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第一章 アルトルム王国の病
第六話 街と猫(一)
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レディの話を聞き終えた我輩は、今、街を散策している。それもこれも、レディを助けるためだ。
そうして、我輩は、心地よい風が吹き抜ける街を歩く。
石畳の街道に、時折ガタゴトと馬車が通り過ぎる。レンガ造りの家々が建ち並び、人々で賑わうそこは、我輩が元居た世界とは別世界なのだと、まざまざと知らせてくる。
「にゃあ(ふむ、それにしても、同胞が見当たらないな)」
街を歩き始めてもうすぐ一時間は経つのだが、我輩の同胞。つまりは、猫が見当たらない。それらしい場所はいくつも巡ってみているものの、さすがにこれはおかしいとしか思えない。
「にゃあ? (もしや、我輩の同胞を殺す人間でも居るのだろろか?)」
確か、我輩が元居た世界でも、そんな人間が居たはずだ。
ただ、それにしては、道行く人間達がもの珍しげに我輩を見ているのが気になるが……。
狭い路地に入り辺りを眺める我輩は、思った以上に同胞が見つからず、焦燥を覚える。我輩としては、同胞から様々な情報を得て行動をしたかったのだが、そもそも見つからないという状況は、想定外なのだ。
と、そんなとき、我輩の耳に、野太い声が届く。
「ヂュー」
声の方向へと視線を向けると、そこには、丸々と太り、丸い耳と出っ歯が特徴的な灰色の獲物、ネズミがいた。ただし、我輩が知るネズミよりも体が大きく、我輩と変わらない大きさではあるが……。
「にゃにゃっ(こっ、これはっ、極上の獲物なのだっ)」
これほど大きなネズミを見るのは初めてで、我輩は一気に興奮する。
しかし、不可思議なことに、ネズミの方は我輩を見て、逃げようとしない。襲われないと思っているのか、はたまた、この世界の猫はネズミを襲わないのかは知らないが、我輩にとってはまたとないチャンス。
我輩は、素早く駆け出し、日々研ぎ澄ませてきた爪を振りかざす。
「にゃおーんっ! (猫流奥義、ガリガリっ!)」
「ヂュッ!?」
ネズミは、まるで我輩の攻撃を予想していなかったのか、大きく動揺し、動かない。そのため、我輩の爪は、ネズミの片目を抉るように引っ掻く。
「ヂューッ!!」
「……にゃ? (……ん?)」
引っ掻いたは良いものの、これ、我輩が思っていた威力ではないのだ。我輩、けっして、ネズミが悲鳴を上げて卒倒する光景を期待していたわけではないのだ。ただ、ちょっと遊びたかっただけなのだ。
しばし呆然と、我輩は自身の前足を見て、原因を考え……すぐに、身体能力が向上していたことを思い出す。
「にゃ…? (まさか、我輩、これから一生、本気でネズミを追いかけられないのでは…?)」
そんな嫌な予感を抱きつつ、倒れたネズミの様子を見てみると、ピクピクと痙攣し……やがて、動かなくなる。
「……にゃあ(……どうやら、やってしまったのだ)」
我輩、ネズミは美味しくないから嫌いなのだが、玩具として遊ぶのは好きだったのだ。これは、紳士云々関係無しの、どうにもならない本能なのだ。
「にゃう(今度から、力をセーブしなければ遊べないのだな)」
飼い主が居れば、ここは『こんなに大きな獲物を獲ったのだっ』と自慢したいところではあるものの、飼い主が居ない今、こんなに大きな獲物を獲っても喜べない。
「にゃっ! (こんな時は、放置に限るのだっ!)」
放置していれば、誰か他の者の糧となるはず。そう、それこそ、今聞こえる鳴き声の主達とか……。
「にゃ? (はて、この鳴き声は?)」
何者かの声に振り向くと、我輩、ソイツらとちょうど目が合う。
「「「ヂューッ」」」
どうやら、遊び道具が増えたらしい。
なぜか、天敵であるはずの我輩に向かってくるネズミの大群を見て、我輩、ドキドキワクワクなのだ。
「ふしゃーっ(我輩に戦いを挑むなど、百年早いのだっ)」
「「「ヂュヂューッ」」」
飼い主は、良く言っていたのだ。『紳士たるもの、全ての武術に精通していなければならない』と。しかし、我輩には人間と同じ動きはできないため、我輩の技は、我輩独自の武術。
「にゃおーんっ! (猫流奥義、かわしてドンっ!)」
我輩、飼い主のカウンターという技を参考に編み出したこの技で、ネズミどもの攻撃を紙一重でかわし、強烈な猫パンチを放つ。
「にゃにゃーっ(フハハハハッ、弱いっ、弱いのだっ)」
我輩の猫パンチで、次々に宙を舞うはめになるネズミどもを見て、我輩、ハイテンションが止まらないのだ。
