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第四章 騒乱のカレッタ小王国
第三百十三話 騎士舎(一)
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ポッタが言っていた騎士舎は、案外近くにあった。道行く人に場所を聞けば、すでに見える位置にその建物は存在していた。
灰色の堅牢な造りの騎士舎。そこに、鉛色の甲冑に身を包んだ騎士達がちらほらと見える。
「すみません。ポッタという方が、マタタビにやられて書類を託してきたのですが、こちらが騎士舎で合っていますか?」
「ん? おぉ、ポッタはまぁた引っ掛かったのか。すまねぇな、兄ちゃん達」
「いえ」
近くを歩いていた大柄な人間の騎士に声をかけると何やらポッタがマタタビに引っ掛かったのが初めてではなかったという情報が入ってくる。
……大丈夫なのか? ここの騎士は……?
他国とはいえ、重要な書類を預かっている騎士が頻繁に道中で使い物にならなくなるという状況に、俺は不安を覚える。
「書類を預かってくれてありがとうな。迷惑をかけた詫びに、もし時間があるんだったら騎士舎の中で茶でも振る舞うが、どうだ?」
もう、書類を提出すれば情報収集に戻る予定だった俺達は、そんな提案に顔を見合わせる。
「予定、ない」
「えっと、では、お言葉に甘えさせていただきます」
即座に、このまま騎士舎へ行ってみようと言外に伝えてきたディアムに合わせ、俺は大柄な騎士に頭を下げる。
「おうっ。そんじゃあ、ついてきてくれ」
大股で歩いて移動する騎士についていくと、装飾の類いが何もない灰色の空間へと入ることとなる。
「随分と質素な造りなんですね」
「ははっ、確かにな。王宮の方はもちっとマシ何だが、男所帯だと、こう、飾りっけってもんがなくてなぁ。建設当初から変わったことといえば、壁が傷ついてることくらいらしい」
「なるほど、それはまた、寂しいですね」
「まぁな。けど、使い勝手は良いんだ。っと、ちょっと待っててくれな。受付に書類を持って行くからよ」
「はい」
騎士舎の少し奥まったところにあった受付には、獣人の男性騎士が詰めていたらしく、何事かを話して大柄な騎士が書類を渡している様子が見えた。
「わりぃ、待たせたな」
「いえ」
戻ってきた騎士は、なぜか新たな書類を脇に抱えている。
「あー、三階に行くなら、持っていけって押しつけられてな」
「そうでしたか」
じっと書類を見る視線に気がついた騎士は、頭をガシガシ掻きながら気まずそうに告げる。
「ところで、チラリと見えてしまったんですが、皆さんは竜の森を調査しているんですか?」
案内に戻った騎士へと話しかければ、答えにくいことだったのか、唸り声を上げる。
「そう、だな……ただ、まだ酒造りができるところまではいかないだろうってのが上の見解だ。すまねぇな」
しかし、そんな騎士の言葉に、どうやら酒造りができる環境を早く整えろとせっつかれていると思っただけなのだということが分かる。
「いえ、俺達は酒造りには関わっていないので、そんなに深刻には捉えていないのですが……やっぱり、問題は深刻ですか?」
階段を上り、三階まで来て、扉を開けてくれた騎士に礼を言いながら言い訳をしてみると、途端に騎士の表情はホッとしたものに変わる。
「そりゃあ、深刻だな。この国が酒造りでボスティアやルビーナと貿易してるのは知ってんだろ。それが今はおじゃんになってるから、外貨があまり入ってこない。しかも、酒を輸出することで輸入できていた品も入ってこない。酒造りの職人は、職にあぶれ、スラムに落ちたり、中には野盗になるやつもいる。取り締まる俺達の仕事は、今や激務だよ」
そう告げる騎士には、確かに疲れが滲んで見えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何となーく情報が入ってくる騎士舎。
人助けはするもんですねぇ。
次回は、やっぱり騎士舎での情報収集になります。
それでは、また!
灰色の堅牢な造りの騎士舎。そこに、鉛色の甲冑に身を包んだ騎士達がちらほらと見える。
「すみません。ポッタという方が、マタタビにやられて書類を託してきたのですが、こちらが騎士舎で合っていますか?」
「ん? おぉ、ポッタはまぁた引っ掛かったのか。すまねぇな、兄ちゃん達」
「いえ」
近くを歩いていた大柄な人間の騎士に声をかけると何やらポッタがマタタビに引っ掛かったのが初めてではなかったという情報が入ってくる。
……大丈夫なのか? ここの騎士は……?
他国とはいえ、重要な書類を預かっている騎士が頻繁に道中で使い物にならなくなるという状況に、俺は不安を覚える。
「書類を預かってくれてありがとうな。迷惑をかけた詫びに、もし時間があるんだったら騎士舎の中で茶でも振る舞うが、どうだ?」
もう、書類を提出すれば情報収集に戻る予定だった俺達は、そんな提案に顔を見合わせる。
「予定、ない」
「えっと、では、お言葉に甘えさせていただきます」
即座に、このまま騎士舎へ行ってみようと言外に伝えてきたディアムに合わせ、俺は大柄な騎士に頭を下げる。
「おうっ。そんじゃあ、ついてきてくれ」
大股で歩いて移動する騎士についていくと、装飾の類いが何もない灰色の空間へと入ることとなる。
「随分と質素な造りなんですね」
「ははっ、確かにな。王宮の方はもちっとマシ何だが、男所帯だと、こう、飾りっけってもんがなくてなぁ。建設当初から変わったことといえば、壁が傷ついてることくらいらしい」
「なるほど、それはまた、寂しいですね」
「まぁな。けど、使い勝手は良いんだ。っと、ちょっと待っててくれな。受付に書類を持って行くからよ」
「はい」
騎士舎の少し奥まったところにあった受付には、獣人の男性騎士が詰めていたらしく、何事かを話して大柄な騎士が書類を渡している様子が見えた。
「わりぃ、待たせたな」
「いえ」
戻ってきた騎士は、なぜか新たな書類を脇に抱えている。
「あー、三階に行くなら、持っていけって押しつけられてな」
「そうでしたか」
じっと書類を見る視線に気がついた騎士は、頭をガシガシ掻きながら気まずそうに告げる。
「ところで、チラリと見えてしまったんですが、皆さんは竜の森を調査しているんですか?」
案内に戻った騎士へと話しかければ、答えにくいことだったのか、唸り声を上げる。
「そう、だな……ただ、まだ酒造りができるところまではいかないだろうってのが上の見解だ。すまねぇな」
しかし、そんな騎士の言葉に、どうやら酒造りができる環境を早く整えろとせっつかれていると思っただけなのだということが分かる。
「いえ、俺達は酒造りには関わっていないので、そんなに深刻には捉えていないのですが……やっぱり、問題は深刻ですか?」
階段を上り、三階まで来て、扉を開けてくれた騎士に礼を言いながら言い訳をしてみると、途端に騎士の表情はホッとしたものに変わる。
「そりゃあ、深刻だな。この国が酒造りでボスティアやルビーナと貿易してるのは知ってんだろ。それが今はおじゃんになってるから、外貨があまり入ってこない。しかも、酒を輸出することで輸入できていた品も入ってこない。酒造りの職人は、職にあぶれ、スラムに落ちたり、中には野盗になるやつもいる。取り締まる俺達の仕事は、今や激務だよ」
そう告げる騎士には、確かに疲れが滲んで見えた。
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何となーく情報が入ってくる騎士舎。
人助けはするもんですねぇ。
次回は、やっぱり騎士舎での情報収集になります。
それでは、また!
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