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第一章
14.オルガと少年の脱走実行
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「……すみません、こんなにすぐ」
「いいの。気にしないで」
リュカのものは未だ硬く太いまま。少し抜き差しをすると、熱いものがドロリと溢れ出てくる。
「……僕のが、中からこんなに……オルガ様、もっと奥に行きたいです」
「うん、来て」
リュカは顔をしかめながら、少しずつ腰を動かし、肉杭を進ませてくる。膣を味わうように、ゆっくり挿入される。それは、私もリュカのものをゆっくり味わうということ。あまりの気持ち良さに、何度も腰が揺れる。そのたびにリュカが「あ」とか「ん」と零すので、何とか我慢する。
果てしなく長い時間のようで、おそらくはあっという間だ。リュカの尖端が最奥に到達すると同時に、双方から「あぁ」と言葉が零れた。そして、顔を見合わせて、笑う。
「ここ、ですね?」
「ええ、そこ」
「ようやく、繋がれた……あぁ」
笑い合って、キスをする。リュカが腰を深く押し付けてくる。あっ、駄目、それ。
「あ、奥……」
「動いたら出てしまいそうです。暖かくて、締め付けてくる」
「リュカ、動いて。気持ちい、っん」
リュカを抱きしめ、キスをする。リュカのぎこちない腰の動きも、舌を求めてくる欲深さも、みんな愛しい。
「オルガ、様っ」
私の名前を呼ぶ声も、深い森の色の目が私だけを映すのも、愛しい。彼の指が私の首に一瞬だけ触れ、そのまま頬に動く。その迷いに今は気づかないふりをする。
「ねぇ、リュカ……っあ」
「あ、オルガ様、そんなに締めないでください。出ちゃいます」
「……いいよ、奥に」
「駄目です、オルガ様がまだ」
「まだ? この先もずっと私を抱いてくれるんでしょう? だったら、今はまだでも」
そう、まだでも構わない。この先の未来が、あるなら。あるのよね? ねぇ、リュカ。
リュカは腰の使い方がわかってきたのか、浅く、深く、穿ってくる。苦しそうに顔を歪めながら、リュカは私の舌を求める。
「あぁ、オルガ、様」
熱い吐息とキス。リュカの表情に余裕はない。限界は近いはず。
「おいで、リュカ」
「オルガ様、すみません……っ、もう」
パタと落ちてきたリュカの汗。拭ってあげようとして、やめる。それが汗ではないと気づいたから。
「リュカ、好きよ」
「僕も……僕も、好きです。本当に、本当に……っん」
痛いほどに奥を穿ちながら、リュカが唇に食らいついてくる。そして、一瞬ののち、零れる吐息と、震える体。リュカは、私の最奥で滾りを吐き出した。何度も、何度も。
リュカの体を抱きしめ、時折髪を撫でながら、涙の意味を考える。嬉し涙ではないことだけは確か。けれど、今、問うことはしない。だって、今、幸せなんだもの。好きな人に抱かれることの歓びを、初めて知ったんだもの。
それを壊したくないと思って、何が悪いの。
私たちには時間がない。さっとぬるま湯を浴び、世話係の服に着替える。靴を履くのも久しぶりだ。髪を結い、フードを目深に被ると少年のように見えないこともない。世話係には少女はいないので、聖教会から出るまでは少年のふりをしなければならない。
リュカから手渡された麻袋には、お金が入っていた。「当面の生活費にはなるでしょう」とリュカは言い、何かあったときのためにと、私が持つように指示される。
腕輪をつけたリュカが格子戸を押すと、あっさり錠が開いた。外に出たリュカが格子の隙間から腕輪を差し入れてくれたので、それを身に着け、恐る恐る扉を押し開ける。――いとも簡単に、外へ出られた。
部屋の外へは何度か脱走したことがある。ここからが難しいことを、私はよく知っている。しかし、今日は世話職の服を着ているため、人目についても大丈夫だろう。
リュカに手を引かれ、石階段を降りる。もちろん、誰ともすれ違うことはない。小さな森を抜け、聖教会本部の建物の中へと入る。
