282 / 574
第四章 騒乱のカレッタ小王国
第二百八十一話 私、召喚
しおりを挟む
カレッタ小王国は、小さな国々が集まって生まれた王国だ。様々な人種や亜人が入り乱れ、和気あいあいと暮らしてきた。
一応、南にはセイクリア教国という亜人蔑視の思想が強い国があるものの、竜の森で行く手を阻まれるために、ここまでかの国が進軍してきたことは一度もない。竜の森を通るのは、命知らずの冒険者か、よほど腕に自身のある強者くらいのものだ。
そして、ここはカレッタ小王国王都、ルト。主要な産業の一つとして、酒造りが有名なこの場所は、今、大きく混乱していた。
「くそっ、今日も水が来ねぇっ」
「竜の森からの水がなけりゃあ、酒が造れねぇよっ」
米から造るその酒は、水がとても重要だった。普通の水では、酒は褐色になってしまう。しかも、劣化も早い。唯一、竜の森から流れ出る水は、酒を透明に保ち、長持ちさせた。ただ、その水が今はない。そう、『宵闇の一日』以降、川の水が干上がってしまったのだ。
「くそっ、それもこれも、全部魔王のせいだっ」
民の怒りは、全てその原因とされる魔王へと向けられる。まさか、その魔王が全くの無実だとは思いもせずに、不平不満を募らせる。
そうして、ルトの王城では、その全てを打開すべく、一つの儀式が執り行われていた。
「安寧の時は壊された。滅びの悪魔が嘲笑う。道を示せぬ羅針盤。逆行しだした時間ども。闇に閉ざされ光なし。来たれ、安寧をもたらす者。来たれ、道を示す者。来たれ、世の理を正す者。来たり、来たりて顕現せよ!」
ルトの王城でルーデル・リ・カレッタ王が祝詞を唱え、その直後、辺りは眩いばかりの光に包まれる。
「……む? ここはどこなのだ?」
そして、その光が収まった場所には、黒いスーツを纏い、気難しい顔をした、妙に貫禄のある青年が立っていた。
「おぉっ、召喚が成功したぞ!」
困惑する青年を取り残して、騒ぎ立てるカレッタ小王国の重鎮達。
「勇者様。この度は、召喚に応じてくださいまして、まことにありがとうございます。私はこのカレッタ小王国の国王、ルーデル・リ・カレッタと申します」
重鎮達を尻目に、まず挨拶をしたのは、召喚した張本人であるルーデルだ。
「勇者? あぁ、いや、確かにそのようなことを言っていたな。確か、タロもこの世界に居ると」
後半は小さく呟いたせいで、カレッタ小王国の者達には届かない。
「勇者様。どうか、そのお名前をお聞かせ願えないでしょうか?」
やはり目の前に居るのは、伝説の勇者なのだと確信して、ルーデルは丁重に問いかける。すると、青年はそこで初めて、その表情を和らげた。
「あぁ、申し遅れました。私は、日本国第九十一代内閣総理大臣、飼主犬斗と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
そうして、ここに、このナーガ世界に、タロの飼い主、改め、飼主犬斗が召喚されたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっと、飼い主が登場ですっ!
長かった。
長かったよー。
でも、これから楽しくなることを考えれば、万事オーケー。
それでは、また!
一応、南にはセイクリア教国という亜人蔑視の思想が強い国があるものの、竜の森で行く手を阻まれるために、ここまでかの国が進軍してきたことは一度もない。竜の森を通るのは、命知らずの冒険者か、よほど腕に自身のある強者くらいのものだ。
そして、ここはカレッタ小王国王都、ルト。主要な産業の一つとして、酒造りが有名なこの場所は、今、大きく混乱していた。
「くそっ、今日も水が来ねぇっ」
「竜の森からの水がなけりゃあ、酒が造れねぇよっ」
米から造るその酒は、水がとても重要だった。普通の水では、酒は褐色になってしまう。しかも、劣化も早い。唯一、竜の森から流れ出る水は、酒を透明に保ち、長持ちさせた。ただ、その水が今はない。そう、『宵闇の一日』以降、川の水が干上がってしまったのだ。
「くそっ、それもこれも、全部魔王のせいだっ」
民の怒りは、全てその原因とされる魔王へと向けられる。まさか、その魔王が全くの無実だとは思いもせずに、不平不満を募らせる。
そうして、ルトの王城では、その全てを打開すべく、一つの儀式が執り行われていた。
「安寧の時は壊された。滅びの悪魔が嘲笑う。道を示せぬ羅針盤。逆行しだした時間ども。闇に閉ざされ光なし。来たれ、安寧をもたらす者。来たれ、道を示す者。来たれ、世の理を正す者。来たり、来たりて顕現せよ!」
ルトの王城でルーデル・リ・カレッタ王が祝詞を唱え、その直後、辺りは眩いばかりの光に包まれる。
「……む? ここはどこなのだ?」
そして、その光が収まった場所には、黒いスーツを纏い、気難しい顔をした、妙に貫禄のある青年が立っていた。
「おぉっ、召喚が成功したぞ!」
困惑する青年を取り残して、騒ぎ立てるカレッタ小王国の重鎮達。
「勇者様。この度は、召喚に応じてくださいまして、まことにありがとうございます。私はこのカレッタ小王国の国王、ルーデル・リ・カレッタと申します」
重鎮達を尻目に、まず挨拶をしたのは、召喚した張本人であるルーデルだ。
「勇者? あぁ、いや、確かにそのようなことを言っていたな。確か、タロもこの世界に居ると」
後半は小さく呟いたせいで、カレッタ小王国の者達には届かない。
「勇者様。どうか、そのお名前をお聞かせ願えないでしょうか?」
やはり目の前に居るのは、伝説の勇者なのだと確信して、ルーデルは丁重に問いかける。すると、青年はそこで初めて、その表情を和らげた。
「あぁ、申し遅れました。私は、日本国第九十一代内閣総理大臣、飼主犬斗と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
そうして、ここに、このナーガ世界に、タロの飼い主、改め、飼主犬斗が召喚されたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっと、飼い主が登場ですっ!
長かった。
長かったよー。
でも、これから楽しくなることを考えれば、万事オーケー。
それでは、また!
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる