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第二夜

049.緑の君との第二夜(二)

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「ねぇ、ねぇ、しようよぉ。わたし、リヤーフとセックス、欲の解放したいなぁ」
「しない」
「ね、お願い、先っぽだけでいいから挿れてみようよ! ね?」
「挿れん」

 わたしに背を向け寝転んでいる夫に、夜の営みを誘っているにもかかわらず、すげなく断られてヘコんでいる妻です。前回の夜這いに引き続き、リヤーフはわたしに新しいことをさせすぎ。今までこんな情けない聖女なんていなかったと思う。絶対いなかったでしょ。
 明日はラルスに叱られる予定なのに、セックスできないなんて! 叱られ損になるじゃん! 絶対嫌だ!

「リヤーフ、しないの?」
「しない」
「体も触らない? おっぱい触ってほしいんだけどな」
「……触らん」

 今、葛藤したでしょ。わたしにはわかる。リヤーフはおっぱい好きだもんね。でも、それも我慢するわけね。
 このまま一緒に眠るか、わたしの寝室に帰るか。どうしよっかなぁ。一人で眠るのは寂しいよなぁ。でも、触ってもらえないのも寂しいんだもんなぁ。無理やり夫に跨るのも何か違う気がする。騎乗位は好きだけど、無理やりするものじゃない。無理やりされるのは嫌いじゃないけど。
 とりあえず、リヤーフの背中にぎゅうと抱きついて、胸を当ててみる。暖かくて広い背中。夫は何も言わない。匂いを嗅いでみると、前とは違う香りがする。いい匂い。夫はちょっとくすぐったそうに身じろぎする。「リヤーフ、好きだよ」と呼びかけても返事はない。

 あぁ、寂しいなぁ。

 胸がギュッて締めつけられる感じ。わたしを拒絶する夫もいるだろうとは思っていたけれど、こうもはっきり拒まれるとやっぱりつらい。わたしにはセックスしかないから、それを奪われると途端に心細くなる。どうやって好意を示せばいいのかわからない。言葉で示したって、きっと彼は素直に受け取ってくれないもの。
 からかってごめんね。
 嫉妬してくれたのかな、なんてうぬぼれてごめんね。
 わたしなんかで、ごめんね。
 結婚したくなかったのに、わたしなんかが妻で、本当にごめん。ごめんなさい。

「リヤ、フ、ごめ……」

 突然、リヤーフが起き上がる。薄暗いランプの中、ぼんやりと夫を見上げる。彼は、困っているような、怒っているような、よくわからない表情をしている。
「泣くな、バカ」と、優しい声が降ってくる。指が、わたしの涙を拭う。夫の指が、震えている。

「謝るな。俺も悪い。その、お前を抱きたくないわけではないんだ」
「じゃあ、せめてわたしに触れてよ。こんなに近くにいるのに、触ってもらえないなんて、嫌だよ。つらいよ。抱き合って眠りたいよ」

 リヤーフの姿がぼやける。抱き合って眠ることもできないなら、キスもできないなら、わたし、何のためにここにいるの? 何のための妻なの? 聖女なの?
 ハァと短くリヤーフは溜め息をついて、再度布団に潜り込む。今度はわたしのほうを向いて。夫はぎゅうと抱きしめてくれる。そうして、重ねられた唇は、やっぱり震えている。

「不安にさせたのは、悪かった。だが、今のお前を抱くわけにはいかない」
「ええっ、何で!? 今夜はめっちゃヤル気満々なのに……!」
「お前なぁ……」

 リヤーフは呆れたような声でわたしを抱き寄せる。前は体がつらかったけど、ラルスから花茶を貰って飲んだし、体力は回復しているんだけどなぁ。さすがに夜通しは無理っぽいけど。

「お前に嘘をつかせたまま、抱きたくはない」

 ごめん、全然意味がわかんない。
 嘘? 心当たりがありすぎて、多すぎてわかんないや。

「嘘って、何?」
「気づいていないのなら、気づくまではお前を抱かない」
「ええー! そんなぁ」
「嘘をやめるまで、こうして眠ってやる」
「めっちゃ硬いのに?」
「かっ確認するな、バカ」

 行儀の悪いわたしの足が、勝手にリヤーフの下腹部に触れて確認済みである。カチンコチンなのに我慢して何になるんだろう? わけがわかんない。リヤーフはドMなの?