本部には、ほとんど人がいない。ちょうど今、成人の儀の最中だからだ。しかし、終われば本部に戻ってくる聖職者や貴族がいるだろう。それまでに、何とか外に出なければならない。
「大通りに出れば、駅馬車が出ています。それで逃げて……逃げましょう」
「どこへ?」
「どこへでも」
「リュカも一緒よね?」
「……もちろん」
手を引かれているため、前を行くリュカの表情は見えない。複雑に入り組んでいる廊下を、なるべく足音を立てないように駆けて行く。けれど、私は足が不自由だ。そこまで速く走ることができない。リュカの速度についていくのがやっと。部屋の中で運動もしていないため、息が上がる。
「オルガ様、頑張って。あと少しで裏門です」
「ん、うん」
ゼエゼエと肩で息をしながら、もたつく左足を呪いながら、走る。息が苦しい。けれど、今捕まったら、もっと苦しいことになるだけだ。リュカは厳しい折檻を受けることになるだろう。聖教会から追放されるかもしれない。私は足を切り落とされ、セドリックの子どもを生むことになるだろう。一生、ここで過ごすことになる。
そんなろくでもない未来は、嫌だ。絶対に、嫌だ。
「あぁっ」
なのに、足は言うことを聞いてくれない。自由に動いてくれない左足が右足の邪魔をして、転ぶ。ジャリン、と麻袋が鳴る。
リュカは慌てて駆け寄ってくれる。
「すみません、焦りました。大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫」
「おい、リュカ。そんなところで何をしている?」
第三者の声に、リュカも私も一瞬、固まる。呼ばれたリュカは、声の主のほうを見て、ぎこちない笑みを浮かべた。
「お前、今日は何か勤めがあるんじゃなかったか?」
「あぁ、それは終わりました。今は新入りの案内をするように言われています」
リュカが応対している間に起き上がり、裾を払う。そして、顔を上げないように声の主のほうに向き、一礼する。足元しか見えないけれど、同じ服を着ているため、世話係の少年なんだろう。
「そうか……でも、こんな日に新入りなんて入るか?」
「まぁ、訳ありなんじゃないですか? 成人の儀に合わせてやって来たどこかの貴族の、ねぇ?」
「あぁ、なるほど。そういうことね」
少年が「ふぅん」と言いながら、私を見ているのがわかる。心臓がバクバク音を立てている。早く外に出たいのに、少年はなかなか立ち去ってくれない。
「どんな顔してるんだよ、見せてみろよ」
びく、と思わず震えてしまった。リュカが少年と私の間に立ちふさがるように移動したせいで、あらぬ興味を引いてしまったようだ。
「あぁ……ジョエル、総主教様の好みではないので大丈夫だと思いますよ、検分しなくても」
「本当に?」
「ええ、ほら、ここに大きなほくろがありますし」
言って、リュカは少しだけ私のフードを上げた。化粧をしたときに、大きめのほくろを顎と頬に描いておいたのだ。
「や、やめろよ、恥ずかしいだろ」
精一杯、少年っぽい声を出してみる。舞台女優には劣ると言われた演技力しか持ち合わせていないけれど、ジョエル少年が気づきませんように、と祈るだけだ。
「うわ、本当に大きい! んー、確かに美少年とは言えないから、総主教様の好みじゃないな。お前は本当にうまく総主教様の目に留まったよなぁ。どんな手を使ったんだよ、なぁ、教えろよ?」
「内緒です。では、ジョエル、僕は自分の勤めに戻ります。失礼します」
リュカにならい、私も頭を下げる。ジョエル少年はリュカが質問に答えなくても満足したのか、意気揚々と持ち場に戻っていく。彼の姿が見えなくなるまで、歩きながら廊下を進む。
ほくろを描くことはリュカが提案してくれた。なるほど、うまい作戦だ。私の顔を知っている人間は少ないけれど、用心深いことに越したことはない。ほくろのある少年がフードを目深に被る意味もちゃんとあったわけだ。
リュカは相当に準備をしてくれたんだろう。すごく頑張ってくれたんだろう。総主教とのことも含めて。本当に、ありがたいことだ。
裏門には、すぐたどり着くことができた。門番もいない。あたりをうかがって、近くに誰もいないことを確認してから、リュカと手を繋いで外へ駆け出る。
あぁ、自由だ――!
