240 / 574
第三章 セイクリア教国の歪み
第二百三十九話 殴り、殴る
しおりを挟む
注意、今回の話は、暴力的な表現が多分に含まれています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ラーミア怖い、ラーミア怖い、ラーミア怖い、ラーミア怖い。
今、我輩はグラハムを見下ろして微笑むラーミアを直視してしまい、恐怖に震えていた。これはもしかしたら、自害しようとするグラハムを我輩が止められなかったことへの罰かもしれない。とにかく、ラーミアのその笑顔は迫力があって怖かった。
「さて、グラハム、と言いましたわね。貴方は自害して、それでどうするというのですか?」
「ぐっ……私には、もう、死んで詫びるしか、方法はないのだっ」
どうにかモゾモゾと起き上がって反論したグラハムは、正直、すごいと思う。しかし……。
「ふぅ……」
バキッ!
「ぐぉっ」
グラハムが、グラハムが、また飛んだのだ。今度は、頬を思いっきり殴られて。
「それで? 死んでどうするおつもりだったのですか?」
先程と同じ質問に、グラハムは暗い視線のみを返す。
バキッ!
今度は、先程とは反対方向の頬が殴られてグラハムは吹き飛ぶ。
「死んで詫びる? 死んだら終わりでしょう? それで貴方が殺した人間達が報われるとでも?」
あまりにも恐ろしいラーミアの様子に、聖騎士達はもちろんのこと、バルディス達も全く口を出せずに固まっている。そんな中、ラーミアはグラハムの胸ぐらを掴むと容赦なく胴に蹴りを入れる。
「ぐふぅっ」
強烈な蹴りによって崩れ落ちるグラハムに、ラーミアは微笑みを浮かべながら絶対零度の視線を浴びせる。
「責任ある立場なら、死ぬだなんだと言う前に、何がなんでも生きて罪を償いなさい」
静かに、しかし、重々しく響く声に、息を呑んだのはいったい誰だったろうか。そんな些細なこと、分かるはずもないのだが、一つだけ、分かることがあった。
「……あぁ」
グラハムの瞳に、強い、意思の光が宿ったことだけは、誰の目から見ても明らかだった。
「に、兄さん? 大、丈夫、ですか?」
恐る恐るといった様子で声をかけるマルス。しかし、良く顔を見るべきだと我輩、思うのだ。どこをどう見ても、グラハムは良く腫れ上がった顔で、無事とは言い難いのだ。
「大丈夫だ。おかげで、目が覚めた」
目が覚めるどころか、もうちょっとで永遠に目覚めなくなりそうな光景だった気がするのは我輩の気のせいだろうか?
ちらりと聖騎士達やバルディスを見ると、全員が信じられないといった顔をしている。
うむ、我輩の認識は間違っていなさそうなのだ。
「確か、ラーミア殿、だったな。ありがとう。おかげで、私は前を向けそうだ」
「『向けそう』ではなく、『向く』のですよ」
「あぁ、本当に、そうだな。心から、礼を言う。そして、操られていたとはいえ、強引に捕らえてしまったことを謝罪させてほしい」
「謝罪は要りませんわ。その代わり、この国で馬車馬のように働きなさい」
「ははっ、そうだな。馬車馬のように働いて、死んでしまった者達へ詫びよう」
なぜだろうか。ラーミアは女性で、グラハムは男性なのに、この二人の間には男の友情と呼ぶべきものが生まれたような気がしてならない。
ラーミアはこの先の会話を聖騎士達に任せることにしたらしく、ひとまずグラハムから離れる。これから、ミルテナ帝国の進軍による危機をグラハムに伝えて、我輩達はやはりマギウスに気づかれないようにディルクという者を『操術』から助け出すのだ。
「にゃっ……(あっ……)」
と、そこで、我輩、一つの大失敗に気づく。
「どうした? タロ?」
「にゃあ。にゃ――――(失敗したのだ。我輩――――)」
「大変ですっ! あの不審者が、ディルク様を連れて逃げました!」
「何だと!?」
駆け込んできた聖騎士は、マギウスを見張っていた者で、その報告に我輩、やってしまったと頭を抱える。
驚愕するバルディス達に、我輩、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「にゃー(我輩、グラハムの『操術』を完全に解いてしまったのだ)」
それを言い終えると、バルディスは目を見開くのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回は……ラーミアのストレス発散回?
