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第一章 どうして魔族なんかに……

第二十話 調査結果(ライト視点)

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「おかしい……。どうしても、出てこない」


 オリアナ様が体調を崩して、ちょっとした嬉しいハプニングに見舞われてから一週間。
 僕は、調査結果の書類を睨みながら、これがどういう意味なのかを必死に考える。

 オリアナ様と出掛けて、遭遇することとなったあの男の名前は、ゲイン・ログデン。隣国の貴族子息であり、色々と黒い噂のある貴族家の一員だ。
 ただし、どんなに調査をしても、オリアナ様との接点が分からない。オリアナ様がゲインの居る国に訪れたことはないし、ゲインも今回始めて魔族の国に来たようだった。


「明らかに、オリアナ様はあの男を恐れていた。でも、気配に敏いオリアナ様が、苦手とする人間の気配も読めないとは思えない……」


 初対面でなければあり得ないと思える状況と、初対面ではあり得ない状況とが重なるという不可思議な状況。
 オリアナ様とゲインが対面する場には僕も居たものの、あの男が気配を遮断するような何かをしていた形跡はなかったはずなのだ。
 そうなると、初対面だった、ということになってしまうのだが、あのオリアナ様の怯えようは、一朝一夕の出来事で起こるものではないと思えた。


「それに……多分、オリアナ様のトラウマの原因じゃないか、とも思うんだよね……」


 こればかりは、ただの直感だ。しかし、これが外れているとは、どうしても思えない。


「……若様。どうなさいますか?」

「うん、調査は続行で、ついでに弱みも握ってきて」

「はっ」


 背後にじっと佇む人影へ命じると、それは即座に姿をくらます。


「僕に出来ることは、オリアナ様から話を聞くこと、かな?」


 最近は、どうにもオリアナ様から避けられている。恐らくは、あの日、寝ぼけて抱き着いてしまったことが恥ずかしかったのだろうとは思うが、流石に堪える。


「デリク様も、今度こそ出張に行ったらしいし……聞き出せるかどうか分からないけど、話してもらえたら良いな、くらいに思っておこうか」


 本来は、オリアナ様が倒れた日、デリク様は出張真っ直中だったはずなのだが、先方の都合で延期になっていたらしい。そして、昨日、ヴァイラン魔国を発ったとのことなので、しばらくは頼ることもできない。


「オリアナ様の憂いは全て、僕が取り除いてみせるっ」


 そのためには、まず、オリアナ様としっかり話ができる状態を作る必要がある。
 僕は、それを考えて、必死に頭を悩ませることとなった。
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