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第一章 アルトルム王国の病
第十六話 目的
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「にゃあぁ(ふわぁ、良く寝たのだ)」
ゆっくりと眠り、目を覚ました我輩は、身繕いをして、キョロキョロと辺りを見渡す。
そこは、眠る前に居た宿屋の一室で間違いない。心地好い陽光は、今や夕焼けに変わっている。眠る前には、確かにあった窓辺の光が、起きてみると別の場所に移動している。その現象は、我輩が居た世界と変わらないらしく、何とも残念なことだ。できることなら、一日中、暖かな光の中で眠ってみたいものだ。
「起きたか」
「にゃ(おぉ、おはようなのだ)」
バルディスに声をかけられた我輩は、すかさず挨拶をする。挨拶というものは、人と接するにあたって基本中の基本なのだ。
しかし、顔を上げてバルディスを見て、我輩、目を疑う。そこには、世のレディ達が悲鳴を上げそうなほどに整った顔立ちの、白い肌の男が居た。金糸のごとき美しい髪に、エメラルドの瞳。その下瞼には、泣きボクロが一つあり、ムワリと漂う色気が凄まじい。
ただし、その頭には、人間には存在しないものもあった。
「にゃあ? (角?)」
そう、バルディスの頭には、羊のような丸く曲がった角が二つ、付いていた。それは、光沢を帯びた濡れ羽色で、じっと見ていると惹き付けられそうになる。
「あぁ、魔族なら、角はあって当然だ」
『まぞく』という単語に聞き覚えのない我輩は、何らかの種の名称なのであろうと当たりをつける。
「そんなことより、勝手に寝られて、俺がどれだけ大変な目にあったと思っている?」
「にゃあ。にゃーにゃ(む、我輩は猫なのだ。寝るのは自由なのだ)」
猫には、自由に寝る時を決める権利がある。これは、どの猫にも当てはまる不文律なのだ。だから、そのことで責められる謂れはない。
「……はぁ」
「にゃっ。にゃにゃっ(何かは知らないが、ため息は良くないのだっ。ため息を吐くと、幸せが逃げると飼い主が言っていたのだっ)」
何かを諦めたかのような表情でため息を吐くバルディスに、我輩、飼い主から教えてもらったことを伝えてみる。飼い主はとても物知りであったから、間違いなどあろうはずもないのだ。
「飼い主? お前、飼い猫か? いや、当たり前だよな、そんな立派な服を着ているくらいなんだから」
「にゃにゃっ。にゃー(これは、我輩のために飼い主がくれた紳士としての服なのだ。大切なものなのだ)」
飼い主の言葉に関しては無視されてしまったが、服のことを褒められて嬉しくないわけがない。我輩、ゴロゴロと喉を鳴らしてバルディスの足にまとわりつく。
「お、おぉ、そうか……良かったな」
「にゃ(うむ)」
どことなく嬉しそうな顔のバルディス。しかし、その嬉しさを懸命に隠そうとしている様子のバルディス。
うむ、そんな変顔も楽しいから良いと思うのだ。
バルディスが我輩のような小動物が好きらしいということは、何となく、動物としての勘から気付き始めている。もちろん、出会ったばかりの頃は、本気で食べられるかと思ったものだが、我輩と接するバルディスは、どことなく甘い。きっと、これは『虚勢を張っている』という状況なのであろう。もしくは、『ツンデレ』というやつなのかもしれない。
「そ、それより、だな。お前は勇者で間違いないのか?」
「にゃー。にゃあ(多分、そうなのだ。セイクリアがそう言っていたのだ)」
「………セイクリア?」
「にゃあ。にゃーにゃっ(そうなのだ。確か、『せかいしん』だと言っていたのだっ)」
「セイクリア、せかいしん……世界、神? …………よし、突っ込みは後にしよう」
「にゃ? (どうしたのだ?)」
「いや、何でもない。それより、勇者召喚の目的については、何か分かるか?」
何やら青い顔でブツブツと言っていたバルディスは、我輩の問いかけに答えることなく、質問を返してくる。
ううむ、我輩も質問したいのだが…仕方ない。全て答えてからにするのだ。
「にゃあにゃあ(我輩が召喚された理由は、世界を救うためなのだ)」
「具体的には?」
「にゃーにゃっ(不幸の欠片を持つ者を探し、事件を解決し、欠片の回収を行うのだっ)」
「はっ?」
「にゃにゃー(そのためにまず、この国の病の終息が最優先なのだ)」
まるで信じられないことを聞いたとでも言うかのように、バルディスは目を見開く。しかし、我輩、なぜバルディスがそのような反応を示すのかが分からず、首をかしげることしかできない。我輩、間違ったことは言っていないのだ。
「…………勇者は、魔王を倒すために召喚されたのではないのか?」
「にゃあ? (我輩、そんなこと言われていないのだが?)」
魔王を倒す、というと、バルディスを倒すということになるのだろうか。だが、我輩、そんなこと、一言も聞いてはいない。無論、それでこの国の病がどうにかなるのであれば、努力するつもりではあるものの、我輩の話をしっかりと聞いてくれるバルディスが、人を苦しめる病をばら蒔くとはどうにも思えなかった。
「俺達の……いや、俺の目的は、病の原因を突き止め、魔王の即位と病が関係ないことを示すことだ」