ラーミアの大暴れが怖い話でした。
一応注意を最初に書いてるから大丈夫、だよね? と思いながら、ちょっとビクビクしてます。
ラーミア、魔王より魔王らしいかもしれませんね。
それでは、また!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ラーミア怖い、ラーミア怖い、ラーミア怖い、ラーミア怖い。
今、我輩はグラハムを見下ろして微笑むラーミアを直視してしまい、恐怖に震えていた。これはもしかしたら、自害しようとするグラハムを我輩が止められなかったことへの罰かもしれない。とにかく、ラーミアのその笑顔は迫力があって怖かった。
「さて、グラハム、と言いましたわね。貴方は自害して、それでどうするというのですか?」
「ぐっ……私には、もう、死んで詫びるしか、方法はないのだっ」
どうにかモゾモゾと起き上がって反論したグラハムは、正直、すごいと思う。しかし……。
「ふぅ……」
バキッ!
「ぐぉっ」
グラハムが、グラハムが、また飛んだのだ。今度は、頬を思いっきり殴られて。
「それで? 死んでどうするおつもりだったのですか?」
先程と同じ質問に、グラハムは暗い視線のみを返す。
バキッ!
今度は、先程とは反対方向の頬が殴られてグラハムは吹き飛ぶ。
「死んで詫びる? 死んだら終わりでしょう? それで貴方が殺した人間達が報われるとでも?」
あまりにも恐ろしいラーミアの様子に、聖騎士達はもちろんのこと、バルディス達も全く口を出せずに固まっている。そんな中、ラーミアはグラハムの胸ぐらを掴むと容赦なく胴に蹴りを入れる。
「ぐふぅっ」
強烈な蹴りによって崩れ落ちるグラハムに、ラーミアは微笑みを浮かべながら絶対零度の視線を浴びせる。
「責任ある立場なら、死ぬだなんだと言う前に、何がなんでも生きて罪を償いなさい」
静かに、しかし、重々しく響く声に、息を呑んだのはいったい誰だったろうか。そんな些細なこと、分かるはずもないのだが、一つだけ、分かることがあった。
「……あぁ」
グラハムの瞳に、強い、意思の光が宿ったことだけは、誰の目から見ても明らかだった。
「に、兄さん? 大、丈夫、ですか?」
恐る恐るといった様子で声をかけるマルス。しかし、良く顔を見るべきだと我輩、思うのだ。どこをどう見ても、グラハムは良く腫れ上がった顔で、無事とは言い難いのだ。
「大丈夫だ。おかげで、目が覚めた」
目が覚めるどころか、もうちょっとで永遠に目覚めなくなりそうな光景だった気がするのは我輩の気のせいだろうか?
ちらりと聖騎士達やバルディスを見ると、全員が信じられないといった顔をしている。
うむ、我輩の認識は間違っていなさそうなのだ。
「確か、ラーミア殿、だったな。ありがとう。おかげで、私は前を向けそうだ」
「『向けそう』ではなく、『向く』のですよ」
「あぁ、本当に、そうだな。心から、礼を言う。そして、操られていたとはいえ、強引に捕らえてしまったことを謝罪させてほしい」
「謝罪は要りませんわ。その代わり、この国で馬車馬のように働きなさい」
「ははっ、そうだな。馬車馬のように働いて、死んでしまった者達へ詫びよう」
なぜだろうか。ラーミアは女性で、グラハムは男性なのに、この二人の間には男の友情と呼ぶべきものが生まれたような気がしてならない。
ラーミアはこの先の会話を聖騎士達に任せることにしたらしく、ひとまずグラハムから離れる。これから、ミルテナ帝国の進軍による危機をグラハムに伝えて、我輩達はやはりマギウスに気づかれないようにディルクという者を『操術』から助け出すのだ。
「にゃっ……(あっ……)」
と、そこで、我輩、一つの大失敗に気づく。
「どうした? タロ?」
「にゃあ。にゃ――――(失敗したのだ。我輩――――)」
「大変ですっ! あの不審者が、ディルク様を連れて逃げました!」
「何だと!?」
駆け込んできた聖騎士は、マギウスを見張っていた者で、その報告に我輩、やってしまったと頭を抱える。
驚愕するバルディス達に、我輩、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「にゃー(我輩、グラハムの『操術』を完全に解いてしまったのだ)」
それを言い終えると、バルディスは目を見開くのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回は……ラーミアのストレス発散回?
ラーミアの大暴れが怖い話でした。
一応注意を最初に書いてるから大丈夫、だよね? と思いながら、ちょっとビクビクしてます。
ラーミア、魔王より魔王らしいかもしれませんね。
それでは、また!
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる