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第二章

閑話 恋に落ちて(とあるオオカミ獣人視点)

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 私は、極々平凡な狼獣人だ。年は、恋に憧れる乙女、ということで何となく理解してほしい。
 そんな私は、人間の子分三人を誘って、アスレチック広場に来ていた。


「アン、すごーいっ!」

「もう、見えないよ……」

「アンって、獣人の中でも素早いのねぇ」


 とはいえ、人間には、このアスレチック広場は危険だ。基本的に獣人向けに作られたこの場所は、よほど鍛えた人間でもない限り、獣人が動き回るこの場所に混ざれば怪我をすることとなる。
 彼女達も、それを理解して見学用に設けられた柵の外で私を見ていた。


「ふぅ、良い汗かいた。あんた達は、人間用のアスレチック広場には行かなくて良いの?」

「「「無理!」」」

「……そう」


 彼女達は、確かに気安い仲ではあるものの、運動能力は遥かに劣る。もちろん、その分、私が守ってあげれば良いのだが、時々不安になることもある。


「それより、さ……あれ、見てよ」


 ピンクのモフモフタオルで汗を拭いていると、子分の一人がそう声をかけてくる。そして……私は、恋に落ちた。


「っ……」

「あれ、多分獣人じゃないよね」

「人間? それか魔族、かなぁ?」

「魔族の方が有り得そうじゃない?」


 身体能力もさることながら、魔法によって足りない部分を補う能力は凄まじい。そして何より、その美しい金髪とアメジストの瞳が強烈に私の心を掴んだ。


「……好き」

「「「え?」」」


 話に聞く運命の番との出会いというのは、こんな感覚なのだろうか?
 そんな疑問を覚えつつも、惹かれることは確かで……だからこそ、側にその男を凌駕する身体能力を発揮している女の獣人が居ることに苛立った。


「アンが……あのアンが、恋に落ちた!?」

「嘘っ、あのアンが!?」

「アン、だよね? えっ? 嘘!」

「……おい、私が恋するのがそんなに不思議か?」

「「「うんっ」」」

「……お前ら……」


 全員に肯定されてしまえば、怒る気力もない。


「……あいつら、番なのかなぁ?」


 そして、どうしても彼らに視線を向けて、そんなことを呟けば、子分達はササッと目配せをする。


「アン、それなら、確認してみれば良いじゃない!」

「そうそう、女の子の方なら、きっとシャワールームに行くだろうし、その後にでも、話をしたいって言えば良いんじゃない?」

「だよね! もし、付き合ってないなら、紹介してほしいって言えば良い訳だし」

「「「さぁ、行こう!」」」

「いや、でも……」

「「「さぁさぁさぁっ」」」


 ……そういうわけで、私はあの獣人の女の子、リコと呼ばれていた女性の元へ向かって、見事に撃沈することとなる。当然、失恋だ。
 どう考えても糖分過多の雰囲気に、私だけでなく、子分達も撃沈していたように思える。しかし……。


「あんな風な、素敵な番に出会えたら良いなぁ……」


 ピンチの時に颯爽と駆けつけてくれる、そんな、格好良くて頼れる番がほしい。
 この出来事で、私は運命の番に特に憧れを抱くようになった。
 この願いが叶うのは、あと数年後、のことだった。
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