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第一章 英雄の帰還
5 父は知っている
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歩を進めるに連れ、周りの風景が荒れていく。
「少し刺激が強いかもしれん」
グラウベンが足を止め、指さす。
その先……そのえぐれた地面の真ん中に人が倒れている。
そう……あのクジラ人間が。
「あれが……父さん……」
信じられない。母さんやみんなを襲ったあの怪物が父さんだなんて。
「ヴェロウイルス発生から12年。我々の中での常識は<72時間後にジャナヴァルになるウイルス>だった。しかし、彼は例外だった。そのせいで多くの被害が出た」
「……」
「だが例外はもう一つあった。幸か不幸か、私が撃破した後、死の直前、彼は自我を取り戻した」
「自我……?」
「ヴェロウイルスに感染した人間は、姿だけでなく、中身も変わる。彼はジャナヴァルになって失った自我を取り戻した。こんな例は初めてだ」
「じゃあ…….父さんも助かるってことですか!?」
「いや、違う。彼はもう助からない。彼の命は…….もって1時間….いや50分だろう。だから君を呼んだ。彼の遺言を聞いてほしい」
「分かり……ました」
俺は一人で父さんの元へと向かった。
父さんの姿は、昼間とは全く違った。
右腕が引きちぎれ、腹部に噛まれたような傷があり、頭の上部が破損していた。
こんな姿で生きているのだろうか、そう思いながら近づいてく。
ーー彼は本当に瀕死だ。目も見えなければ耳も聞こえない。近づいたらそっと手を握ってくれ。
グラウベンさんの助言通り、父さんの手を握る。
「父さん……俺だよ」
「だ……れだ握ってるのは……」
本当に何も聞こえないらしい。
「誰……でも…いい。俺…の……息子…アランに伝えてくれ」
これがグラウベンさんの言っていた遺言なのだろうか。
「好きな……ように……生きてくれ」
父さんが俺の手を強く握る。
「どんな…ことが…あっても…お前は……お前で……アランでいてくれ」
「父さん……!」
「お前が望むことをしろ」
最後にそう言い、握る手を緩めた。
「父さん!父さん!!死なないでよ!」
「何度目…だろうか。遺言は…そう何度も……言うものではない……な」
父さんは……死の間際にいながら、俺に言葉を届けようと、何度も何度も言っていたんだ。
「おい……今…握ってくれてる人……お前に伝えたいことがある」
握ってる人……?俺ではなくこの知らない手に伝えること?
「俺は……もう……死ぬだろう。だ……が……お前……だ……」
父さんがどんどん苦しそうになっていく。
もう時間がないのだろうか。
「す……べ……て……お前……だ。俺……は…お前……を」
はぁはぁと息を荒くしていたが、すぅっと息を吸い、最期の息を言葉とともに吐き出す。
「■■■■■」
父さんは死んだ。
オッド襲撃事件は、突然ジャナヴァルと化した父さんがメディクスの元から逃げ、町で暴れる、と言う事件だった。
オッド唯一の英雄であるタイガさんですら父さんを止めることができず、元メディクスであるキンじぃ、中心都市【バリム】のオスピタル本拠地からグラウベンさんが駆けつけ、撃破することができた。
父さんを失い、母さんも目覚めなくなってしまった。身寄りがなくなった俺は、その元メディクスのキンじぃに引き取られ、ユンと3人で暮らすことになった。
「もう何も心配することはない。犠牲はあったがお前さんたちは生きている。平穏に生きろ。絶対に危険な真似はするなよ。お前さん達の親に合わせる顔がなくなる」
強く言われた。
納得した。
だが。
「キンじぃ。俺を強くしてくれ」
俺は俺の望むことをした。
「少し刺激が強いかもしれん」
グラウベンが足を止め、指さす。
その先……そのえぐれた地面の真ん中に人が倒れている。
そう……あのクジラ人間が。
「あれが……父さん……」
信じられない。母さんやみんなを襲ったあの怪物が父さんだなんて。
「ヴェロウイルス発生から12年。我々の中での常識は<72時間後にジャナヴァルになるウイルス>だった。しかし、彼は例外だった。そのせいで多くの被害が出た」
「……」
「だが例外はもう一つあった。幸か不幸か、私が撃破した後、死の直前、彼は自我を取り戻した」
「自我……?」
「ヴェロウイルスに感染した人間は、姿だけでなく、中身も変わる。彼はジャナヴァルになって失った自我を取り戻した。こんな例は初めてだ」
「じゃあ…….父さんも助かるってことですか!?」
「いや、違う。彼はもう助からない。彼の命は…….もって1時間….いや50分だろう。だから君を呼んだ。彼の遺言を聞いてほしい」
「分かり……ました」
俺は一人で父さんの元へと向かった。
父さんの姿は、昼間とは全く違った。
右腕が引きちぎれ、腹部に噛まれたような傷があり、頭の上部が破損していた。
こんな姿で生きているのだろうか、そう思いながら近づいてく。
ーー彼は本当に瀕死だ。目も見えなければ耳も聞こえない。近づいたらそっと手を握ってくれ。
グラウベンさんの助言通り、父さんの手を握る。
「父さん……俺だよ」
「だ……れだ握ってるのは……」
本当に何も聞こえないらしい。
「誰……でも…いい。俺…の……息子…アランに伝えてくれ」
これがグラウベンさんの言っていた遺言なのだろうか。
「好きな……ように……生きてくれ」
父さんが俺の手を強く握る。
「どんな…ことが…あっても…お前は……お前で……アランでいてくれ」
「父さん……!」
「お前が望むことをしろ」
最後にそう言い、握る手を緩めた。
「父さん!父さん!!死なないでよ!」
「何度目…だろうか。遺言は…そう何度も……言うものではない……な」
父さんは……死の間際にいながら、俺に言葉を届けようと、何度も何度も言っていたんだ。
「おい……今…握ってくれてる人……お前に伝えたいことがある」
握ってる人……?俺ではなくこの知らない手に伝えること?
「俺は……もう……死ぬだろう。だ……が……お前……だ……」
父さんがどんどん苦しそうになっていく。
もう時間がないのだろうか。
「す……べ……て……お前……だ。俺……は…お前……を」
はぁはぁと息を荒くしていたが、すぅっと息を吸い、最期の息を言葉とともに吐き出す。
「■■■■■」
父さんは死んだ。
オッド襲撃事件は、突然ジャナヴァルと化した父さんがメディクスの元から逃げ、町で暴れる、と言う事件だった。
オッド唯一の英雄であるタイガさんですら父さんを止めることができず、元メディクスであるキンじぃ、中心都市【バリム】のオスピタル本拠地からグラウベンさんが駆けつけ、撃破することができた。
父さんを失い、母さんも目覚めなくなってしまった。身寄りがなくなった俺は、その元メディクスのキンじぃに引き取られ、ユンと3人で暮らすことになった。
「もう何も心配することはない。犠牲はあったがお前さんたちは生きている。平穏に生きろ。絶対に危険な真似はするなよ。お前さん達の親に合わせる顔がなくなる」
強く言われた。
納得した。
だが。
「キンじぃ。俺を強くしてくれ」
俺は俺の望むことをした。
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