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第一章 傷だらけの剣姫
第十六話 闇の中の光
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慣れない暗闇の中で、ネリアは光を見つけた。目が見えていた時には見えなかった光だ。
「ネリア、今日も歩くか?」
「は、はい。ご迷惑でなければ、ですけど……」
ゼスが側に近づけば、ネリアは目を閉じたままでも嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
本来、ゼスは第一王子として、早急に城へ帰還するべきではあった。しかし、ネリアの目が見えないことと、その衰弱具合から、ゼスはこの宿に留まることを決め、甲斐甲斐しくネリアの世話をしている。
「殿下。書簡が届いております」
運動不足解消、というよりは、完全にリハビリとしてネリアのお散歩に付き添い、安全な部屋の中を歩いていた二人は、入室してきたアルスの言葉によって立ち止まる。
「急ぎのものか?」
「王家からの返信です」
「……分かった。すまないがネリア。少しだけ待っていてくれ」
王家からのものだと聞いたゼスは、ネリアに向けていた甘い眼差しからすぐに真剣な第一王子としての目に変わり、アルスから書簡を受け取る。
「は、はい。あの、ですが、お仕事なら、私はお邪魔なんじゃあ……」
第一王子に世話を焼いてもらっているという異常事態。そして、何やら仕事らしいという雰囲気に、ネリアはオロオロと戸惑って、元のベッドに戻ろうとするものの、そんなネリアの手をゼスはそっと掴む。
「邪魔なんかじゃない。ネリアなら、ずっと俺の側に居てくれて構わない」
「え? あっ……えっと……」
見えないネリアは、当然、その糖度百パーセントな眼差しには気づけない。それでも、その声は甘く、蕩けそうなものであり、ネリアは目を閉じたまま、頬を赤くする。
「殿下、姫様がお困りです。姫様を側に置きたいのであれば、やることをやってからでお願いしますね」
「……あぁ、分かっている」
そんなゼスの暴走に苦言を呈するアルス。そうすれば、ゼスは軽く眉間にシワを寄せながら、重々しくうなずく。
「アルス」
「はい、承知しております。姫様、すぐに椅子をお持ちしますね」
ネリアを立たせたままにするのは嫌だということなのか、ゼスのたった一言でアルスは椅子を持ってこいという指示だと理解して行動する。
「あ……いつも、すみません」
「とんでもありません。殿下が大切になさっているお方を椅子にも座らせないなど、私のプライドが許しませんからね。ですから、姫様はどうぞお気を楽にしてお待ちください」
……いや、どうやら、この光景は今回に限ったものではなかったらしい。申し訳なさそうに眉をハの字にしたネリアへ、アルスはおどけたように返事をして、柔らかいクッション付きの椅子を持ってくる。
「…………」
そして、その間にゼスは書簡へと目を通し、その表情をどんどん険しいものへと変えていった。
「ネリア、今日も歩くか?」
「は、はい。ご迷惑でなければ、ですけど……」
ゼスが側に近づけば、ネリアは目を閉じたままでも嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
本来、ゼスは第一王子として、早急に城へ帰還するべきではあった。しかし、ネリアの目が見えないことと、その衰弱具合から、ゼスはこの宿に留まることを決め、甲斐甲斐しくネリアの世話をしている。
「殿下。書簡が届いております」
運動不足解消、というよりは、完全にリハビリとしてネリアのお散歩に付き添い、安全な部屋の中を歩いていた二人は、入室してきたアルスの言葉によって立ち止まる。
「急ぎのものか?」
「王家からの返信です」
「……分かった。すまないがネリア。少しだけ待っていてくれ」
王家からのものだと聞いたゼスは、ネリアに向けていた甘い眼差しからすぐに真剣な第一王子としての目に変わり、アルスから書簡を受け取る。
「は、はい。あの、ですが、お仕事なら、私はお邪魔なんじゃあ……」
第一王子に世話を焼いてもらっているという異常事態。そして、何やら仕事らしいという雰囲気に、ネリアはオロオロと戸惑って、元のベッドに戻ろうとするものの、そんなネリアの手をゼスはそっと掴む。
「邪魔なんかじゃない。ネリアなら、ずっと俺の側に居てくれて構わない」
「え? あっ……えっと……」
見えないネリアは、当然、その糖度百パーセントな眼差しには気づけない。それでも、その声は甘く、蕩けそうなものであり、ネリアは目を閉じたまま、頬を赤くする。
「殿下、姫様がお困りです。姫様を側に置きたいのであれば、やることをやってからでお願いしますね」
「……あぁ、分かっている」
そんなゼスの暴走に苦言を呈するアルス。そうすれば、ゼスは軽く眉間にシワを寄せながら、重々しくうなずく。
「アルス」
「はい、承知しております。姫様、すぐに椅子をお持ちしますね」
ネリアを立たせたままにするのは嫌だということなのか、ゼスのたった一言でアルスは椅子を持ってこいという指示だと理解して行動する。
「あ……いつも、すみません」
「とんでもありません。殿下が大切になさっているお方を椅子にも座らせないなど、私のプライドが許しませんからね。ですから、姫様はどうぞお気を楽にしてお待ちください」
……いや、どうやら、この光景は今回に限ったものではなかったらしい。申し訳なさそうに眉をハの字にしたネリアへ、アルスはおどけたように返事をして、柔らかいクッション付きの椅子を持ってくる。
「…………」
そして、その間にゼスは書簡へと目を通し、その表情をどんどん険しいものへと変えていった。
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