの家が破壊され、見慣れた道は瓦礫に埋もれている。

 メディクスはそばにテントを立て、負傷者の手当を行っている。その中にはタイガさんの姿もあった。
 
 ジャナヴァルとの戦いで負ったのか、怪我の手当を受けていたタイガさんが立ち上がり、こちらへ向かってくる。

 「どうも、師匠。お久しぶりです」

 「タイガ…師匠はやめろと言っておるじゃろう。まぁまずはお互い無事でなによりじゃ」

 「えぇ本当に。ですがそもそもこの事件は……」

 「なぁにお前さんが負い目を感じる必要はない。こんな異常事態じゃ」

 「えぇ……ですが……」

 「はぁ…今回ワシ達を呼んだのはそんな話をするためではないじゃろ?」

 「あ、そうですね。実は<英雄>のグラウベンさんがアランを読んでいまして」

 「ワシではなく、アランくんを?」

 「ええ」

 「そうか。よし、行くぞ、アラン」

 「……」

 「すまない……アラン」

 「言ったじゃろう?負い目を感じる必要はないと。お前さんが今できることは反省することじゃない」

 ドン!とキンじぃがタイガさんの胸を叩く。

 「強くなれ。若造」

 「………精進します」



 

 「君がアランか」

 大柄な男が目の前に立っている。

 腕を組み、険しい表情でこちらを見つめる。

 「久しいのグラウベン。シワが多くなったか?」

 「すまないなご老人。お前をかまっている暇はない。こちらへ来てくれアラン」

 「アラン一人で、か?」

 「一人で、だ」

 うむ、とキンじぃが引き下がる。

 そこから俺はグラウベンさんに連れられ、町の被害が大きい中心へと歩いていった。

 「君は母親を失い、心に相当な傷を負っているかもしれない。だが、これからもっと辛い真実を知ることになる」

 「……」

 「何か言ったらどうだ?」

 「俺の……せいだ……」

 「ん?何を言っている?君の母はジャナヴァルにやられたんだ。なぜ君のせいになる?」

 「俺が……もっと……早く……」

 「まぁ、何があったが知らないが、ほら、着いたぞ」

 そこには顔を白い布で覆った被害者……が9人眠っていた。

 そして、見つけてしまった。

 「母……さん!?」

 顔が見えなくても分かる。あれは母さんだ。

 「待て」

 駆けつけようとしたが、グラウベンさんに掴まれる。

 「そっちじゃない」

 「離せ!離せよ!!お前の用事なんかどうでもいい!!最後に母さんの顔をみせてくれよ!!」

 「安心しろ。君の母は死んでない」

 は?死んでいない?

 「嘘だ!目の前で怪物に吸い込まれた!」

 「君の母や他の吸い込まれた人は死んではいない。【永眠病】という病気になっただけだ」

 「えいみんびょう?」

 「あぁ。眠り続ける病気だ。だから言った。安心しろ」

 「そ、そんなの!死んでるのと一緒じゃないか!」

 「いや、違う。病気だ。治せる。いや、必ず我々メディクスが治す」

 治せる。

 「治せる……?ってことは……」

 「あぁ。また母に会えるだろう」

 よかった。

 一気、に。肩も、膝も、全ての力が抜け、その場に崩れ落ちた。

 「よかった……本当によかった……」

 「いや、良くない」

 「え?」

 先程の優しい言葉とは一変、グラウベンさんが厳しい口調になった。

 「言っただろう。そっちじゃない。君を呼んだ理由は」

 「?」

 「今回のオッド襲撃事件、その犯人とも言えるジャナヴァル。その感染者の名前が分かった」

 ドクドクと心臓の音が速くなる。

 こんな悪い気配はあの怪物に会った時以来だ。

 「君には……レオナルド・ロバーツ。彼の遺言を聞いてもらう」
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