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ミーネ・ラトリャの不幸あるいは幸福
第二話 変わらなかった世界
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翌日、私は、呆然とベッドの上に座っていた。目が覚めれば、きっと、ラトリャ伯爵家の自室のベッドだと……もし、ベッドの上でなくとも、とにかく、ラトリャ伯爵家のどこかだと考えていた私は、どうやら、あの出来事が夢ではなかったということを認めざるを得ない状況にあった。
「さぁっ、ミーネお嬢様! 挙式のための準備を行いますので、早くこちらへ」
「レ、レアナ? いったい、何を……」
目が覚めて、待ち構えていたのは、キラッキラと目を輝かせた私の侍女。そして、その背後には、ズラリと、この城の侍女であろう面々が、ギラッギラと目を輝かせている。
「時間はありませんっ! さぁっ、まずは入浴からっ!!」
怯える私の姿もなんのそので、レアナを筆頭とした侍女軍団によって、私は、剥かれ、洗われ、磨かれ、締められ、飾られた。
「うぅ……」
まだ、これは朝のほんの一時なのだということは、窓から射し込む日差しが教えてくれる。しかし、伯爵令嬢として、それなりに着飾る経験はあったものの、今日ほど侍女達の姿に恐怖することはなかった。
(いったい、何が……)
朝食をどうにか口に運ぶ私は、未だかつてないほどに鈍った思考で、原因を探ろうとして……。
(挙式……まさ、か……)
朝一番に言われた、『挙式の準備』という言葉。そして、昨日、夢だと思っていたことが本当であるならば、今、私は、予定になかったはずの結婚式を迎えることになるのではないだろうか?
(本当に、何が、どうなって……)
今まで培ってきた常識が引っくり返され、周りの全てが信用できない中、最も警戒すべき人物の元へと嫁がされそうになっている。
(カインと名乗った、バッカ殿下の体を乗っ取ったモノ……アレの目的は、何?)
きっと、今、私の周りに居る誰かにそれを尋ねたとして、軽くあしらわれて終わるというのは、とても良く理解できていた。事実、ポツリと『結婚、したくない』と漏らせば、マリッジブルーだと勘違いされ、リラックス効果のある花を持ってこさせる結果になっただけだった。
(こうなったら、お母様に相談するしか……)
私は、才女だと持て囃されながらも、実際のところ、お母様の次という地位から脱却できた試しはない。しかし、だからといって、プライドが刺激されるとかいうことはなく、ただただ、お母様を尊敬するのみだった。
(お母様なら、荒唐無稽な話でも聞いてくれる。そうすれば、きっと、何か打開策が見つかるはずっ)
今、私が頼れるのは、お母様くらいしかいない。お父様は、娘の私に見向きをすることなどなかったし、お兄様は仕事で滅多に家に帰ることはない。
(お母様に相談するには、今日を乗り切るしかないけど……そこは、頑張ろう)
一般的に、花嫁を花婿の元までエスコートするのは、父親の仕事だ。しかし、王族の結婚式となると別で、花嫁は、花婿の元まで、誰の手も借りずに進まなければならない。王族とは、神にも等しい存在であり、そこへ嫁ぐ者に過去など必要ない、というのが表向きの理由ではあるが、実際は、過去に父親を亡くしていた令嬢と結婚することになっていた王太子が、そんなこじつけを作って、父親のエスコートなしでも構わない状態を作ったというのはわりと知られている。恐らくは、王侯貴族の間でその話を知らない者は……乗っ取られる前のバッカ殿下のみだったかもしれない。
とにかく、そんな理由で、父親のエスコートはない。そして、その分、当然家族と話す時間もほとんど存在しない。いや、一応、あるにはあるが、家族水入らずというわけにはいかないのが実情だ。だからこそ、今日を無事に乗り切って、明日、すぐにでもお母様に会わなければならない。
この時の私は、すっかり失念していた。この世界は、私の知るものとは大きく変わっているということを。そして、そんな私の心情とは関係なしに、式の時間を迎えるのだった。
「さぁっ、ミーネお嬢様! 挙式のための準備を行いますので、早くこちらへ」
「レ、レアナ? いったい、何を……」
目が覚めて、待ち構えていたのは、キラッキラと目を輝かせた私の侍女。そして、その背後には、ズラリと、この城の侍女であろう面々が、ギラッギラと目を輝かせている。
「時間はありませんっ! さぁっ、まずは入浴からっ!!」
怯える私の姿もなんのそので、レアナを筆頭とした侍女軍団によって、私は、剥かれ、洗われ、磨かれ、締められ、飾られた。
「うぅ……」
まだ、これは朝のほんの一時なのだということは、窓から射し込む日差しが教えてくれる。しかし、伯爵令嬢として、それなりに着飾る経験はあったものの、今日ほど侍女達の姿に恐怖することはなかった。
(いったい、何が……)
朝食をどうにか口に運ぶ私は、未だかつてないほどに鈍った思考で、原因を探ろうとして……。
(挙式……まさ、か……)
朝一番に言われた、『挙式の準備』という言葉。そして、昨日、夢だと思っていたことが本当であるならば、今、私は、予定になかったはずの結婚式を迎えることになるのではないだろうか?
(本当に、何が、どうなって……)
今まで培ってきた常識が引っくり返され、周りの全てが信用できない中、最も警戒すべき人物の元へと嫁がされそうになっている。
(カインと名乗った、バッカ殿下の体を乗っ取ったモノ……アレの目的は、何?)
きっと、今、私の周りに居る誰かにそれを尋ねたとして、軽くあしらわれて終わるというのは、とても良く理解できていた。事実、ポツリと『結婚、したくない』と漏らせば、マリッジブルーだと勘違いされ、リラックス効果のある花を持ってこさせる結果になっただけだった。
(こうなったら、お母様に相談するしか……)
私は、才女だと持て囃されながらも、実際のところ、お母様の次という地位から脱却できた試しはない。しかし、だからといって、プライドが刺激されるとかいうことはなく、ただただ、お母様を尊敬するのみだった。
(お母様なら、荒唐無稽な話でも聞いてくれる。そうすれば、きっと、何か打開策が見つかるはずっ)
今、私が頼れるのは、お母様くらいしかいない。お父様は、娘の私に見向きをすることなどなかったし、お兄様は仕事で滅多に家に帰ることはない。
(お母様に相談するには、今日を乗り切るしかないけど……そこは、頑張ろう)
一般的に、花嫁を花婿の元までエスコートするのは、父親の仕事だ。しかし、王族の結婚式となると別で、花嫁は、花婿の元まで、誰の手も借りずに進まなければならない。王族とは、神にも等しい存在であり、そこへ嫁ぐ者に過去など必要ない、というのが表向きの理由ではあるが、実際は、過去に父親を亡くしていた令嬢と結婚することになっていた王太子が、そんなこじつけを作って、父親のエスコートなしでも構わない状態を作ったというのはわりと知られている。恐らくは、王侯貴族の間でその話を知らない者は……乗っ取られる前のバッカ殿下のみだったかもしれない。
とにかく、そんな理由で、父親のエスコートはない。そして、その分、当然家族と話す時間もほとんど存在しない。いや、一応、あるにはあるが、家族水入らずというわけにはいかないのが実情だ。だからこそ、今日を無事に乗り切って、明日、すぐにでもお母様に会わなければならない。
この時の私は、すっかり失念していた。この世界は、私の知るものとは大きく変わっているということを。そして、そんな私の心情とは関係なしに、式の時間を迎えるのだった。
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