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第一章
第七話 不幸な事故
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それは、不幸な事故だった。
「危ないっ、お嬢様!!」
「っ、逃げろ! リコ!!」
狩りの練習。そのために向かった山は、比較的安全な場所のはずだった。
「っ……」
目の前で涎を垂らして向かってくる巨大な狼。そんなものが、この山に存在するはずはなかったのだから。
巨大なアギトが、私の前に開かれ、間近に迫る死の気配に、私は、覚悟を決めた。
その山は、獣人達にとって子供達を狩りに慣らすための場所だった。前世でいうところの公園のような場所であり、親子連れで来る場所、という認識だ。
当然、子どもだけのグループも存在し、私も後々はそういった場所に入ることになるのかもしれないが、今は、そんなことは考えられなかった。
お父様もそこら辺のことは理解しているのか、今、私達が居る場所は、貴族専用狩り場の一角。しかも、貸し切りにしているため、見渡す限り、お父様とジーナ以外の獣人の姿は見えない。
「ここは、狩り場としても、別荘地としても使われる場所なんだが、運良くこの場所は貸し切りにできて良かった」
そうニコニコ話すお父様。お父様の話によると、この場所は他の貴族が貸し切りにすることも多いらしい。貸し切りにしようとすれば、大抵がどこかの貴族と衝突することになる人気の場所でもあるのだが、自分より爵位が上の相手に譲る、という場合がほとんどなのだそう。
今回は、本当に誰も、この時間に貸し切りを申し出ていなかったみたいだけど……。
『何だか、ザワザワする』と、私は自分の腕をさする。
こういう時の直感は、なぜかとても良く当たる。ただ、説明できるものではないし、私の一言で狩りが中止になるのも嫌だった。
大丈夫、きっと、何もない。
そう、考えていたのに、お父様とジーナは、先程から私がザワザワすると気になっていた方向へ、示し合わせたかのように勢い良く振り返る。
「っ、おとーさま? ジーナ?」
「……リコ、今日はやはり、狩りの練習は止めた方が良いかもしれない」
「そうですね。お嬢様。残念ですが、今日は……」
今まで見たことがないくらいに険しい表情で告げる二人に、私はどうしようかと迷って――――ブワリと、全身が総毛立った。
「っ、ジーナ、援護を!」
「はいっ、旦那様っ!!」
山の奥から現れたのは、真っ赤に血走った目を持つ狼。その体は、随分と薄汚れてはいるものの、それ以上に、その狼の体が、お父様よりも大きく見えることの方が驚きだった。
こんな、生き物が……。
前世の世界ではあり得ない生き物。そして、十中八九、先程からのザワザワの原因は、この狼だった。
剣を片手に構えるお父様。弓を大きく引くジーナ。そんな中で、私だけが、背後で守られている。
どう、しよう……。
お父様とジーナを前に狼は涎を垂らしながら牙を剥いて唸る。その姿は、明らかに正気とは思えないもの。
そうして、戦いは始まって……。
「危ないっ、お嬢様!」
「っ、逃げろ! リコ!!」
二人を突破した狼を、私は目の前で見ることとなった。
「危ないっ、お嬢様!!」
「っ、逃げろ! リコ!!」
狩りの練習。そのために向かった山は、比較的安全な場所のはずだった。
「っ……」
目の前で涎を垂らして向かってくる巨大な狼。そんなものが、この山に存在するはずはなかったのだから。
巨大なアギトが、私の前に開かれ、間近に迫る死の気配に、私は、覚悟を決めた。
その山は、獣人達にとって子供達を狩りに慣らすための場所だった。前世でいうところの公園のような場所であり、親子連れで来る場所、という認識だ。
当然、子どもだけのグループも存在し、私も後々はそういった場所に入ることになるのかもしれないが、今は、そんなことは考えられなかった。
お父様もそこら辺のことは理解しているのか、今、私達が居る場所は、貴族専用狩り場の一角。しかも、貸し切りにしているため、見渡す限り、お父様とジーナ以外の獣人の姿は見えない。
「ここは、狩り場としても、別荘地としても使われる場所なんだが、運良くこの場所は貸し切りにできて良かった」
そうニコニコ話すお父様。お父様の話によると、この場所は他の貴族が貸し切りにすることも多いらしい。貸し切りにしようとすれば、大抵がどこかの貴族と衝突することになる人気の場所でもあるのだが、自分より爵位が上の相手に譲る、という場合がほとんどなのだそう。
今回は、本当に誰も、この時間に貸し切りを申し出ていなかったみたいだけど……。
『何だか、ザワザワする』と、私は自分の腕をさする。
こういう時の直感は、なぜかとても良く当たる。ただ、説明できるものではないし、私の一言で狩りが中止になるのも嫌だった。
大丈夫、きっと、何もない。
そう、考えていたのに、お父様とジーナは、先程から私がザワザワすると気になっていた方向へ、示し合わせたかのように勢い良く振り返る。
「っ、おとーさま? ジーナ?」
「……リコ、今日はやはり、狩りの練習は止めた方が良いかもしれない」
「そうですね。お嬢様。残念ですが、今日は……」
今まで見たことがないくらいに険しい表情で告げる二人に、私はどうしようかと迷って――――ブワリと、全身が総毛立った。
「っ、ジーナ、援護を!」
「はいっ、旦那様っ!!」
山の奥から現れたのは、真っ赤に血走った目を持つ狼。その体は、随分と薄汚れてはいるものの、それ以上に、その狼の体が、お父様よりも大きく見えることの方が驚きだった。
こんな、生き物が……。
前世の世界ではあり得ない生き物。そして、十中八九、先程からのザワザワの原因は、この狼だった。
剣を片手に構えるお父様。弓を大きく引くジーナ。そんな中で、私だけが、背後で守られている。
どう、しよう……。
お父様とジーナを前に狼は涎を垂らしながら牙を剥いて唸る。その姿は、明らかに正気とは思えないもの。
そうして、戦いは始まって……。
「危ないっ、お嬢様!」
「っ、逃げろ! リコ!!」
二人を突破した狼を、私は目の前で見ることとなった。
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