一年ぶりの、自由だ。
リュカの手を強く握る。握り返してくれるその手を、愛しいと思う。本当は抱きついてお礼を言いたいけれど、追っ手が来ないとも限らない。早くこの場から立ち去らなければ。
「リュカ、ありがとう!」
走り続ける背中に、そう、叫ぶ。
ありがとう、リュカ。本当に、本当に、大好きよ。
――この逃避行の果てに、何があるとしても、あなたのことが、大好きよ。
「いいの。気にしないで」
リュカのものは未だ硬く太いまま。少し抜き差しをすると、熱いものがドロリと溢れ出てくる。
「……僕のが、中からこんなに……オルガ様、もっと奥に行きたいです」
「うん、来て」
リュカは顔をしかめながら、少しずつ腰を動かし、肉杭を進ませてくる。膣を味わうように、ゆっくり挿入される。それは、私もリュカのものをゆっくり味わうということ。あまりの気持ち良さに、何度も腰が揺れる。そのたびにリュカが「あ」とか「ん」と零すので、何とか我慢する。
果てしなく長い時間のようで、おそらくはあっという間だ。リュカの尖端が最奥に到達すると同時に、双方から「あぁ」と言葉が零れた。そして、顔を見合わせて、笑う。
「ここ、ですね?」
「ええ、そこ」
「ようやく、繋がれた……あぁ」
笑い合って、キスをする。リュカが腰を深く押し付けてくる。あっ、駄目、それ。
「あ、奥……」
「動いたら出てしまいそうです。暖かくて、締め付けてくる」
「リュカ、動いて。気持ちい、っん」
リュカを抱きしめ、キスをする。リュカのぎこちない腰の動きも、舌を求めてくる欲深さも、みんな愛しい。
「オルガ、様っ」
私の名前を呼ぶ声も、深い森の色の目が私だけを映すのも、愛しい。彼の指が私の首に一瞬だけ触れ、そのまま頬に動く。その迷いに今は気づかないふりをする。
「ねぇ、リュカ……っあ」
「あ、オルガ様、そんなに締めないでください。出ちゃいます」
「……いいよ、奥に」
「駄目です、オルガ様がまだ」
「まだ? この先もずっと私を抱いてくれるんでしょう? だったら、今はまだでも」
そう、まだでも構わない。この先の未来が、あるなら。あるのよね? ねぇ、リュカ。
リュカは腰の使い方がわかってきたのか、浅く、深く、穿ってくる。苦しそうに顔を歪めながら、リュカは私の舌を求める。
「あぁ、オルガ、様」
熱い吐息とキス。リュカの表情に余裕はない。限界は近いはず。
「おいで、リュカ」
「オルガ様、すみません……っ、もう」
パタと落ちてきたリュカの汗。拭ってあげようとして、やめる。それが汗ではないと気づいたから。
「リュカ、好きよ」
「僕も……僕も、好きです。本当に、本当に……っん」
痛いほどに奥を穿ちながら、リュカが唇に食らいついてくる。そして、一瞬ののち、零れる吐息と、震える体。リュカは、私の最奥で滾りを吐き出した。何度も、何度も。
リュカの体を抱きしめ、時折髪を撫でながら、涙の意味を考える。嬉し涙ではないことだけは確か。けれど、今、問うことはしない。だって、今、幸せなんだもの。好きな人に抱かれることの歓びを、初めて知ったんだもの。
それを壊したくないと思って、何が悪いの。
私たちには時間がない。さっとぬるま湯を浴び、世話係の服に着替える。靴を履くのも久しぶりだ。髪を結い、フードを目深に被ると少年のように見えないこともない。世話係には少女はいないので、聖教会から出るまでは少年のふりをしなければならない。
リュカから手渡された麻袋には、お金が入っていた。「当面の生活費にはなるでしょう」とリュカは言い、何かあったときのためにと、私が持つように指示される。
腕輪をつけたリュカが格子戸を押すと、あっさり錠が開いた。外に出たリュカが格子の隙間から腕輪を差し入れてくれたので、それを身に着け、恐る恐る扉を押し開ける。――いとも簡単に、外へ出られた。
部屋の外へは何度か脱走したことがある。ここからが難しいことを、私はよく知っている。しかし、今日は世話職の服を着ているため、人目についても大丈夫だろう。
リュカに手を引かれ、石階段を降りる。もちろん、誰ともすれ違うことはない。小さな森を抜け、聖教会本部の建物の中へと入る。
本部には、ほとんど人がいない。ちょうど今、成人の儀の最中だからだ。しかし、終われば本部に戻ってくる聖職者や貴族がいるだろう。それまでに、何とか外に出なければならない。
「大通りに出れば、駅馬車が出ています。それで逃げて……逃げましょう」
「どこへ?」
「どこへでも」
