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ミーネ・ラトリャの不幸あるいは幸福
第三話 挙式
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会場へ、一歩踏み出した私は、その瞬間、それが、後戻りできなくなる一歩だったかのような不安に包まれる。しかし、ここで足を止めるわけにはいかなかった。王族の婚姻ということで、国内外から貴族が、いや、それどころか、他国の王族までもが集まっている。
(他国……他国にまで、この異変は広がっている、か……)
自国のみであったのならば、ここまで他国の者を呼び寄せることなど不可能だ。つまりは、異変の範囲はとてつもなく広いということ。
気が進まないながらも、ゆっくり、ゆっくりと、私は前へ進む。周りの視線は、どうやら歓迎しているものが多いようではあるが、そればかりではない。嫉妬に満ちた視線は女性から、ねっとりとした視線は男性から。ごく一部ではあるものの、そういったものが感じ取れる。
(これだから、目立つのは、嫌い……)
才女だなんだと持て囃されていても、私は、目立ちたくはなかった。だから、お母様の次という地位はちょうど良かったし、シェリア様がことあるごとに突っかかってくるのは、面倒なことこの上なかった。私は、ただ色々な知識に興味があっただけ。ただ、色々な本を読んで、楽しんでいられれば良かっただけ。それなのに……。
カイン殿下と思しき人物が待つ祭壇の前に、もうすぐ着くという頃になって、事件は起きた。
「死ねぇっ!!」
それは、憎悪に満ちた女性の声。それは、どこか、聞き覚えのある女性の声。
「危ないっ!」
「えっ……?」
誰の声だったのかを確認する前に、私は、すぐ目の前に居た男に腕を引かれる。
「ぐっ……」
男の……カイン殿下の腕の中に囚われた私は、苦痛に満ちたその声に、小さく『えっ?』と漏らす。
「きゃあぁぁぁあっ!!」
「っ! 騎士達よっ! その女を捕らえよ!」
訳が分からないままに、式場は、様々な叫び声に包まれる。
(何? 何が、起こって……?)
カイン殿下の胸板しか見えない状態で、私は顔を上げる。
「怪我は、ない……?」
「は、い……」
「そう、良かっ……」
辛そうな顔で、それでも私を気遣ったカイン殿下は、そのまま、私の方へと倒れこんでくる。
「カ、カイン殿下?」
重いと思いながらも、何か、大変なことが起きていることは、ちゃんと理解していた。そして……。
「……えっ……?」
支えた瞬間、手をついた場所は、妙に湿っていて、それを見た瞬間、あまりのことで機能を鈍らせていた私の思考が蘇る。
(血……誰かに刺された……?)
恐らくは、狙われたのは私。そして、聞き取れる範囲で、その犯人が居る場所に目を向けた瞬間、私は、絶望に囚われる。
「う、そ……」
「薄汚い手で触るなっ! 離せっ、離せぇっ! あいつはっ! ミーネは殺すぅっ!!」
口汚く騎士を罵り、私に殺意を向けた人物。それは、私が心から尊敬し、心から、信じていた人。
「お母、様……?」
見たことのない醜い形相で殺意を口にする彼女は、明らかに、私のお母様で……私は、その事実を受け入れられず、意識を失うのだった。
(他国……他国にまで、この異変は広がっている、か……)
自国のみであったのならば、ここまで他国の者を呼び寄せることなど不可能だ。つまりは、異変の範囲はとてつもなく広いということ。
気が進まないながらも、ゆっくり、ゆっくりと、私は前へ進む。周りの視線は、どうやら歓迎しているものが多いようではあるが、そればかりではない。嫉妬に満ちた視線は女性から、ねっとりとした視線は男性から。ごく一部ではあるものの、そういったものが感じ取れる。
(これだから、目立つのは、嫌い……)
才女だなんだと持て囃されていても、私は、目立ちたくはなかった。だから、お母様の次という地位はちょうど良かったし、シェリア様がことあるごとに突っかかってくるのは、面倒なことこの上なかった。私は、ただ色々な知識に興味があっただけ。ただ、色々な本を読んで、楽しんでいられれば良かっただけ。それなのに……。
カイン殿下と思しき人物が待つ祭壇の前に、もうすぐ着くという頃になって、事件は起きた。
「死ねぇっ!!」
それは、憎悪に満ちた女性の声。それは、どこか、聞き覚えのある女性の声。
「危ないっ!」
「えっ……?」
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「ぐっ……」
男の……カイン殿下の腕の中に囚われた私は、苦痛に満ちたその声に、小さく『えっ?』と漏らす。
「きゃあぁぁぁあっ!!」
「っ! 騎士達よっ! その女を捕らえよ!」
訳が分からないままに、式場は、様々な叫び声に包まれる。
(何? 何が、起こって……?)
カイン殿下の胸板しか見えない状態で、私は顔を上げる。
「怪我は、ない……?」
「は、い……」
「そう、良かっ……」
辛そうな顔で、それでも私を気遣ったカイン殿下は、そのまま、私の方へと倒れこんでくる。
「カ、カイン殿下?」
重いと思いながらも、何か、大変なことが起きていることは、ちゃんと理解していた。そして……。
「……えっ……?」
支えた瞬間、手をついた場所は、妙に湿っていて、それを見た瞬間、あまりのことで機能を鈍らせていた私の思考が蘇る。
(血……誰かに刺された……?)
恐らくは、狙われたのは私。そして、聞き取れる範囲で、その犯人が居る場所に目を向けた瞬間、私は、絶望に囚われる。
「う、そ……」
「薄汚い手で触るなっ! 離せっ、離せぇっ! あいつはっ! ミーネは殺すぅっ!!」
口汚く騎士を罵り、私に殺意を向けた人物。それは、私が心から尊敬し、心から、信じていた人。
「お母、様……?」
見たことのない醜い形相で殺意を口にする彼女は、明らかに、私のお母様で……私は、その事実を受け入れられず、意識を失うのだった。
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