我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第四百六十八話 魚の狂気

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 我輩、面倒事になる前にと、一気に駆け出す。しかし……。


「みっ!? (ふぇっ!?)」

「にゃっ!? (なぬっ!?)」


 駆け出した方向に居た同胞の子供を前に、我輩、必死に急ブレーキをかける。何とか子供の前で止まることに成功した我輩は、今度こそ安全を確認して駆け出そうとして……。


「みぃっ(きゅーせーねこさまーっ)」


 なぜか、こんな子供にまで知れ渡っていた救世猫という言葉に、我輩、硬直する。


「んにゃんっ!? (あの方が救世猫様!?)」

「にゃーお……(まさか、本当に居るとは……)」


 ワラワラと集まった同胞に囲まれて、我輩、逃げ道を失う。


「んにゃにゃっ(救世猫様っ、どうか、俺達に魚をっ)」

「にゃおっ(そうだ、魚をっ)」

「にゃーっ(魚をっ)」

「みぃっ(しゃかなをっ)」


 そうして広まる魚コール。心なしか、同胞達の目は狂気に彩られているような気がする。


 ……これは、下手な答えをすれば、命に関わるのだ。


 ここで、我輩が救世猫ではないと否定すれば、恐らく、彼らは狂気に駆られたままに襲ってくるだろう。また、魚が手に入らないと分かれば、それも同じこと。我輩の答え次第で、我輩の命運が決まる。


「にゃあ(静まるのだ)」


 続く魚コールに恐怖しながらも、我輩、極力落ち着いた声を出してみせる。その声で、一瞬にして静まり返ったのを確認すると、我輩、必死に頭を回転させながら、口を開く。


「にゃ。にゃあ(今、我々は危機に瀕している。それは、皆も知るように、魚が獲れなくなったからだ)」

「んにゃあっ(そうだそうだっ)」

「にゃおにゃおにゃお(魚魚魚魚魚魚)」


 狂気の視線がとっても怖かったものの、それでも我輩、踏ん張る。


「にゃにゃー。にゃー(そして、此度、我輩は強力な仲間達とともに、その問題に取り組むこととなった。魚を取り戻すため、動くこととなったのだ)」

「「「にゃー(おぉっ)」」」


 どよめく空気に、我輩、懸命にその先の言葉を考える。


「にゃ。にゃあにゃ(しかし、情報が足りない。魚を取り戻すために必要な情報が、圧倒的に足りないのだ)」

「んにゃっ!? (何だってっ!?)」

「にゃおっ(どんな情報だっ)」

「にゃあっ(おいらが知ってることなら何だって教えるぞっ)」

「み? (じょーほー?)」


 最後の子供の声に癒されながらも、我輩、ヨナと、ヨナを取り巻く状況に関する情報がほしいことを告げる。それが必ず、今回のボスティア海国の誘拐事件に繋がると告げて。


「んにゃあぁっ(野郎共っ、情報を集めるぞっ)」

「「にゃーっ! (おーっ!)」」

「みーっ(おーっ)」


 そうして、次の瞬間には、同胞達は目にも止まらぬ速さでその場を去る。残されたのは我輩一人。なんと、あの子供までもが去っていったのだ。


 た、助かった……。


 我輩は、この時は思ってもみなかった。本気になった同胞達が、あんなとんでもない情報を運んでくるなど。


 ……帰るのだ。


 我輩は、近いうちに思い知る。同胞達の底力を。そして……救えなかった無力さを。

 ただの散歩でやたらと疲れた我輩は、宿屋に戻って一眠りすべく、トボトボと歩き出すのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


魚、猫にとっては重要なんですね。

狂気に彩られた目は、さぞかし怖かったことでしょう。

それでは、また!
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