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ミーネ・ラトリャの不幸あるいは幸福
第一話 変わった世界
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フリア・フワーライト公爵令嬢。いえ、今なら、彼女が存在しなかったはずの公爵令嬢だということが理解できる。フワーライト公爵家など、我が王国の歴史の中で、誕生した記録などないのだ。
フリア様が立ち去り、唐突にそれを理解した私は、次の瞬間、あり得ない光景を目にして絶句する。
「な、んで……」
建国記念日のパーティー会場は今、貴族達が談笑し、明るい音楽が流れる空間となっている。それはまるで……先ほどのことを、誰もが『忘れてしまった』かのように……。
「ミーネ、どうしたんだい?」
そして、ここにもまた、異常が一つ。バッカ殿下の姿をした、何者かが、さも当然のように、私の名前を呼び、とても、とても、愉しそうに嗤うのだ。
「あ、なたは……」
「うん? 自分の婚約者を忘れてしまうなんて、ミーネは酷いなぁ?」
「こ、婚約者!?」
なぜ、いつ、どうして、そうなったのか、当然理解できるわけもなく、私は叫ぶ。何せ、つい先程まで、彼は、フリア様の婚約者で……いや、中身が変わってしまってはいるようだが、それでも、その事実が消えたわけではない。それなのに……。
「おめでとうございます。ミーネ様! 明日の結婚式のことを思うと、我がことのように喜ばしいですわ」
甲高く、よく通るその声は、とても覚えのあるもの。
ナリア・ラトリャは天才で、レリーナ・ローゼスは秀才。そう言われ、常にライバル関係であった彼女らを母親に持つ、私とシェリア・ローゼスは、間違っても仲が良いとは言えない。私は気にしていなくとも、シェリアは私を常にライバル視していて、ことあるごとに突っかかってくるのだ。
そんな彼女は今……何を言ったのか……?
「結婚、式……?」
「えぇっ、ミーネ様がカイン殿下の婚約者に選ばれた時は、多少の悔しさもありましたが、私達は親友ですものっ。ミーネ様が幸せでいられるのであれば、私だって嬉しいのですわっ」
普段は、それなりに回転して、的確な答えを導き出してくれる頭脳は、どうにも、上手く働いてくれない。
(誰と、誰が結婚……? カイン殿下って、誰? シェリア様と私が、親友……?)
今まで築いてきた常識。今まで築いてきた環境。それらが、全て歪んでいくのを感じながら、それでも、彼女が偽物、あるいは、何か良くないものでも食べたのではないかと考えてしまうのは、無意識に、精神的な限界を迎えているからかもしれない。
「ありがとう、シェリア嬢。私も、ミーネと結婚できることが嬉しくてたまらない。明日はぜひ、式を楽しんでほしい」
「は、はいっ、もちろんです!」
会話の流れからすると、私は、バッカ殿下に乗り移ったカインとやらと婚約しており、明日、結婚式を迎えることになっているようだ。しかも、前までは仲が良いとは言えなかったシェリアと、親友になっていたりもするらしい。
(……これは、夢ね、きっと)
ここまでおかしなことになってくると、そうとしか思えない。恐らく、私は建国記念日のパーティー前日に眠ってから、まだ目覚めていないのだろう。だから、フリア様が婚約破棄されたとか、バッカ殿下が誰かに乗り移られたらしいとか、シェリア様が親友ポジションになっているとかは、全て、現実ではないのだ。
(そう考えると、全てに納得がいきますね)
そう、全ては夢。こんな夢を見るなんて、不思議で仕方がないものの、夢とは、総じて不思議なものだ。
その日は、いつの間にか建国パーティーも終わっており、なぜか……いや、カイン殿下との挙式が控えているからとのことで、カイン殿下とやらにエスコートされ、城に泊まらせられる。夢とはいえ、ここら辺はリアルらしい。
「愛するミーネ。私は、魅了の力を使うことなく、あなたをとことん堕としてみせよう」
一人、ベッドに入り、目を閉じる間際、そんな言葉が聞こえたような気はするが、私はそのまま、次に目覚めれば日常なのだと自分に言い聞かせて、眠りに落ちた。
フリア様が立ち去り、唐突にそれを理解した私は、次の瞬間、あり得ない光景を目にして絶句する。
「な、んで……」
建国記念日のパーティー会場は今、貴族達が談笑し、明るい音楽が流れる空間となっている。それはまるで……先ほどのことを、誰もが『忘れてしまった』かのように……。
「ミーネ、どうしたんだい?」
そして、ここにもまた、異常が一つ。バッカ殿下の姿をした、何者かが、さも当然のように、私の名前を呼び、とても、とても、愉しそうに嗤うのだ。
「あ、なたは……」
「うん? 自分の婚約者を忘れてしまうなんて、ミーネは酷いなぁ?」
「こ、婚約者!?」
なぜ、いつ、どうして、そうなったのか、当然理解できるわけもなく、私は叫ぶ。何せ、つい先程まで、彼は、フリア様の婚約者で……いや、中身が変わってしまってはいるようだが、それでも、その事実が消えたわけではない。それなのに……。
「おめでとうございます。ミーネ様! 明日の結婚式のことを思うと、我がことのように喜ばしいですわ」
甲高く、よく通るその声は、とても覚えのあるもの。
ナリア・ラトリャは天才で、レリーナ・ローゼスは秀才。そう言われ、常にライバル関係であった彼女らを母親に持つ、私とシェリア・ローゼスは、間違っても仲が良いとは言えない。私は気にしていなくとも、シェリアは私を常にライバル視していて、ことあるごとに突っかかってくるのだ。
そんな彼女は今……何を言ったのか……?
「結婚、式……?」
「えぇっ、ミーネ様がカイン殿下の婚約者に選ばれた時は、多少の悔しさもありましたが、私達は親友ですものっ。ミーネ様が幸せでいられるのであれば、私だって嬉しいのですわっ」
普段は、それなりに回転して、的確な答えを導き出してくれる頭脳は、どうにも、上手く働いてくれない。
(誰と、誰が結婚……? カイン殿下って、誰? シェリア様と私が、親友……?)
今まで築いてきた常識。今まで築いてきた環境。それらが、全て歪んでいくのを感じながら、それでも、彼女が偽物、あるいは、何か良くないものでも食べたのではないかと考えてしまうのは、無意識に、精神的な限界を迎えているからかもしれない。
「ありがとう、シェリア嬢。私も、ミーネと結婚できることが嬉しくてたまらない。明日はぜひ、式を楽しんでほしい」
「は、はいっ、もちろんです!」
会話の流れからすると、私は、バッカ殿下に乗り移ったカインとやらと婚約しており、明日、結婚式を迎えることになっているようだ。しかも、前までは仲が良いとは言えなかったシェリアと、親友になっていたりもするらしい。
(……これは、夢ね、きっと)
ここまでおかしなことになってくると、そうとしか思えない。恐らく、私は建国記念日のパーティー前日に眠ってから、まだ目覚めていないのだろう。だから、フリア様が婚約破棄されたとか、バッカ殿下が誰かに乗り移られたらしいとか、シェリア様が親友ポジションになっているとかは、全て、現実ではないのだ。
(そう考えると、全てに納得がいきますね)
そう、全ては夢。こんな夢を見るなんて、不思議で仕方がないものの、夢とは、総じて不思議なものだ。
その日は、いつの間にか建国パーティーも終わっており、なぜか……いや、カイン殿下との挙式が控えているからとのことで、カイン殿下とやらにエスコートされ、城に泊まらせられる。夢とはいえ、ここら辺はリアルらしい。
「愛するミーネ。私は、魅了の力を使うことなく、あなたをとことん堕としてみせよう」
一人、ベッドに入り、目を閉じる間際、そんな言葉が聞こえたような気はするが、私はそのまま、次に目覚めれば日常なのだと自分に言い聞かせて、眠りに落ちた。
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