「にゃーっ。にゃ? にゃあ? (フハハハハッ。ん? 終わったか?)」
いつの間にか、我輩は全てのネズミを倒し終えていたらしい。ネズミ達は、少し離れたところで、道を塞ぐように山積みになっていた。
「にゃあ(ふむ、これはこれで爽快な遊びなのだ)」
我輩、この世界での遊び方を覚えたのだ。これはとても重要なことなのだっ。
我輩は、戦いの末に汚れてしまった身体を舐めて清めながら、興奮を抑える。服は舐める際に邪魔ではあるが、紳士のたしなみとして脱ぐわけにはいかない。身を清め、爪をしっかりと研ぎ、身支度を整えた我輩はそうしてまた、路地裏を歩きはじめる。
そして……我輩は、とうとう見つけた。
「にゃっ! (同胞なのだっ!)」
「みにゃうっ!? (だ、誰だっテメェっ!?)」
茶白の同胞を見つけ、思わず声をかけたものの、なぜか警戒をされてしまう。だから、我輩は極力穏やかに話しかけることにする。
「にゃー。にゃ。にゃあにゃにゃー(驚かせて申し訳ないのだ。我輩はタロ。今日ここに来たばかりで、同胞を探していたのだ)」
「ふしゃーっ。ふしゃーっ(おいっ、声を上げるんじゃねぇっ。マウマウに見つかったらどうしてくれるっ)」
「にゃ? (マウマウ?)」
茶白の同胞は、何やら『マウマウ』なる存在を警戒しているらしく、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡し、毛を逆立てている。
「にゃー? (マウマウとは何なのだ?)」
分からないことは聞くに限る。我輩はそう思って尋ねると、茶白の同胞は目を真ん丸にして驚く。
「にゃにゃーにゃっ(おまっ、マウマウ知らねぇとか、どんだけ平和な田舎から来たんだよっ)」
「にゃーっ(日本というところから来たのだっ)」
「にゃにゃっ! (いやいや、地名言われても知らねぇからっ!)」
「にゃあ(ふむ、確かに、世界が違うから分かるはずもなかったのだ)」
「にゃ…にゃあ? (世界って…テメェ、頭大丈夫か?)」
「にゃあ。にゃ(む、大丈夫なのだ。我輩の頭はいつも通りエレガントなのだ)」
話をしていると、なぜか頭を心配され、しかも、現在進行形で憐れむような視線を受けている。
我輩、別におかしなことは何一つ言っていないはずなのだが……?
「にゃあ……(それより……)」
マウマウとはどんなものなのか、今一度尋ねようとしたところで、奴は、来た。
「ヂュー」
ネ・ズ・ミ、なのだーっ!!
そうして、我輩は、心地よい風が吹き抜ける街を歩く。
石畳の街道に、時折ガタゴトと馬車が通り過ぎる。レンガ造りの家々が建ち並び、人々で賑わうそこは、我輩が元居た世界とは別世界なのだと、まざまざと知らせてくる。
「にゃあ(ふむ、それにしても、同胞が見当たらないな)」
街を歩き始めてもうすぐ一時間は経つのだが、我輩の同胞。つまりは、猫が見当たらない。それらしい場所はいくつも巡ってみているものの、さすがにこれはおかしいとしか思えない。
「にゃあ? (もしや、我輩の同胞を殺す人間でも居るのだろろか?)」
確か、我輩が元居た世界でも、そんな人間が居たはずだ。
ただ、それにしては、道行く人間達がもの珍しげに我輩を見ているのが気になるが……。
狭い路地に入り辺りを眺める我輩は、思った以上に同胞が見つからず、焦燥を覚える。我輩としては、同胞から様々な情報を得て行動をしたかったのだが、そもそも見つからないという状況は、想定外なのだ。
と、そんなとき、我輩の耳に、野太い声が届く。
「ヂュー」
声の方向へと視線を向けると、そこには、丸々と太り、丸い耳と出っ歯が特徴的な灰色の獲物、ネズミがいた。ただし、我輩が知るネズミよりも体が大きく、我輩と変わらない大きさではあるが……。
「にゃにゃっ(こっ、これはっ、極上の獲物なのだっ)」
これほど大きなネズミを見るのは初めてで、我輩は一気に興奮する。
しかし、不可思議なことに、ネズミの方は我輩を見て、逃げようとしない。襲われないと思っているのか、はたまた、この世界の猫はネズミを襲わないのかは知らないが、我輩にとってはまたとないチャンス。
我輩は、素早く駆け出し、日々研ぎ澄ませてきた爪を振りかざす。
「にゃおーんっ! (猫流奥義、ガリガリっ!)」
「ヂュッ!?」
ネズミは、まるで我輩の攻撃を予想していなかったのか、大きく動揺し、動かない。そのため、我輩の爪は、ネズミの片目を抉るように引っ掻く。
「ヂューッ!!」
「……にゃ? (……ん?)」
引っ掻いたは良いものの、これ、我輩が思っていた威力ではないのだ。我輩、けっして、ネズミが悲鳴を上げて卒倒する光景を期待していたわけではないのだ。ただ、ちょっと遊びたかっただけなのだ。
