我輩は紳士である（猫なのに、異世界召喚されたのだが）

第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第五百五十九話 巨大魚探索（三）

　我輩達は、とりあえずその転移陣に近づこうとして……何やら、周りの肉の壁が、その転移陣を覆い隠そうと動き出したのに気づいて急ぐ。


「このまま突っ込むのだ」

「にゃっ（分かったのだっ）」

「あぁっ」


　飼い主に抱えられて、水の中を高速で泳ぐ。徐々に塞がっていく肉の壁の間をすり抜けて進んだ結果……。


「……にゃ？　（……このままではぶつかるのでは？）」


　凄まじい速度で進む我輩達。その未来を想像し、青くなったのは、恐らく我輩だけなのだろう。飼い主も二号も、我輩の声は聞こえているはずなのに動じることなく、そのままさらに速度を上げる。


「ふにゃあぁぁぁぁぁあっ！　（うわぁぁぁぁぁぁあっ！）」


　ぶつかる。そう思った直後、壁にあった転移陣が輝き、景色が一変するのだった。








「ふむ、ここが、私達を近づけたくなかった場所か」

「ここは……巨大魚の中とは別の場所のような気がするな」

「にゃっ、にゃあ？　（ふぁっ、い、痛くない？）」


　飼い主と二号の言葉に、我輩、恐る恐る目を開けて、あの肉の壁がなくなっていることに気づく。と、いうよりも、ここは、巨大魚の腹の中ではなさそうな場所だった。
　飼い主が『光源』を使うと、その地面には大きな岩がゴロゴロと存在し、海藻がウネウネとうねっているような状態に見えた。


「これは、外かもしれないのだ」


　転移した先が外の空間だったということは、我輩達、まんまと追い出されたということなのだろうかと考えていると、飼い主は次々に『光源』を増やしていく。そのおかげで……我輩達、ここが外ではないということに気づけた。


「巨大な牢屋……」

「うむ、そのようなのだ」


　我輩達が居た場所は、まさに、二号が言った通りの状態だった。目の細かい柵に囲まれて、半径数百メートルくらいの距離が囲まれている。いったい、どんな巨大生物を閉じ込めるために作られたのだと言いたくなる牢屋だが、我輩達以外でこの牢屋の中に居る者はいない。


「ふむ、とにかく、調べてみるのだ」


　しん、と静まり返った海の中、我輩達は、ゆっくりとこの周りを観察することにしたのだった。