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聖女の休日
065.ラルスの悲嘆
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大聖樹会が終わるまで、ラルスは総主教の部屋の前で主の帰りを待っていた。武官や側付きの聖職者に伴われて総主教が現れたのは、大聖樹会が終わって何刻もたってからだ。
「聖女様のことでお話したいことがございます」と頭を下げると、総主教はラルスを部屋に招き入れ、人払いをした。
「黄の国の者が聖女様に危害を加えました」
「黄の国……というのは、確かか?」
「首謀者はエレミアス。黄の国出身の武官か文官と、宮女官レナータも加担しているようです」
「……はぁ。愚かなことを」
総主教は奥の椅子に座り、ラルスは机の前に立つ。総主教は頭を抱え、溜め息をつく。「子細を」と求められたので、ラルスは順を追って総主教に見聞きしたことをそのまま報告する。もちろん、自らの所業も隠すことなく。
「……そうか。お前が聖女と交わったか」
「罪は罪。罰を受ける覚悟はもとより決めております」
そう、最初から。何もかも――黒翼地帯への追放すらも、覚悟の上だ。
「査問会を招集しよう。お前とエレミアス、関わった者たちへの処分は、査問会をもって言い渡す」
「かしこまりました」
「宮文官として速やかに引き継ぎを行ない、今後一切の聖女宮への立ち入りを禁ずる。自宅にて、査問会の招集を待つがいい」
「かしこまりました」
ラルスは表情を変えずに総主教の指示に従う姿勢を見せる。そんなラルスを見て、総主教は溜め息をつく。
「お前は、私のように欲に忠実にはならんのだな」
「……いいえ。業火に身を焼かれる思いでございます」
「ふむ。物静かだった先代聖女とは違い、溌剌とした娘であったな」
総主教の言葉に、「聖女様にお会いしたのですか」とラルスは驚く。「レナータは私の遠縁の者だ」という返答に、ラルスはすべてを理解した。道理で、エレミアスが必ず宮女官にしろと脅してきたわけだ。おそらく、総主教に恩を売ろうとしたのだろう。何もかもが浅慮な男だ。そこまで、総主教を見くびるとは。
「ここから先は私の個人的な……大変個人的な独り言なのだが」
総主教は探るような視線でラルスを見上げる。居心地の悪い視線であったが、ラルスは身じろぎすることなくそれを受け止める。
「紫の国の聖樹殿で黒い瞳の子どもが保護されたと聞いたとき、私は大変驚いて、慌ててその子どもの素性を調べさせたものだ。聖女の子どもではないか、と」
前の聖女が自分に内緒で密かに生んだ子どもではないか、と総主教は疑ったらしい。しかし、そうではなかった。子どもの髪は金ではなく銀色。どこの誰の血を引いているのかもわからない、憐れな子だ。誰にも似ていない色に驚いた両親が捨てたのだろう、と聖職者たちは結論づけたという。
「銀色の髪、と聞いて、驚いたのは先代聖女のほうだった。彼女は閲覧禁止の本棚から、とある絵を持ち出して私に見せてくれた。彼女の前の聖女……そう、黒翼地帯に拐われたという聖女が描いたのは、銀色のヒヒのような、美しい魔物だ」
「銀色の、ヒヒ……」
「先々代の聖女が拐われる前に、銀色の魔物は何度も宮を訪れていたようだ。聖樹での目撃情報も記録に残っている」
二代前の聖女を拐ったのが「銀色の」魔物だったことはラルスも知らなかった。おそらく、大多数の聖職者が知らないことだ。ただの魔物だと伝え聞いていたからだ。
「これは私の勝手な想像だが」と前置きをした上で、総主教はラルスを見つめる。
「黒の刺繍が現れた先々代の聖女は、黒翼地帯で銀色のヒヒの妻になったのだろう。そして、おそらく、子をなした。銀色の髪と黒色の瞳を持つ子どもを」
「まさか……まさかそんなことが」
「もちろん、私の憶測だ。根拠は何一つない。それに、二代前の聖女はもう亡くなっているだろう。可能性があるとしたら、その子どもが、魔物と聖女の血を引く子孫なのではないかということだけだ」
ラルスは顎に指をやり、撫でる。確かに今の聖女も、歴代聖女の誰かの血ではないかと疑っていた。ラルスもそれを疑った。しかし、黒翼地帯の魔物までは考えが至らなかった。
「その子どもが紫の国にいる間、侵入してくる魔物の数が減っていたことを考えると、間違った考えでもないのだろうと思えた。それは前の聖女も同じ考えだ。そして、彼女がその子どもを見てみたいと言うので、宮文官として迎え入れることにしたんだ。ラルス、お前を」
そんなことがあるわけがない、と否定したい自分。それならば好都合だ、と肯定したい自分。ラルスは葛藤する。何が本当なのか、わからなくなってくる。
「今の聖女の婚礼衣装に黒の刺繍が現れたと聞いたとき、皆、一様に魔物の侵略と聖女の連れ去りを考えていたが、私は違った。おそらくお前が聖女と交わるのだろうと」
「ま、待ってください、総主教様。私は」
「そう。お前が黒の君であっても、七聖教は決して認めないだろう。八人目の夫など必要ない、七国の関係が揺らぐ、そういう考えの者が多い。……私も同じだ。期待はするな」
期待など最初からしていない。夫になることも、子をなすことも、考えていない。罰を受ける覚悟だけしてきた。だからこそ、総主教の言葉が重く深くラルスの心を抉る。
「一度の過ちだけでとどめておくことだ。姦淫した罪は、孕ませた罪よりは軽い。聖女に命の実を食べさせ孕ませたわけでもないのだから、極刑は免れるよう取り計らってやる」
総主教は「黒」の可能性を知りながら、それを潰したいのだ。七聖教という大きなものを守るために。ラルス一人の愛を犠牲にして。
「お前には感謝をしているんだ、ラルス。先代聖女のために尽力してくれていたことも、彼女を守っていてくれていたことも、私は高く評価している」
「……ありがとう、ございます」
「お前が宮文官でなければ、私が前の聖女の臨終を看取ることはできなかっただろう。彼女が安らかに逝けたのはお前のおかげだ。だから、私は正直に言うと……聖女宮からお前を追い出したくはないのだ」
エレミアスが絡んでいなければ、総主教はラルスの罪を握り潰すつもりだったのだろう。それができる人間だ。
ただ、ラルスは知っている。そういう権力を持つ者は、同時に、どんなことでも捏造できてしまえるのだということを。
「ラルス。大人しくしているんだ。そうすれば、いずれまた呼び戻してやる」
いずれ。いずれ、とは、いつだ。何年だ。何十年だ。その間、愛しい人の温もりを感じることなく、いつとも知れぬ再会を夢見ていろと言うのか。今日のこの日を胸のうちにしまったままで。思い出にしたままで。
ラルスの瞳が暗く濁る。
総主教はどんなに願い出ても夫にはなれなかった。それをラルスにも強いるつもりなのだ。自分と同じように、夫にはなれない道を強要するつもりなのだ。
「……かしこまりました」
ラルスは了承する。抗うことはない。覚悟はできていた。最初から、聖女のそばを離れるつもりだった。
いずれ呼び戻されるかもしれない、という遠い未来の約束があるだけでも幸運なことだ。それは、生きる理由になる。叶えられることがなくとも。
「査問会の招集を待て」
「はい。それでは、失礼いたします」
ラルスは総主教の部屋から退室する。そして、聖女宮へ戻ろうとして、ふらつき、壁に手をつく。
「……まさか」
自分が「黒」の可能性がある。しかし、それを公称することはできない。聖女のそばにいることも、子をなすことも叶わない。
どれだけ聖女を愛しても、どれだけ聖女を望んでも、彼女の人生の一部ですら手に入れられない。
「あぁ……」
壁をずるずると滑り、ラルスは床に崩れ落ちる。胸が痛い。苦しい。息ができない。浅く呼吸をしながら、気づかぬうちに涙を流しながら、ラルスはうわ言のように聖女の名前を口にする。
「イズミ様……イズミ様……」
そばにはいられない。笑顔を見ることも、笑い声を聞くことも、湯上がりの匂いを嗅ぐことも、柔らかな肌に触れることも、甘い舌を絡ませることも、もうできない。もう手が届かない。
覚悟を決めたはずだった。聖女の幸せのためなら宮文官の職を失っても構わない、追放されても仕方ない、そう考えていたはずだった。実際に失いそうになると、張り裂けそうなほどに心が痛む。彼女と離れたくないという欲も芽生える。
「あぁ……いっそ」
いっそ、奪ってしまえたら。ここから、二人で逃げてしまえたら。
考えて、ラルスは首を左右に振る。愛情深く慈悲深い聖女が、七人の夫たちとの別れを選ぶことはないだろう。聖女はこの場に残るはずだ。聖女宮で夫たちとの生活を続けるはずだ。
ラルスはただ一人、聖女宮を去るのだ。
「……行かなければ」
ラルスは壁を支えに立ち上がり、よろよろとした足取りで歩き出す。
トマスに引き継ぎをしなければならない。一月分の仕事しか教えていないのだ。他にも教えるべきことが山のようにある。テレサとスサンナに聖女を任せる上、トマスの補佐を頼まなければならない。老いた宮女官たちには悪いが、若い宮女官レナータを解雇しなければならない。
ラルスはポケットに手を入れ、白い果実の、つるつるとした表皮を撫でる。奪わずとも、逃げずとも、聖女の愛を留めおくことができる手段は、もう一つしか残されていない。
ただ、それを選択すると、確実に黒翼地帯へ追放される。総主教も断言していたことを、ラルスは覚えている。しかし、聖女のそばにいられないのなら、その手段でさえ美しく見えるものだ。
死ぬ道を選ぶ代わりに、聖女の中に自分の子を宿らせる――許されるものなら、その道を選んでみたい。ラルスは命の実を握りしめる。
「イズミ、様……っ」
ラルスはゆっくりとした足取りで聖女宮へと向かう。その瞳は、本人も気づかぬうちに、闇のように昏く濁っていた。
「聖女様のことでお話したいことがございます」と頭を下げると、総主教はラルスを部屋に招き入れ、人払いをした。
「黄の国の者が聖女様に危害を加えました」
「黄の国……というのは、確かか?」
「首謀者はエレミアス。黄の国出身の武官か文官と、宮女官レナータも加担しているようです」
「……はぁ。愚かなことを」
総主教は奥の椅子に座り、ラルスは机の前に立つ。総主教は頭を抱え、溜め息をつく。「子細を」と求められたので、ラルスは順を追って総主教に見聞きしたことをそのまま報告する。もちろん、自らの所業も隠すことなく。
「……そうか。お前が聖女と交わったか」
「罪は罪。罰を受ける覚悟はもとより決めております」
そう、最初から。何もかも――黒翼地帯への追放すらも、覚悟の上だ。
「査問会を招集しよう。お前とエレミアス、関わった者たちへの処分は、査問会をもって言い渡す」
「かしこまりました」
「宮文官として速やかに引き継ぎを行ない、今後一切の聖女宮への立ち入りを禁ずる。自宅にて、査問会の招集を待つがいい」
「かしこまりました」
ラルスは表情を変えずに総主教の指示に従う姿勢を見せる。そんなラルスを見て、総主教は溜め息をつく。
「お前は、私のように欲に忠実にはならんのだな」
「……いいえ。業火に身を焼かれる思いでございます」
「ふむ。物静かだった先代聖女とは違い、溌剌とした娘であったな」
総主教の言葉に、「聖女様にお会いしたのですか」とラルスは驚く。「レナータは私の遠縁の者だ」という返答に、ラルスはすべてを理解した。道理で、エレミアスが必ず宮女官にしろと脅してきたわけだ。おそらく、総主教に恩を売ろうとしたのだろう。何もかもが浅慮な男だ。そこまで、総主教を見くびるとは。
「ここから先は私の個人的な……大変個人的な独り言なのだが」
総主教は探るような視線でラルスを見上げる。居心地の悪い視線であったが、ラルスは身じろぎすることなくそれを受け止める。
「紫の国の聖樹殿で黒い瞳の子どもが保護されたと聞いたとき、私は大変驚いて、慌ててその子どもの素性を調べさせたものだ。聖女の子どもではないか、と」
前の聖女が自分に内緒で密かに生んだ子どもではないか、と総主教は疑ったらしい。しかし、そうではなかった。子どもの髪は金ではなく銀色。どこの誰の血を引いているのかもわからない、憐れな子だ。誰にも似ていない色に驚いた両親が捨てたのだろう、と聖職者たちは結論づけたという。
「銀色の髪、と聞いて、驚いたのは先代聖女のほうだった。彼女は閲覧禁止の本棚から、とある絵を持ち出して私に見せてくれた。彼女の前の聖女……そう、黒翼地帯に拐われたという聖女が描いたのは、銀色のヒヒのような、美しい魔物だ」
「銀色の、ヒヒ……」
「先々代の聖女が拐われる前に、銀色の魔物は何度も宮を訪れていたようだ。聖樹での目撃情報も記録に残っている」
二代前の聖女を拐ったのが「銀色の」魔物だったことはラルスも知らなかった。おそらく、大多数の聖職者が知らないことだ。ただの魔物だと伝え聞いていたからだ。
「これは私の勝手な想像だが」と前置きをした上で、総主教はラルスを見つめる。
「黒の刺繍が現れた先々代の聖女は、黒翼地帯で銀色のヒヒの妻になったのだろう。そして、おそらく、子をなした。銀色の髪と黒色の瞳を持つ子どもを」
「まさか……まさかそんなことが」
「もちろん、私の憶測だ。根拠は何一つない。それに、二代前の聖女はもう亡くなっているだろう。可能性があるとしたら、その子どもが、魔物と聖女の血を引く子孫なのではないかということだけだ」
ラルスは顎に指をやり、撫でる。確かに今の聖女も、歴代聖女の誰かの血ではないかと疑っていた。ラルスもそれを疑った。しかし、黒翼地帯の魔物までは考えが至らなかった。
「その子どもが紫の国にいる間、侵入してくる魔物の数が減っていたことを考えると、間違った考えでもないのだろうと思えた。それは前の聖女も同じ考えだ。そして、彼女がその子どもを見てみたいと言うので、宮文官として迎え入れることにしたんだ。ラルス、お前を」
そんなことがあるわけがない、と否定したい自分。それならば好都合だ、と肯定したい自分。ラルスは葛藤する。何が本当なのか、わからなくなってくる。
「今の聖女の婚礼衣装に黒の刺繍が現れたと聞いたとき、皆、一様に魔物の侵略と聖女の連れ去りを考えていたが、私は違った。おそらくお前が聖女と交わるのだろうと」
「ま、待ってください、総主教様。私は」
「そう。お前が黒の君であっても、七聖教は決して認めないだろう。八人目の夫など必要ない、七国の関係が揺らぐ、そういう考えの者が多い。……私も同じだ。期待はするな」
期待など最初からしていない。夫になることも、子をなすことも、考えていない。罰を受ける覚悟だけしてきた。だからこそ、総主教の言葉が重く深くラルスの心を抉る。
「一度の過ちだけでとどめておくことだ。姦淫した罪は、孕ませた罪よりは軽い。聖女に命の実を食べさせ孕ませたわけでもないのだから、極刑は免れるよう取り計らってやる」
総主教は「黒」の可能性を知りながら、それを潰したいのだ。七聖教という大きなものを守るために。ラルス一人の愛を犠牲にして。
「お前には感謝をしているんだ、ラルス。先代聖女のために尽力してくれていたことも、彼女を守っていてくれていたことも、私は高く評価している」
「……ありがとう、ございます」
「お前が宮文官でなければ、私が前の聖女の臨終を看取ることはできなかっただろう。彼女が安らかに逝けたのはお前のおかげだ。だから、私は正直に言うと……聖女宮からお前を追い出したくはないのだ」
エレミアスが絡んでいなければ、総主教はラルスの罪を握り潰すつもりだったのだろう。それができる人間だ。
ただ、ラルスは知っている。そういう権力を持つ者は、同時に、どんなことでも捏造できてしまえるのだということを。
「ラルス。大人しくしているんだ。そうすれば、いずれまた呼び戻してやる」
いずれ。いずれ、とは、いつだ。何年だ。何十年だ。その間、愛しい人の温もりを感じることなく、いつとも知れぬ再会を夢見ていろと言うのか。今日のこの日を胸のうちにしまったままで。思い出にしたままで。
ラルスの瞳が暗く濁る。
総主教はどんなに願い出ても夫にはなれなかった。それをラルスにも強いるつもりなのだ。自分と同じように、夫にはなれない道を強要するつもりなのだ。
「……かしこまりました」
ラルスは了承する。抗うことはない。覚悟はできていた。最初から、聖女のそばを離れるつもりだった。
いずれ呼び戻されるかもしれない、という遠い未来の約束があるだけでも幸運なことだ。それは、生きる理由になる。叶えられることがなくとも。
「査問会の招集を待て」
「はい。それでは、失礼いたします」
ラルスは総主教の部屋から退室する。そして、聖女宮へ戻ろうとして、ふらつき、壁に手をつく。
「……まさか」
自分が「黒」の可能性がある。しかし、それを公称することはできない。聖女のそばにいることも、子をなすことも叶わない。
どれだけ聖女を愛しても、どれだけ聖女を望んでも、彼女の人生の一部ですら手に入れられない。
「あぁ……」
壁をずるずると滑り、ラルスは床に崩れ落ちる。胸が痛い。苦しい。息ができない。浅く呼吸をしながら、気づかぬうちに涙を流しながら、ラルスはうわ言のように聖女の名前を口にする。
「イズミ様……イズミ様……」
そばにはいられない。笑顔を見ることも、笑い声を聞くことも、湯上がりの匂いを嗅ぐことも、柔らかな肌に触れることも、甘い舌を絡ませることも、もうできない。もう手が届かない。
覚悟を決めたはずだった。聖女の幸せのためなら宮文官の職を失っても構わない、追放されても仕方ない、そう考えていたはずだった。実際に失いそうになると、張り裂けそうなほどに心が痛む。彼女と離れたくないという欲も芽生える。
「あぁ……いっそ」
いっそ、奪ってしまえたら。ここから、二人で逃げてしまえたら。
考えて、ラルスは首を左右に振る。愛情深く慈悲深い聖女が、七人の夫たちとの別れを選ぶことはないだろう。聖女はこの場に残るはずだ。聖女宮で夫たちとの生活を続けるはずだ。
ラルスはただ一人、聖女宮を去るのだ。
「……行かなければ」
ラルスは壁を支えに立ち上がり、よろよろとした足取りで歩き出す。
トマスに引き継ぎをしなければならない。一月分の仕事しか教えていないのだ。他にも教えるべきことが山のようにある。テレサとスサンナに聖女を任せる上、トマスの補佐を頼まなければならない。老いた宮女官たちには悪いが、若い宮女官レナータを解雇しなければならない。
ラルスはポケットに手を入れ、白い果実の、つるつるとした表皮を撫でる。奪わずとも、逃げずとも、聖女の愛を留めおくことができる手段は、もう一つしか残されていない。
ただ、それを選択すると、確実に黒翼地帯へ追放される。総主教も断言していたことを、ラルスは覚えている。しかし、聖女のそばにいられないのなら、その手段でさえ美しく見えるものだ。
死ぬ道を選ぶ代わりに、聖女の中に自分の子を宿らせる――許されるものなら、その道を選んでみたい。ラルスは命の実を握りしめる。
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