しばし呆然と、我輩は自身の前足を見て、原因を考え……すぐに、身体能力が向上していたことを思い出す。
「にゃ…? (まさか、我輩、これから一生、本気でネズミを追いかけられないのでは…?)」
そんな嫌な予感を抱きつつ、倒れたネズミの様子を見てみると、ピクピクと痙攣し……やがて、動かなくなる。
「……にゃあ(……どうやら、やってしまったのだ)」
我輩、ネズミは美味しくないから嫌いなのだが、玩具として遊ぶのは好きだったのだ。これは、紳士云々関係無しの、どうにもならない本能なのだ。
「にゃう(今度から、力をセーブしなければ遊べないのだな)」
飼い主が居れば、ここは『こんなに大きな獲物を獲ったのだっ』と自慢したいところではあるものの、飼い主が居ない今、こんなに大きな獲物を獲っても喜べない。
「にゃっ! (こんな時は、放置に限るのだっ!)」
放置していれば、誰か他の者の糧となるはず。そう、それこそ、今聞こえる鳴き声の主達とか……。
「にゃ? (はて、この鳴き声は?)」
何者かの声に振り向くと、我輩、ソイツらとちょうど目が合う。
「「「ヂューッ」」」
どうやら、遊び道具が増えたらしい。
なぜか、天敵であるはずの我輩に向かってくるネズミの大群を見て、我輩、ドキドキワクワクなのだ。
「ふしゃーっ(我輩に戦いを挑むなど、百年早いのだっ)」
「「「ヂュヂューッ」」」
飼い主は、良く言っていたのだ。『紳士たるもの、全ての武術に精通していなければならない』と。しかし、我輩には人間と同じ動きはできないため、我輩の技は、我輩独自の武術。
「にゃおーんっ! (猫流奥義、かわしてドンっ!)」
我輩、飼い主のカウンターという技を参考に編み出したこの技で、ネズミどもの攻撃を紙一重でかわし、強烈な猫パンチを放つ。
「にゃにゃーっ(フハハハハッ、弱いっ、弱いのだっ)」
我輩の猫パンチで、次々に宙を舞うはめになるネズミどもを見て、我輩、ハイテンションが止まらないのだ。
「にゃーっ。にゃ? にゃあ? (フハハハハッ。ん? 終わったか?)」
いつの間にか、我輩は全てのネズミを倒し終えていたらしい。ネズミ達は、少し離れたところで、道を塞ぐように山積みになっていた。
「にゃあ(ふむ、これはこれで爽快な遊びなのだ)」
我輩、この世界での遊び方を覚えたのだ。これはとても重要なことなのだっ。
我輩は、戦いの末に汚れてしまった身体を舐めて清めながら、興奮を抑える。服は舐める際に邪魔ではあるが、紳士のたしなみとして脱ぐわけにはいかない。身を清め、爪をしっかりと研ぎ、身支度を整えた我輩はそうしてまた、路地裏を歩きはじめる。
そして……我輩は、とうとう見つけた。
「にゃっ! (同胞なのだっ!)」
「みにゃうっ!? (だ、誰だっテメェっ!?)」
茶白の同胞を見つけ、思わず声をかけたものの、なぜか警戒をされてしまう。だから、我輩は極力穏やかに話しかけることにする。
「にゃー。にゃ。にゃあにゃにゃー(驚かせて申し訳ないのだ。我輩はタロ。今日ここに来たばかりで、同胞を探していたのだ)」
「ふしゃーっ。ふしゃーっ(おいっ、声を上げるんじゃねぇっ。マウマウに見つかったらどうしてくれるっ)」
「にゃ? (マウマウ?)」
茶白の同胞は、何やら『マウマウ』なる存在を警戒しているらしく、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡し、毛を逆立てている。
「にゃー? (マウマウとは何なのだ?)」
分からないことは聞くに限る。我輩はそう思って尋ねると、茶白の同胞は目を真ん丸にして驚く。
「にゃにゃーにゃっ(おまっ、マウマウ知らねぇとか、どんだけ平和な田舎から来たんだよっ)」
「にゃーっ(日本というところから来たのだっ)」
「にゃにゃっ! (いやいや、地名言われても知らねぇからっ!)」
「にゃあ(ふむ、確かに、世界が違うから分かるはずもなかったのだ)」
「にゃ…にゃあ? (世界って…テメェ、頭大丈夫か?)」
「にゃあ。にゃ(む、大丈夫なのだ。我輩の頭はいつも通りエレガントなのだ)」
話をしていると、なぜか頭を心配され、しかも、現在進行形で憐れむような視線を受けている。
我輩、別におかしなことは何一つ言っていないはずなのだが……?
「にゃあ……(それより……)」
マウマウとはどんなものなのか、今一度尋ねようとしたところで、奴は、来た。
「ヂュー」
ネ・ズ・ミ、なのだーっ!!
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