我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第二百三十九話 殴り、殴る

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注意、今回の話は、暴力的な表現が多分に含まれています。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ラーミア怖い、ラーミア怖い、ラーミア怖い、ラーミア怖い。


 今、我輩はグラハムを見下ろして微笑むラーミアを直視してしまい、恐怖に震えていた。これはもしかしたら、自害しようとするグラハムを我輩が止められなかったことへの罰かもしれない。とにかく、ラーミアのその笑顔は迫力があって怖かった。


「さて、グラハム、と言いましたわね。貴方は自害して、それでどうするというのですか?」

「ぐっ……私には、もう、死んで詫びるしか、方法はないのだっ」


 どうにかモゾモゾと起き上がって反論したグラハムは、正直、すごいと思う。しかし……。


「ふぅ……」


 バキッ!


「ぐぉっ」


 グラハムが、グラハムが、また飛んだのだ。今度は、頬を思いっきり殴られて。


「それで? 死んでどうするおつもりだったのですか?」


 先程と同じ質問に、グラハムは暗い視線のみを返す。


 バキッ!


 今度は、先程とは反対方向の頬が殴られてグラハムは吹き飛ぶ。


「死んで詫びる? 死んだら終わりでしょう? それで貴方が殺した人間達が報われるとでも?」


 あまりにも恐ろしいラーミアの様子に、聖騎士達はもちろんのこと、バルディス達も全く口を出せずに固まっている。そんな中、ラーミアはグラハムの胸ぐらを掴むと容赦なく胴に蹴りを入れる。


「ぐふぅっ」


 強烈な蹴りによって崩れ落ちるグラハムに、ラーミアは微笑みを浮かべながら絶対零度の視線を浴びせる。


「責任ある立場なら、死ぬだなんだと言う前に、何がなんでも生きて罪を償いなさい」


 静かに、しかし、重々しく響く声に、息を呑んだのはいったい誰だったろうか。そんな些細なこと、分かるはずもないのだが、一つだけ、分かることがあった。


「……あぁ」


 グラハムの瞳に、強い、意思の光が宿ったことだけは、誰の目から見ても明らかだった。


「に、兄さん? 大、丈夫、ですか?」


 恐る恐るといった様子で声をかけるマルス。しかし、良く顔を見るべきだと我輩、思うのだ。どこをどう見ても、グラハムは良く腫れ上がった顔で、無事とは言い難いのだ。


「大丈夫だ。おかげで、目が覚めた」


 目が覚めるどころか、もうちょっとで永遠に目覚めなくなりそうな光景だった気がするのは我輩の気のせいだろうか?


 ちらりと聖騎士達やバルディスを見ると、全員が信じられないといった顔をしている。


 うむ、我輩の認識は間違っていなさそうなのだ。


「確か、ラーミア殿、だったな。ありがとう。おかげで、私は前を向けそうだ」

「『向けそう』ではなく、『向く』のですよ」

「あぁ、本当に、そうだな。心から、礼を言う。そして、操られていたとはいえ、強引に捕らえてしまったことを謝罪させてほしい」

「謝罪は要りませんわ。その代わり、この国で馬車馬のように働きなさい」

「ははっ、そうだな。馬車馬のように働いて、死んでしまった者達へ詫びよう」


 なぜだろうか。ラーミアは女性で、グラハムは男性なのに、この二人の間には男の友情と呼ぶべきものが生まれたような気がしてならない。

 ラーミアはこの先の会話を聖騎士達に任せることにしたらしく、ひとまずグラハムから離れる。これから、ミルテナ帝国の進軍による危機をグラハムに伝えて、我輩達はやはりマギウスに気づかれないようにディルクという者を『操術』から助け出すのだ。


「にゃっ……(あっ……)」


 と、そこで、我輩、一つの大失敗に気づく。


「どうした? タロ?」

「にゃあ。にゃ――――(失敗したのだ。我輩――――)」

「大変ですっ! あの不審者が、ディルク様を連れて逃げました!」

「何だと!?」


 駆け込んできた聖騎士は、マギウスを見張っていた者で、その報告に我輩、やってしまったと頭を抱える。

 驚愕するバルディス達に、我輩、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「にゃー(我輩、グラハムの『操術』を完全に解いてしまったのだ)」


 それを言い終えると、バルディスは目を見開くのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回は……ラーミアのストレス発散回?

ラーミアの大暴れが怖い話でした。

一応注意を最初に書いてるから大丈夫、だよね? と思いながら、ちょっとビクビクしてます。

ラーミア、魔王バルディスより魔王らしいかもしれませんね。

それでは、また!
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