血の医者〜僕らの仕事は人を殺すことです〜

タコオカ

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第一章 英雄の帰還

6 立ち合い

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 「今、なんと言った?」

 キンじぃの低い声が、いつもより低く感じた。

 「いや、だから…」

 「今なら、取り消しても良いぞ」

 本気だ。キンじぃは、多分、本気で怒ってる。

 だけど俺も望むことを曲げるわけにはいかない。

 「俺を……ジャナヴァルに勝てるくらい、強くしてくれ」

 「そうか……」

 「じぃちゃん?アラン?」

 ユンが心配そうに見つめている。

 「なぁアラン。ワシはメディクスとして何年も戦ってきた。だから知っている、お前さんが進もうとしている道はとても過酷だ」

 「過酷……でも、かまわない!」

 「そうか……そこまで覚悟があるのなら……」

 キンじぃが近くの古い小屋へと向かい、2本の木の棒を取り出して来た。

 「ほれ」

 木の棒のうち一つをこちらに投げる。

 「これはメディクスが使っている練習用の【メス】じゃ。これでワシから一本取ってみろ。そしたら稽古をつけてやる」

 「ちょ、ちょっとじぃちゃん!?そんなの無理に決まってるでしょ?だってじいちゃん…<メディクス全員の師匠>としてメスの使い方を稽古してたんでしょ!?」

 「あぁそうじゃ。だがそれは10年も前の事。もうただの老いぼれじゃ。さぁアラン、やるか?」

 「あぁ。やらせてくれ」







 「で、では……始め!!」

 ユンの掛け声と共に戦いが始まる。

 「うおおお!!」

 真っ直ぐこちらに向かってくるアラン。

 「元気がいいのぅ」

 アランの振り下ろした棒を弾き、脇腹に棒で打撃を入れる。

 「うっ!」

 たまらずその場に倒れるアラン。すかさず木の棒を額に当てる。

 「さて。まだやるのか?」

 「くっそ!」

 アランが起き上がる、と同時に。

 スパン!

 アランの頬を木の棒ではたく。

 「ぶへぇ!!」

 「ちょっとじいちゃん!そんなことしたらアランが……」

 「黙っとれユン!ほら!どうした!そんなものかアラン!」

 アランの方を振り返る……だがそこに姿はない。

 「な……!」

 すかさず弾いた木の棒を確認するがこれも消えている。

 「おりゃあ!!」

 アランが背後から飛びかかる。

 少しユンの方を向いている間に、木の棒を回収し、背後に回り込むとは……何という身体能力じゃ……。

 「やるのう」

 パン!!

 振り返ると同時に木の棒をもう一度頬に当てる。

 だがワシのほうが速い。

 「ぐっ!!」

 弾き飛ばされ、少し離れたところに倒れるアラン。

 「ほう……次はちゃんと離さんかったのう」

 「まだ……だ」

 諦めが悪い。困ったものじゃ。

 パン!!

 今度は一気に距離を詰め、足を叩く。

 「ぐぅっ!」

 アランがよろけた瞬間、すかさず連撃を叩き込む。

 パン!スパン!ドン!パパン!

 腹、腕、胸、そして顎。正確無慈悲な攻撃を次々と叩きこむ。

 「まって…よ…アランが死んじゃうよ……」

 ユンが目に涙を浮かべる。

 「はぁ…はぁ…歳はとりたくないのう」

 もう一度、アランの額に棒を当てる。

 「さて。まだやるのか?」

 「あ……たり……まえ……だ」

 「そうか」

 パン!!

 また頬をはたく。

 「ならさっさと立つんじゃ」

 「あた………りま……えだ」

 アランの目の奥はまだ、赤く……光り輝いていた。

 「こりゃ……長くなるのう」
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