我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第一章 アルトルム王国の病

第十四話 話し合い

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 パンとリンゴで一先ずの飢えをしのいだ男は、改めて、場所を移動して、近くの宿屋へと入る。そこにはもちろん、我輩も着いていき…………宿屋の主人に嫌な顔をされたものの、何とか入ることはできた。

 ちなみに、この頃になって、我輩はチャーの存在を思い出した。案内してもらったにもかかわらず、勝手に飛び出して置いていってしまったことを。


 すまない。チャー。この穴埋めは、必ずさせてもらうのだ。


 ここには居ないチャーへの謝罪の気持ちでいっぱいになりながらも、我輩、使命のために三人へついていく。


「さぁ、それでは話してもらいましょうか? バル?」

「説明、求む」

「あ、あぁ」


 ラーミアとディアムに迫られる形で壁に追いやられた、バルという名の男は、どもりながらも話を始めようとし、チラリと、我輩を見る。


「にゃ? (どうかしたのか?)」

「あー、いや、猫に聞かせても良いものかと……」

「それもそうですね。猫科の獣人や魔族の一部には猫の言葉を理解する者もいますし…」

「防音、推奨」


 よくは分からないが、何やら我輩は聞いてはいけないらしい。しかし、我輩の直感は、この三人の話を聞かなければと示している。こういう時の直感はよく当たる。ここは、どうにかして話に参加させてもらうか、こっそり聞くしかないであろう。


「にゃあ? (我輩、聞かない方が良いのであろうか?)」


 我輩は、目を潤ませて問いかけてみる。
 紳士である我輩は、できることなら盗み聞きなどということはしたくない。しかし、これで落ちないのであれば、もう、我輩にはこっそり盗み聞きするという選択肢しか残らないのだ。
 食べ物をねだる時の倍は瞳を潤ませて、我輩、唯一言葉の通じるバルへと視線を向け続ける。


 うるうる。


「……」


 うるうるうる。


「……っ」


 うるうるうるうる。


「…………うっ……わ、分かった。ただし、他言無用だ」

「バル!?」

「…小動物バカ」

「にゃあっ(本当であるのかっ)」


 ディアムが何やらボソリとバルへの罵倒をぶつけたような気がしたが、それよりも許可を得られたことが重要だ。これで、我輩、ちゃんと話し合いに参加できるのだっ。


「た、ただし、俺達のことを話せないように『しゅ』をかける」

「……分かりましたわ。それなら、文句ありませんわ」

「同意」

「にゃあにゃー(『しゅ』が何かは分からないが、それで安心できるのであれば、構わないのだ)」


 話が聞けるなら、それで構わない。我輩、多くは求めないのだ。
 我輩がバルの提案に同意すると、バルはおもむろに我輩の頭に手を乗せる。


 うむぅ、心地好いのだ。


 我輩に触れるその手は温かく、動物の扱いに慣れているのか、絶妙な力加減による撫で心地であった。


「俺達の正体、及び、これから話す内容を他者にもらすことを禁じさせてもらう。いいな?」

「にゃあ(もちろんなのだ)」


 我輩を撫でながら問いかけるバルに、我輩、誠実に応える。すると、何やら頭がぽわんと温かくなる。恐らく、先程から口にしていた『しゅ』とやらの影響なのであろう。我輩、こんな感覚は初めてであるが、ちゃんと話の流れを読み取ることくらいできるのだ。


「さぁ、防音も施しましたし、今度こそ、話してください。バル。いえ、バルディス。我らが魔王よ」


 『魔王』という言葉に、我輩、一瞬、何を言っているのか、理解できなかった。なぜなら、この国に根強く噂されているものが、『魔王がアルトルムに病をばら蒔いた』というものであるからだ。
 我輩、それを聞いた時には、そもそも魔王という者の存在すら疑っていた。我輩の世界では、そのような存在は、我輩の世界では夢物語としてしか存在していなかったせいで、そう思っていたのだ。しかし、目の前の存在が魔王を名乗るのであれば、それは正しいのであろう。
 ただ、最も重要なことは、この魔王が、本当に噂通り、病をばら蒔いたのかどうかという点のみ。我輩、少し緊張しながら、話を聞くことにする。


「あぁ、そうだな。まず、お前達と別れた後、俺は病に関する情報収集のため、国中を駆け回った」

「有力な情報は何かありましたか?」

「残念ながら……ただ、俺を倒すべく、勇者が召喚されるという情報を得たのみだった」

「俺も、その情報、得た」

「ですが、召喚は失敗だったらしいですね」

「あぁ、そうらしいな」


 話を聞こうと身構えた我輩の前で話されたのは、どうやら、勇者に関すること。


 勇者、勇者…………ん? そういえば、我輩が勇者として召喚されたのではなかろうか?


 何だか我輩、重要人物になった気がして、落ち着かない。


「それで、駆け回っている間に、路銀が尽きて、あそこで倒れていたというわけだ」

「なるほど。それで、この猫に『映写』の魔法を仕込んで私達を捜させたというわけですね」

「ん?」

「? どうかしましたか? バル」

「いや、『映写』の魔法とは、何のことだ?」


 と、そこで、流れるように続いていた会話がプツリと途切れる。


 そういえば、我輩、サポートシステムとやらで映像を写してもらっていたのだったな。


 一斉にこちらへと視線を向けた三人の様子に、我輩、ちょびっと怖くなりながらも、その時のことを思い出してみる。そして……。


「にゃ(我輩、悪くないのだ)」


 そう言うと、バルがポカンと口を開け、驚愕を示すのであった。
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