我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第五百三話 スピード

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 我輩、水の流れを支配するために、ひとまず辺り一帯に魔力を放出してみる。


「うむ、こんなものなのだ」

「タ、ロ?」


 その時、我輩はディアムの顔が引きつっていることに気づかず、早速移動開始とする。


「行くのだっ!」


 次の瞬間、背後から押される感覚が……いや、もはや攻撃と言っても過言ではないほどの衝撃が来る。


「ちょっ、タロ! ストップっ!」

「ぬぅうっ!?」

「きゃあぁぁあっ!」


 一瞬にしてパニックに陥る面々。そして、景色はどんどん凄まじいスピードで後ろに流れていく。


「おぉっ! 車みたいなのだっ!」


 我輩、高いところは苦手だが、速いのは問題ない。むしろ、大歓迎なのだ。


「もっと速くしてみるのだっ!」

「やめっ」


 ディアムが何かを言った気がしたが、我輩、さらにスピードを上げることに専念する。気分は上々。我輩、水中でこんなに楽しいことができるとは思っていなかったため、嬉しくて仕方がない。

 ゴォォォオッという音とともに、周囲の建物がミシミシいっていることにも気づかずに、我輩、どんどんスピードを上げていく。


「ふおぉぉぉおっ」

「ぐっ……」

「ぬっ……」

「……」


 楽しく楽しくスピードを堪能した我輩は、途中で、そういえば人気のない場所にいかなければならなかったのだと思い出す。


「うむ、とりあえず、色々探すのだっ」


 その言葉に、ディアム達が絶望の表情を浮かべたことには、我輩、最後まで気づくことはなかった。






「ここなら大丈夫……うむ? ヨナはどうしたのだ?」

「……気絶、した」

「うむ?」


 何やら青い顔のディアムが、やっとこさといった様子で言葉を絞り出す。


「……」


 なぜ気絶したのか分からず、ロギーにも視線を向けたものの、ロギーは口を押さえて沈黙するのみだった。


「問題はないのだろうか?」


 そんな言葉に対して返ってくるのは、やはり沈黙のみ。どうやら、今はもう、ディアムも口を開くのが億劫な状態になってしまったらしい。


「ううむ……なぜ、そんな青い顔なのかは知らないのだが、とりあえず、これで話し合いの場は整ったのだ」


 我輩は知らない。ある程度体調が戻ったディアムとロギーから、厳しくお説教をされる未来があることを。目覚めたヨナが、我輩を見て悲鳴を上げることを。


 どうやら、あんまり速い移動は危険らしいのだ。


 その結論に至るまで、我輩、延々と正座をさせられるのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


前回でほのめかしたコメディの予感は、しっかり的中しました。

そして、そろそろバルディス達を出したいかなぁ、といったところです。

それでは、また!
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