「めっちゃ硬い」
「あ、当たり前だ。妻に反応して何が悪い」
「じゃあ、何で妻を抱かないの?」
「大事にした……いや、言わん。自分で考えろ」

 大事にしたい? 予想外の返答に、驚いてしまう。大事にしたいから抱かない? ええと、やっぱり全然わからないんだけど。
 大事にしたいから抱いてくれるんじゃないの? わたしたちは付き合い始めの高校生カップルじゃなくて、夫婦なんだよ? 大事にしたいから手を出さないなんて、納得できない。
「納得できないよー」とリヤーフの腕の中でジタバタしてみる。けれど、夫の考えは変わらない。

「もう寝るぞ。あぁそうだ。朝も咥えるなよ」
「えぇぇ……ダメ?」
「当たり前だ」
「じゃあ、リヤーフもおっぱい触らない?」
「……んん、ああ」

 いや、めっちゃ悩んだじゃん。触りたいくせに。意地っ張りなんだから。
 嫌がる人を無理やり押し倒す趣味のないわたしは、大人しくリヤーフの胸元を舐める。「バカ」とか「くすぐったい」と言われても、キスマークをつけるのをやめない。バラーやサーディクに見られて、からかわれてしまえ。そんな悪戯心だ。でも、褐色の肌にキスマークは目立たないだろうな。強く吸っちゃえ。

「お前はバカか」

 んもう、人をバカバカ言って、リヤーフは酷い。わたし、そんなにバカかなぁ? まぁ、リヤーフの機嫌を損ねたのは痛恨のミスだったよね。あれはわたしが考えなしだったなぁ。
 うぅ、眠くなってきた。暖かいのは好き。こっちに来てから、夫と眠るのが好きになってしまった。気持ちいいんだもん。リヤーフが髪を撫でてくれるのも、好きだなぁ。

「……リヤーフ、好き」
「だからそれを……ろと言って……」

 夫と話をしている最中に寝落ちてしまうの、癖になりそう。気持ちいい。何だかいい夢見られそうだし。

「ん……いー、匂い」

 朝、早く起きて、リヤーフが眠っている間にパクッと咥えちゃおう。そうしよう。挿れちゃったら、抜けとは言われないよね、たぶん。
 そんな野望を胸に抱きながら、わたしは寝入ってしまった。ぐっすりと。そりゃもう、ぐっすりと。



「……うっそぉ!」

 目が覚めたら、リヤーフはベッドにいなかった。痛恨のミス連発に、さすがのわたしも落ち込んでしまう。緑の国の方たち、ごめんなさい。今回はフェラすらできませんでした……! 命の実はもうちょっとお待ちください!

「リヤーフ!?」

 慌てて居室へ向かうと、リヤーフはテーブルにプレゼントを並べて唸っていた。わたしに気づいて隠そうとしたけど、遅い。まだ悩んでいたのね。
 ソファに座るリヤーフに抱きつき、「おはよう」と頬にキスをする。夫は嫌がることなく、されるがままの状態でテーブルの上を睨んでいる。

「お前、濃い色が好きだと言ったな?」
「うん。あ、これ可愛い。簪?」

 先端に深い森のような緑の石がついた、二又の簪のようなもの。Uピンが大きくなった感じ。金色の簪は割と重い。ピンの太くなっている部分に何か文字が彫ってあるけど、こっちの文字は読めないや。「髪留めだ」とリヤーフが説明してくれる。じゃあやっぱり簪なんじゃないかな。
 髪をくるくるとまとめ、差してみる。リヤーフはしばしわたしを見つめたあと「やる」とだけ発した。たぶん、似合っているんだろうな。彼はそんなこと言わないけど。そういえば、まだ名前すら言ってもらってないけど。

「ありがと。リヤーフの瞳の色と同じだね」
「ん」
「選んでくれてありがとう」
「……ああ。首飾りも、持っておけ」

 宝石なんていらないと思っていたけど、夫のために夫がくれたものでおしゃれするのも悪くないなぁ。そんなふうに思う。

「そういえば、文字が刻まれていたけど、なんて書いてあるの?」
「それは……今は教えん。次から文字を教えてやるから、解読しろ」
「わ、ありがとう! 知りたかったんだ、こっちの世界の文字」

 お礼を言いながら、リヤーフの唇にキスをする。セックスしなかったんだから、いちゃいちゃはしておかないとね。命の実のために。リヤーフの上に跨って、何度もキスをする。
 でも、本心ではめっちゃ溜め息ついてる。
 あぁあ、したかったなぁ、セックス! リヤーフとはまだしていないもんなぁ。
 なのに、帰ったらラルスに叱られるんだもん、割に合わないよー! 次回こそは! できるように頑張ろ!


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