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第二章

第二十話 エスコート役

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 生誕祭は、当然、国王の誕生日を祝うものであり、毎年、貴族達は生誕祭へ参加する。
 ただし、デビュタント以前の子供に関しては参加を免除されたり、運命の番に求婚中や運命の番の危機、運命の番が妊娠中などという、獣人にとって重大な時期に関しては免除されたりと、そこまで強制力の強い催しではない。
 生誕祭は専ら、滅多に会えない他領の貴族との交流の場だったり、番探しの場だったりと、社交の面を備えつつも、フリーダムに動けるお祭りという感覚だ。


「……お、お父様、お母様……」

「ふ、ふふっ、随分と、舐めた真似をしてくれる」

「うふふふふふふっ、リコ、大丈夫よ? ちゃあんと、わたくし達で対処はしてあるから」


 その生誕祭当日、ゼラフがエスコートのために訪れるはずなのに、一向にその気配がないということで、お父様とお母様の顔は恐ろしいことになっていた。

 笑顔、ではあるものの、その背後に背負うのは神話の中に登場するドラゴンではなかろうか?
 それも、一頭なんていう可愛い数ではなく、複数の……いや、無数のドラゴンが、今にもその牙を剥こうとしているようにしか見えない。


「リコ、ケイン君とは仲が良かっただろう? 彼には、万が一の時のために、リコのエスコートを頼んでおいたんだ」

「え?」

「何もなければ良かったけれど、獣人の中ではそういうこともあるから、基本的にエスコート役はスペアとなる人を選んでおくものなの。……まぁ、運命の番が見つかった時のための処置ではあるけど、あちらにその様子はないようだし、責める材料としては十分よ」


 何が何だか分からないものの、どうやら、ゼラフは敵に回してはいけない人達を敵に回したらしい、ということだけは、はっきりと理解できた。


「こんにちはー。えっと、この度は、その……」

「こんにちは、ケイン君。ドーマック家とはほとんど付き合いもないことだし、気遣いは不要だ」

「ア、ハイ、ワカリマシタ」


 ゼラフが来ないことですぐに遣いが出され、ケインがやってくる。ただし、お父様の怒りの笑顔を直視してしまったケインは、その尻尾をクルンと股に挟んで、耳を垂れる。


 うん、怖いよね。


 自分が怒られているわけではないものの、その怒りはあまりにも恐ろしい。
 改めて、正式にお父様がケインへとエスコートの依頼をして、ケインがそれを承諾している様子を眺めていると、ふいに、ケインが私の方へと顔を向けて、駆け寄ってくる。


「そ、その、一ヶ月前は、ごめん。俺、その時はまだ何も知らなくて、リコと婚約者の関係が悪いなんて思ってもみなくて、無神経なこと、言った」


 何のことだろうか、と思っていると、ケインは、私が思い出せてないことに気づいたらしく、『婚約者との生誕祭が楽しみだなって、言って、ごめん』と謝ってくる。


「気にしてない……。どっちも」

「どっちも……? あっ、そっか。よしっ、それなら、俺にも可能性があるってことだよなっ!」

「?」


 ケインからの言葉を気にしていないというのと、婚約者であるゼラフそのものも気にしていないという意味で『どっちも』と言えば、ケインは喜んで……最後に意味不明な言葉を呟く。


「あ、い、いや、何でもない!」


 ただ、それについて追求されたくないらしいケインの様子に、私はただ、うなずいた。
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