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第一章 望まぬ聖女召喚
第十九話 困難なこととルーナ
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ひとまず、パンの発酵に関しては、私は全く自信がない。酵母を作らなければならないことくらいは知っているものの、簡単にできるものだったかと問われるとかなり時間がかかること、そして、その酵母をどのくらい生地に混ぜたら良いのかも曖昧だ。
ただでさえ食料不足に喘いでいる中、万が一食材を無駄にしてしまったらと思うと、手が出せず、料理長の質問には果物といくつかの野菜を指差すことで解答とさせてもらった。
あと、奇跡的に玉ねぎがあったので、肉を玉ねぎのすり下ろしに漬け込んで柔らかくする方法を教えることだけはできた。
美味しくできるかは分からないが、少なくとも少しは柔らかくなるはずだ。
ルーナと出歩く時は、いつも辺りをキョロキョロと確認していたものの、今はそんな気分にもなれずにただただルーナに手を引かれるまま歩く。
考えることはただ一つ。瘴気と聖女に関してだ。
正直に言えば、あまりにも重い。逃げられるものなら逃げ出してしまいたい。ただ、残念ながら、今の私には逃げ場がそもそもなかった。この世界に居る限り、瘴気の問題に向き合わなければならないというこの状況は、恐ろしいまでのプレッシャーだった。
今更だけど、聖女について教えてほしいと願ってみる?
そう、チラリと考えるものの、それを手振り身振りで伝えられる自信は全くない。やはり、文字の勉強が最優先かと考えたその矢先、ふいに、聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「? せーじょ様?」
その場に突如として立ち止まった私に、手を引いていたルーナが訝しげにこちらを眺める。ただ、やはり、私はその場から動けなかった。
(あの時の、木琴の音……)
素朴で穏やかなメロディ。曲そのものは初めて聞く異世界のものではあるものの、それでもやはり、音源を探さずにはいられない。
恐らく、今までの場所では聞こえることのない場所を通っていただけで、今日はたまたま厨房という新しい場所へ向かったおかげで、この音に巡り会えたのだろう。
「うーん、あっ! このおとがきになるの!?」
立ち止まったまま、耳を澄ませてどちらから響いている音なのか確認していると、ルーナが的確に私の求めているものを当ててくる。
……多分、ルーナは私が思っていたよりも年上だろうね。
幼子の演技をしているのは、きっと、私がそのくらいの年齢だと見られているからこそだろう。同じくらいの年頃に見える者と仲良くなれば、少しは私が心を開くかもしれないとか、そういった思惑が透けて見える。
ルーナの違和感は、今までにもいくつも存在した。駄々をこねるような態度を取ったのは、初めて出会った時だけ。それも、母親とされている侍女に対してのみ。そして、チラホラと見られる察しの良さと、ひっそりと行われる気遣い。
顔立ちは確かに幼いものの、それでも、私はルーナが実は私よりも年上だと聞かされても違和感を覚えない程度には、ルーナの幼子としての演技に違和感を覚えていた。そして……。
「このおとね! きっと、だいごおーじでんかなの! いってみる?」
こんな風に気軽に行き先の変更が出来て、それをさりげなく護衛騎士に指示している様子を見るに、きっとルーナの地位はそれなりに高い。
とはいえ、それを指摘することもできないため、私は、ルーナの提案にただ頷くだけだった。
ただでさえ食料不足に喘いでいる中、万が一食材を無駄にしてしまったらと思うと、手が出せず、料理長の質問には果物といくつかの野菜を指差すことで解答とさせてもらった。
あと、奇跡的に玉ねぎがあったので、肉を玉ねぎのすり下ろしに漬け込んで柔らかくする方法を教えることだけはできた。
美味しくできるかは分からないが、少なくとも少しは柔らかくなるはずだ。
ルーナと出歩く時は、いつも辺りをキョロキョロと確認していたものの、今はそんな気分にもなれずにただただルーナに手を引かれるまま歩く。
考えることはただ一つ。瘴気と聖女に関してだ。
正直に言えば、あまりにも重い。逃げられるものなら逃げ出してしまいたい。ただ、残念ながら、今の私には逃げ場がそもそもなかった。この世界に居る限り、瘴気の問題に向き合わなければならないというこの状況は、恐ろしいまでのプレッシャーだった。
今更だけど、聖女について教えてほしいと願ってみる?
そう、チラリと考えるものの、それを手振り身振りで伝えられる自信は全くない。やはり、文字の勉強が最優先かと考えたその矢先、ふいに、聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「? せーじょ様?」
その場に突如として立ち止まった私に、手を引いていたルーナが訝しげにこちらを眺める。ただ、やはり、私はその場から動けなかった。
(あの時の、木琴の音……)
素朴で穏やかなメロディ。曲そのものは初めて聞く異世界のものではあるものの、それでもやはり、音源を探さずにはいられない。
恐らく、今までの場所では聞こえることのない場所を通っていただけで、今日はたまたま厨房という新しい場所へ向かったおかげで、この音に巡り会えたのだろう。
「うーん、あっ! このおとがきになるの!?」
立ち止まったまま、耳を澄ませてどちらから響いている音なのか確認していると、ルーナが的確に私の求めているものを当ててくる。
……多分、ルーナは私が思っていたよりも年上だろうね。
幼子の演技をしているのは、きっと、私がそのくらいの年齢だと見られているからこそだろう。同じくらいの年頃に見える者と仲良くなれば、少しは私が心を開くかもしれないとか、そういった思惑が透けて見える。
ルーナの違和感は、今までにもいくつも存在した。駄々をこねるような態度を取ったのは、初めて出会った時だけ。それも、母親とされている侍女に対してのみ。そして、チラホラと見られる察しの良さと、ひっそりと行われる気遣い。
顔立ちは確かに幼いものの、それでも、私はルーナが実は私よりも年上だと聞かされても違和感を覚えない程度には、ルーナの幼子としての演技に違和感を覚えていた。そして……。
「このおとね! きっと、だいごおーじでんかなの! いってみる?」
こんな風に気軽に行き先の変更が出来て、それをさりげなく護衛騎士に指示している様子を見るに、きっとルーナの地位はそれなりに高い。
とはいえ、それを指摘することもできないため、私は、ルーナの提案にただ頷くだけだった。
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