悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第四十五話 その心

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 いつの間にか、セイ達が中心となって行われていた屋敷の大掃除。私を嫌って、虐めていた使用人達は、もれなくセイの幻術の餌食となり、幻術によって姿が見えないようになってしまったメリーが使用人達の耳元に何事かを囁き続けた。鋼とローランは証拠隠滅、及び、ゲテモノ(食べられない)の調達をして……そのゲテモノの一部は、使用人達の食事に回されたらしい。
 そんなことを続けること一週間、セイ達の攻撃を受けた全ての使用人は、屋敷を去って、精神を病むか、持ち直したとしても、悪い噂が立ったせいで勤め先がなく、細々と暮らすことになっているらしい。
 と、まぁ、これは私がセイやローラン、メリーに何度もねだって、ようやく聞き出せた話であるため、まだまだ裏で何かやっている可能性もある。しかし、ひとまずは、もうこれ以上を聞く必要はないと判断しておいた。その方が、精神衛生上良さそうだからだ。

 ただ、そんな大掃除の際に、お母様が私に呪いをかけようとしていたこと、そして、お父様が生きていたことを知ることになる。それらは、どちらも、私の中では衝撃的な事実だった。


(……私、お母様に、嫌われてたんだなぁ……)


 新たに与えられた、ぬいぐるみが飾られているピンクの可愛らしい自室で、私は近くのクマのぬいぐるみをモフモフしながら、ベッドに腰かける。
 前世の私は、母子家庭で育った。父は私が小学生の頃に事故で亡くなったため、母が必死に育ててくれたのだ。だから、私は今世でも、母という存在が自分の味方をしてくれると、無意識に信じてしまっていた。私が黒の獣つきということで母はショックを受けたのだろうが、それでも、きっといつかは私の方を振り向いてくれると思っていたのだ。


(……結構、キツイ、な……)


 結局のところ、母が愛していたのは父だけだった。いや、もしかしたら、私が黒の獣つきでなければ、多少の愛情は示してくれたかもしれないが、あいにくと、私は忌み嫌われる存在だ。そんなものが、父との間にできたということを、母は認めたくなかったらしい。


「みゅう……」

「ユミリア? また、あのおん……お母さんのこと、考えてるの?」


 私のため息に、部屋の隅で待機していたセイは素早く反応を示す。大掃除が終わり、母が追放されてから三日。まだ、新しい使用人がほとんど居ない状態で、セイ達は正式に私付きの従者ということになった。私としては、友達を従者にするなんて、という思いがあったものの、セイ達は案外ノリノリで、父からのその提案を受け入れてしまった。


「お父さんのところに行く? メリーに頼んでお菓子でも作ってもらう?」


 セイが気分転換に、というつもりで誘ってくれているのは分かる。ただ、どうにも私は、前世で父という存在との関係が薄かったため、私を可愛がってくれているらしい今世の父への対応が難しい。もちろん、大掃除の際、父の呪いを解く道具を作ったのは私なのだが、何だか少しばかり気まずい。


「みゅ……おとーしゃまと、にゃにをはにゃしぇばいいにょか、わからにゃいにょ(みゅ……お父様と、何を話せば良いのか、分からないの)」

「えっ? ユミリアって、お父さんのこと、あんまり好きじゃないの?」

「ちがうにょ。ただ……いままでいにゃかったかりゃ、どうしゅればいいにょか……(違うの。ただ……今まで居なかったから、どうすれば良いのか……)」


 そう戸惑いを告げれば、セイは真剣に考えてくれる。


「うーん……僕も、両親っていうのとは縁がないしなぁ……鋼、もダメだし、ローラン、も両親に良い思い出はないって言ってたし……あっ、メリーに相談してみない?」

「めりーに? (メリーに?)」

「うん、同じ人間だし、両親のことは知らないけど、アドバイスくらいならできるんじゃないかな?」


 セイの言葉には、説得力がある。確かに、メリーならば何かアドバイスをくれるかもしれない。


「みゅっ、めりーにあうにょっ(みゅっ、メリーに会うのっ)」


 そうと決まれば話は早い。早くメリーと会って、お父様に会う度に感じる気まずさを払拭せねばならない。


「分かった。じゃあ、ローランか鋼に頼んで呼んできてもらうね」

「みゅっ」


 自分から何かをせずとも、色々と手配してもらえるという状況に、何だかむず痒いものを感じながらも、私は扉の外に居たローランに声をかけるセイを見送る。


(お父様と、仲良くできると良いなぁ……)


 クマのぬいぐるみをギュウギュウ抱き締めながら、私は、メリーが部屋に来るのを待つことになった。
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