我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第四章 騒乱のカレッタ小王国

第三百九十七話 酒の席で(二)

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「なぜ、俺達にその情報を教えようとする? 何が目的だ?」


 どこで俺達がその情報を求めているということを知ったのかも知りたかったが、一番はアグニの目的だ。それ次第では、即刻立ち去るべきだろう。


「ん? お祖父ちゃんの善意ってのは考えられないか?」

「あり得ないな」


 即答すれば、アグニはその髭もじゃの口元をニヤリと歪める。


「そうだなぁ。確かに教えるには条件があるぜ」


 言いながら酒をあおったアグニは、静かに言葉を待つ俺達を見て、ゆっくりと口を開く。


「俺に、勇者様を紹介してほしい」

「勇者……それは、どちらのことだ?」

「ん? 勇者は一人じゃないのか?」


 さすがにタロのことは知らなかったらしいアグニは、頭に疑問符を浮かべている。


「……勇者を紹介したとして、何をするつもりだ?」

「あー、そうだな……瘴気ってのをバルディス達は知ってるか?」


 それはもちろん知っている。何せ、その瘴気をケントとタロが祓ったのを教えてもらっているのだ。


「あぁ」

「はい」

「知ってる」


 俺、ラーミア、ディアムの順に返事をすると、アグニは『それなら話は早い』と言って、懐から折り畳まれた紙を取り出す。


「その瘴気が、この場所で発生している」


 目の前に広げられたそれは、地図であったらしく、カレッタ小王国の東端を指し示す。


「……それと勇者に何の関係が?」

「……ここには、人間も獣人も住んではいない」


 俺の質問に答えることなく話し出したアグニ。そのアグニは、元々髭やら髪やらのモジャモジャで表情が分かりにくいのに、さらにうつむき加減になっていて、今は全く表情が読めない。


「だが、魔族が住んでいる。それも、ラダ族だ」

「ラダ族!?」


 ラダ族とは、魔族の中でも精神に作用する魔法を得意とする、桃色の角に桃色の髪が特徴の魔族だ。しかし、彼らは大昔に迫害に遭い、今ではファルシス魔国のどこにも存在していないとされている一族だった。


「知ってるか? 俺の家系は、そのラダ族の守護者なんだ」

「……初耳だ」


 何でも、ラダ族を迫害した勢力と対立する頂点となっていた魔族が、アグニの、ひいては、俺のご先祖様だったらしい。ラダ族が迫害された時、ご先祖様は、このカレッタ小王国の東端に彼らの楽園を築いたのだそうだ。


「瘴気は、今、ラダ族を蝕んでいる。俺もどうにかしようと奔走したが、近づけば近づくだけ気分が悪くなるし、原因の排除はできなかった」

「それで、勇者ならば、と思ったのか?」

「あぁ、そうだ」


 真剣にうなずくアグニに、俺はその赤い瞳をじっと見つめ返す。


「……それが事実かどうか、確認でき次第、紹介しよう」

「っ、ありがとうな」


 ホッとした様子で微笑んだアグニは、俺の手を両手で掴みブンブンと振るのだった。
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