召喚されて声を奪われた聖女ですが、何としてでも幸せになります!

星宮歌

文字の大きさ
21 / 68
第一章 望まぬ聖女召喚

第十八話 責任重大

しおりを挟む
 ルーナに厨房へと案内してもらった私は、『聖女様』の肩書きの下、中を見学させてもらえることとなった。そして……。


「申し訳ありません。今、調味料はほとんど存在しないのです」


 調味料が、ない……?


 料理長という人に、どうにか身振り手振りでどんな食材があるのかの説明をしてもらえば、野菜や肉は多少あれど、調味料となるものが少ないということが判明した。
 そして、なぜこんなことになっているのかというと、そこにはやはり瘴気が大きく影響しており、もう、この世界では海も瘴気に覆われていて、新たに塩を採ることができないのだという話だった。


 私に出されていた料理は、薄くはあったけど、塩味がちゃんとあった……。


 私が来たことによって、瘴気が止まり、なおかつ、もしかしたら瘴気がこのまま私の力で浄化されるかもしれない。そうなれば、また、様々な調味料を使うことができるかもしれない。
 そんな希望が私には寄せられているのだということを聞いて、思わず逃げ出したくなってしまう。

 瘴気の被害が甚大だということは何となく教えてもらってはいた。ただ、その規模がここまでのものだとは全く思ってもみなかったのだ。
 城の中に菜園があるのも、補修が間に合っていないのも、そんな情報を聞いた後では納得するしかない。それだけ、衣食住に関する世界全体の問題が深刻化していたのだ。もはや、人類が滅ぶ瀬戸際で、必死に掴み取った蜘蛛の糸が、私を手繰り寄せたというわけだ。


(責任、重大じゃない……)


 私自身は、確かに異世界から誘拐されて声を奪われた被害者かもしれない。そして、私を召喚したアルヴァンという人達は、誘拐犯という位置づけで間違いはない。
 しかし、私を召喚しなければいけない事情があまりにも大きすぎた。国を、世界を救うために、聖女を召喚しなければならなかったのだ。

 呆然と声は出なくとも現状を嘆いてみたものの、瘴気をどうにかしないことには、食料問題は解決しないと理解できた。そして、その瘴気をどうにかできるのは私だけらしいということも分かってしまった。
 具体的にどんな力があるのかは分からない。しかし、瘴気を退けない限り、この世界で待つ私の運命は死しかない。抗わなければ、私だけではなく、この世界の全ての人が死に絶えるだけなのだ。


「聖女様、差し支えなければ、聖女様のお好きなものをお伺いしても? あまりにも食べないのは、やはり心配でして……」


 料理長は、私があまりにも食事をしないことをとても心配してくれていた。貴重品であろう塩を入れて、必死に工夫を凝らして調理してくれていた。
 肉が固かったのは、そもそも家畜への餌すらままならないから。スープが薄味だったのは、塩があまりにも貴重品だったから。サラダの匂いがキツイのは、恐らく品種改良をする余裕がなく、青臭さがどうしても残ってしまうから。
 ただ、パンだけは、発酵させるという技術が発展していないだけだったらしく、これは私でも何とかなるかもしれない。

 そんなことを考えながらも、私はこの時初めて、聖女というものへと向き合った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする

白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、 12歳の時からの日常だった。 恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。 それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。 ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。 『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、 魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___ (※転生ものではありません) ※完結しました

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

さよならをあなたに

キムラましゅろう
恋愛
桔梗の君という源氏名を持つ遊君(高級娼婦)であった菫。 たった一人、州主の若君に執着され独占され続けて来たが、 その若君がとうとう正妻を迎える事になった。 と同時に菫は身請けをされるも、彼の幸せを願い自ら姿を消す覚悟を決める。 愛していても、愛しているからこそ、結ばれる事が出来ない運命もある……。 元婚約者としての矜持を胸に抱き、彼の人生から消え、そして自らの人生をやり直す。そんな菫の物語。 ※直接的な性描写はないですが行為を匂わす表現が作中にあります。 苦手な方はご自衛ください。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします

天宮有
恋愛
ラクード国の聖女シンシアは、新しい聖女が優秀だからという理由でリアス王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 ラクード国はシンシアに利用価値があると言い、今後は地下室で暮らすよう命令する。 提案を拒むと捕らえようとしてきて、シンシアの前に竜人ヨハンが現れる。 王家の行動に激怒したヨハンは、シンシアと一緒に他国で暮らすと宣言した。 優秀な聖女はシンシアの方で、リアス王子が愛している人を新しい聖女にした。 シンシアは地下で働かせるつもりだった王家は、真実を知る竜人を止めることができない。 聖女と竜が消えてから数日が経ち、リアス王子は後悔していた。

記憶喪失を理由に婚約破棄を言い渡されるけど、何も問題ありませんでした

天宮有
恋愛
 記憶喪失となった私は、伯爵令嬢のルクルらしい。  私は何も思い出せず、前とは違う言動をとっているようだ。  それを理由に婚約者と聞いているエドガーから、婚約破棄を言い渡されてしまう。  エドガーが不快だったから婚約破棄できてよかったと思っていたら、ユアンと名乗る美少年がやってくる。  ユアンは私の友人のようで、エドガーと婚約を破棄したのなら支えたいと提案してくれた。

処理中です...