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第八章 再びリアン魔国へ
第百四十話 訪れたユーカ(ジークフリート視点)
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あの舞踏会が終わってから、ユーカに差し向けられた刺客達を尋問し、あの公爵令嬢、サーシャ・ハイヤーが裏で糸を引いていたことが判明した。サーシャは最後まで自分の関与を認めなかったが、罪は罪。しかも、魔王の片翼を害そうとした罪は重い。
ただ、本来なら一族郎党処刑という運びになるのだが、ハイヤー家は、古くから続く忠臣の家系であり、サーシャのみが暴走した結果、起こった事態であったため、ハイヤー公爵にサーシャとの縁を切らせることで、ハイヤー公爵家は伯爵家へと降格するのみの処分、サーシャ本人は、身分剥奪の上、処刑という運びになった。もちろん、処刑に関しては、ユーカが居ない時を狙って行う予定だ。
そんな忙しいあれこれをこなして、毎日のようにユーカの元へと入り浸っていた俺は、リドルから、『押し過ぎじゃないかしら?』なんて言葉を度々受けながらも幸せな日々を送っていた。きっと、そろそろプロポーズしても大丈夫だろうと思えるくらいには、ユーカの想いを感じることもできていて、不安なことなど何もなかった。
「ご主人様、ユーカお嬢様がお越しです」
「っ、入ってくれ」
ここ最近、俺達の方がユーカの元へ向かうことが多いせいか、この執務室にユーカが訪ねてくるのは久しぶりのような気がする。心が踊り出すような感覚を抱きながら、入ってきたユーカを抱き締めようと椅子から立ち上がって……すぐに、その異変に気づく。
「ユーカ!? どうした!?」
扉の外に居たユーカは、今にも泣き出しそうな表情で、何かの紙束をギュッと握り締めていた。
「ジークさん……」
不安で不安で堪らない。そんな声に、俺は慌ててユーカを部屋に迎え入れる。
「ユーカ、何があった! 誰かから、嫌なことでも言われたか?」
ユーカに変なことを吹き込む輩が、このプライベート区画に近づけるとは思っていないものの、それでもそう尋ねたくなるくらいには、ユーカの表情は暗かった。
「違います」
「じゃあ、何があったんだ?」
これは、もしかしたらハミルトンと一緒に慰めた方が良いかもしれないと、俺はメアリーに口パクで、ハミルトンを呼んでくるように指示を出す。
「この手紙……」
「手紙? ユーカ宛の手紙など、俺は知らないが……?」
そう言いながらユーカが握っているそれをそっと見てみるものの、どうやらその文字は異国のものらしい。しかも、俺の知識にない文字だ。
「この手紙は、秋元凪さんが、私に宛てた手紙だったんです」
「アキモトナギ? …………確か、初代魔王の伴侶がそんな名前だった、ような……」
まさかと思いつつも、その人物以外に『アキモトナギ』なんていう特殊な名前を思い付けずにいると、ユーカは苦し気な表情でうなずく。
「その秋元さんで間違いないです。これは、過去から未来へ、予言に則って書かれた手紙、みたいなんです」
「予言……? そういえば、初代魔王は予言者だったという説はあるが……」
「そう、みたいです。この手紙には、私の名前も書かれてます」
つまりは、ユーカ宛の初代魔王の予言書が見つかった、ということなのだろう。それは、恐らく歴史的大発見だ。
ただ、俺はそんな偉業よりも、ユーカの表情が浮かないことの方が気になった。
「どんな予言がされていたんだ?」
もしかしたら、悪い予言が書かれていて、そのせいでユーカが落ち込んでいるのかもしれない。そう思って問いかけると、ユーカはジワリとその目に涙を浮かべる。
「っ、ユ、ユーカ!? ど、どうした!? そんなに悪い予言だったのか!?」
ユーカを泣かせてしまったという事実に、俺は大慌てでユーカを抱き締めてなだめる。
「ユーカっ! っ、ジーク? ユーカに何をしたの!?」
「待て、誤解だ! 俺は、ユーカには何もしてないっ!」
懸命になだめていると、いきなり扉が開いて、走ってきたらしいハミルトンが入ってくる。そして、ユーカの様子がおかしいことに気づいて、真っ先に俺を疑ってきた。
「ハミル、さん……うぅ……」
しかし、ユーカはハミルを見ると、余計に泣いてしまう。
「ユーカ!? え、えっと、どういう状況!?」
「分からん! ただ、ユーカは予言書を見つけて混乱しているらしい」
「じゃあっ、その予言書を読めば……」
「俺の知ってる文字じゃない。ハミルは読めるか?」
「ちょっと待って……えーっと、ごめん、さっぱり」
ユーカの手元にその予言書があることを教えてやれば、ハミルもユーカの手の隙間から文字を観察していたようだが、すぐにお手上げといった様子でうなだれる。