「リュカも一緒よね?」
「……もちろん」
手を引かれているため、前を行くリュカの表情は見えない。複雑に入り組んでいる廊下を、なるべく足音を立てないように駆けて行く。けれど、私は足が不自由だ。そこまで速く走ることができない。リュカの速度についていくのがやっと。部屋の中で運動もしていないため、息が上がる。
「オルガ様、頑張って。あと少しで裏門です」
「ん、うん」
ゼエゼエと肩で息をしながら、もたつく左足を呪いながら、走る。息が苦しい。けれど、今捕まったら、もっと苦しいことになるだけだ。リュカは厳しい折檻を受けることになるだろう。聖教会から追放されるかもしれない。私は足を切り落とされ、セドリックの子どもを生むことになるだろう。一生、ここで過ごすことになる。
そんなろくでもない未来は、嫌だ。絶対に、嫌だ。
「あぁっ」
なのに、足は言うことを聞いてくれない。自由に動いてくれない左足が右足の邪魔をして、転ぶ。ジャリン、と麻袋が鳴る。
リュカは慌てて駆け寄ってくれる。
「すみません、焦りました。大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫」
「おい、リュカ。そんなところで何をしている?」
第三者の声に、リュカも私も一瞬、固まる。呼ばれたリュカは、声の主のほうを見て、ぎこちない笑みを浮かべた。
「お前、今日は何か勤めがあるんじゃなかったか?」
「あぁ、それは終わりました。今は新入りの案内をするように言われています」
リュカが応対している間に起き上がり、裾を払う。そして、顔を上げないように声の主のほうに向き、一礼する。足元しか見えないけれど、同じ服を着ているため、世話係の少年なんだろう。
「そうか……でも、こんな日に新入りなんて入るか?」
「まぁ、訳ありなんじゃないですか? 成人の儀に合わせてやって来たどこかの貴族の、ねぇ?」
「あぁ、なるほど。そういうことね」
少年が「ふぅん」と言いながら、私を見ているのがわかる。心臓がバクバク音を立てている。早く外に出たいのに、少年はなかなか立ち去ってくれない。
「どんな顔してるんだよ、見せてみろよ」
びく、と思わず震えてしまった。リュカが少年と私の間に立ちふさがるように移動したせいで、あらぬ興味を引いてしまったようだ。
「あぁ……ジョエル、総主教様の好みではないので大丈夫だと思いますよ、検分しなくても」
「本当に?」
「ええ、ほら、ここに大きなほくろがありますし」
言って、リュカは少しだけ私のフードを上げた。化粧をしたときに、大きめのほくろを顎と頬に描いておいたのだ。
「や、やめろよ、恥ずかしいだろ」
精一杯、少年っぽい声を出してみる。舞台女優には劣ると言われた演技力しか持ち合わせていないけれど、ジョエル少年が気づきませんように、と祈るだけだ。
「うわ、本当に大きい! んー、確かに美少年とは言えないから、総主教様の好みじゃないな。お前は本当にうまく総主教様の目に留まったよなぁ。どんな手を使ったんだよ、なぁ、教えろよ?」
「内緒です。では、ジョエル、僕は自分の勤めに戻ります。失礼します」
リュカにならい、私も頭を下げる。ジョエル少年はリュカが質問に答えなくても満足したのか、意気揚々と持ち場に戻っていく。彼の姿が見えなくなるまで、歩きながら廊下を進む。
ほくろを描くことはリュカが提案してくれた。なるほど、うまい作戦だ。私の顔を知っている人間は少ないけれど、用心深いことに越したことはない。ほくろのある少年がフードを目深に被る意味もちゃんとあったわけだ。
リュカは相当に準備をしてくれたんだろう。すごく頑張ってくれたんだろう。総主教とのことも含めて。本当に、ありがたいことだ。
裏門には、すぐたどり着くことができた。門番もいない。あたりをうかがって、近くに誰もいないことを確認してから、リュカと手を繋いで外へ駆け出る。
あぁ、自由だ――!
一年ぶりの、自由だ。
リュカの手を強く握る。握り返してくれるその手を、愛しいと思う。本当は抱きついてお礼を言いたいけれど、追っ手が来ないとも限らない。早くこの場から立ち去らなければ。
「リュカ、ありがとう!」
走り続ける背中に、そう、叫ぶ。
ありがとう、リュカ。本当に、本当に、大好きよ。
――この逃避行の果てに、何があるとしても、あなたのことが、大好きよ。
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