「そ、そうだ! 気分が落ち着く飲み物でも持ってこさせようよ!」
「それだ! メアリー、頼む!」
「は、はいっ」
今はとにかく、ユーカをなだめることが先決とばかりに、俺達は急いでユーカを席に着かせるのだった。
ただ、本来なら一族郎党処刑という運びになるのだが、ハイヤー家は、古くから続く忠臣の家系であり、サーシャのみが暴走した結果、起こった事態であったため、ハイヤー公爵にサーシャとの縁を切らせることで、ハイヤー公爵家は伯爵家へと降格するのみの処分、サーシャ本人は、身分剥奪の上、処刑という運びになった。もちろん、処刑に関しては、ユーカが居ない時を狙って行う予定だ。
そんな忙しいあれこれをこなして、毎日のようにユーカの元へと入り浸っていた俺は、リドルから、『押し過ぎじゃないかしら?』なんて言葉を度々受けながらも幸せな日々を送っていた。きっと、そろそろプロポーズしても大丈夫だろうと思えるくらいには、ユーカの想いを感じることもできていて、不安なことなど何もなかった。
「ご主人様、ユーカお嬢様がお越しです」
「っ、入ってくれ」
ここ最近、俺達の方がユーカの元へ向かうことが多いせいか、この執務室にユーカが訪ねてくるのは久しぶりのような気がする。心が踊り出すような感覚を抱きながら、入ってきたユーカを抱き締めようと椅子から立ち上がって……すぐに、その異変に気づく。
「ユーカ!? どうした!?」
扉の外に居たユーカは、今にも泣き出しそうな表情で、何かの紙束をギュッと握り締めていた。
「ジークさん……」
不安で不安で堪らない。そんな声に、俺は慌ててユーカを部屋に迎え入れる。
「ユーカ、何があった! 誰かから、嫌なことでも言われたか?」
ユーカに変なことを吹き込む輩が、このプライベート区画に近づけるとは思っていないものの、それでもそう尋ねたくなるくらいには、ユーカの表情は暗かった。
「違います」
「じゃあ、何があったんだ?」
これは、もしかしたらハミルトンと一緒に慰めた方が良いかもしれないと、俺はメアリーに口パクで、ハミルトンを呼んでくるように指示を出す。
「この手紙……」
「手紙? ユーカ宛の手紙など、俺は知らないが……?」
そう言いながらユーカが握っているそれをそっと見てみるものの、どうやらその文字は異国のものらしい。しかも、俺の知識にない文字だ。
「この手紙は、秋元凪さんが、私に宛てた手紙だったんです」
「アキモトナギ? …………確か、初代魔王の伴侶がそんな名前だった、ような……」
まさかと思いつつも、その人物以外に『アキモトナギ』なんていう特殊な名前を思い付けずにいると、ユーカは苦し気な表情でうなずく。
「その秋元さんで間違いないです。これは、過去から未来へ、予言に則って書かれた手紙、みたいなんです」
「予言……? そういえば、初代魔王は予言者だったという説はあるが……」
「そう、みたいです。この手紙には、私の名前も書かれてます」
つまりは、ユーカ宛の初代魔王の予言書が見つかった、ということなのだろう。それは、恐らく歴史的大発見だ。
ただ、俺はそんな偉業よりも、ユーカの表情が浮かないことの方が気になった。
「どんな予言がされていたんだ?」
もしかしたら、悪い予言が書かれていて、そのせいでユーカが落ち込んでいるのかもしれない。そう思って問いかけると、ユーカはジワリとその目に涙を浮かべる。
「っ、ユ、ユーカ!? ど、どうした!? そんなに悪い予言だったのか!?」
ユーカを泣かせてしまったという事実に、俺は大慌てでユーカを抱き締めてなだめる。
「ユーカっ! っ、ジーク? ユーカに何をしたの!?」
「待て、誤解だ! 俺は、ユーカには何もしてないっ!」
懸命になだめていると、いきなり扉が開いて、走ってきたらしいハミルトンが入ってくる。そして、ユーカの様子がおかしいことに気づいて、真っ先に俺を疑ってきた。
「ハミル、さん……うぅ……」
しかし、ユーカはハミルを見ると、余計に泣いてしまう。
「ユーカ!? え、えっと、どういう状況!?」
「分からん! ただ、ユーカは予言書を見つけて混乱しているらしい」
「じゃあっ、その予言書を読めば……」
「俺の知ってる文字じゃない。ハミルは読めるか?」
「ちょっと待って……えーっと、ごめん、さっぱり」
ユーカの手元にその予言書があることを教えてやれば、ハミルもユーカの手の隙間から文字を観察していたようだが、すぐにお手上げといった様子でうなだれる。
「そ、そうだ! 気分が落ち着く飲み物でも持ってこさせようよ!」
「それだ! メアリー、頼む!」
「は、はいっ」
今はとにかく、ユーカをなだめることが先決とばかりに、俺達は急いでユーカを席に着かせるのだった。
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