バルディスの姿を見つめながら考えていると、バルディスはなんと、我輩と同じような目的を持っていると話す。そして、それは同時に、やはり、この病の原因が、バルディス達にはないことを意味していた。
「にゃにゃっ。にゃー(病の原因を突き止めるというところまでの目的は同じなのだなっ。それでは、我々は同志というわけだ)」
言葉が通じる者が同志とは、我輩、ラッキーなのだ。これなら、我輩が得にくい情報も得られるかもしれないのだ。
「同志…魔王と勇者が同志……そうか、同志か………」
難しい顔をして何やら考え込むバルディス。
そんなに、勇者と魔王は相容れないものなのだろうか? ううむ、不思議だ。はっ、それとも……。
「にゃ? にゃあ…(猫が協力者では心許ないのであろうか? 我輩、頑張って情報を集められると思うのだが…)」
確かに、我輩は猫だ。人間程、できることは多くない。そうなると、我輩、足手まといになるのかもしれないのだ。
「あっ、いや、そういうわけじゃなくてだな……まぁ、いいか。短い間かもしれないが、よろしく頼む」
おぉっ、何だか認めてもらえたようなのだっ。これで、我輩の目的も達成させられる目処が立ったのだ。
「にゃあ。にゃー(ありがとうなのだ。こちらこそ、よろしく頼むのだ)」
心強い仲間を得た我輩は、ウキウキなのだ。我輩、紳士として、勇者として、頑張るのだっ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者は魔王を仲間にした。
『なんでやねんっ』などの突っ込みは、随時受付中(笑)
そしてそして、お気に入り登録が二桁になりました!
感激ですっ、ありがとうございますっ!
タロ、これからも頑張りますっ。
ゆっくりと眠り、目を覚ました我輩は、身繕いをして、キョロキョロと辺りを見渡す。
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「起きたか」
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バルディスに声をかけられた我輩は、すかさず挨拶をする。挨拶というものは、人と接するにあたって基本中の基本なのだ。
しかし、顔を上げてバルディスを見て、我輩、目を疑う。そこには、世のレディ達が悲鳴を上げそうなほどに整った顔立ちの、白い肌の男が居た。金糸のごとき美しい髪に、エメラルドの瞳。その下瞼には、泣きボクロが一つあり、ムワリと漂う色気が凄まじい。
ただし、その頭には、人間には存在しないものもあった。
「にゃあ? (角?)」
そう、バルディスの頭には、羊のような丸く曲がった角が二つ、付いていた。それは、光沢を帯びた濡れ羽色で、じっと見ていると惹き付けられそうになる。
「あぁ、魔族なら、角はあって当然だ」
『まぞく』という単語に聞き覚えのない我輩は、何らかの種の名称なのであろうと当たりをつける。
「そんなことより、勝手に寝られて、俺がどれだけ大変な目にあったと思っている?」
「にゃあ。にゃーにゃ(む、我輩は猫なのだ。寝るのは自由なのだ)」
猫には、自由に寝る時を決める権利がある。これは、どの猫にも当てはまる不文律なのだ。だから、そのことで責められる謂れはない。
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何かを諦めたかのような表情でため息を吐くバルディスに、我輩、飼い主から教えてもらったことを伝えてみる。飼い主はとても物知りであったから、間違いなどあろうはずもないのだ。
「飼い主? お前、飼い猫か? いや、当たり前だよな、そんな立派な服を着ているくらいなんだから」
「にゃにゃっ。にゃー(これは、我輩のために飼い主がくれた紳士としての服なのだ。大切なものなのだ)」
飼い主の言葉に関しては無視されてしまったが、服のことを褒められて嬉しくないわけがない。我輩、ゴロゴロと喉を鳴らしてバルディスの足にまとわりつく。
「お、おぉ、そうか……良かったな」
「にゃ(うむ)」
どことなく嬉しそうな顔のバルディス。しかし、その嬉しさを懸命に隠そうとしている様子のバルディス。
うむ、そんな変顔も楽しいから良いと思うのだ。
バルディスが我輩のような小動物が好きらしいということは、何となく、動物としての勘から気付き始めている。もちろん、出会ったばかりの頃は、本気で食べられるかと思ったものだが、我輩と接するバルディスは、どことなく甘い。きっと、これは『虚勢を張っている』という状況なのであろう。もしくは、『ツンデレ』というやつなのかもしれない。
「そ、それより、だな。お前は勇者で間違いないのか?」
「にゃー。にゃあ(多分、そうなのだ。セイクリアがそう言っていたのだ)」
「………セイクリア?」
「にゃあ。にゃーにゃっ(そうなのだ。確か、『せかいしん』だと言っていたのだっ)」
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「いや、何でもない。それより、勇者召喚の目的については、何か分かるか?」
何やら青い顔でブツブツと言っていたバルディスは、我輩の問いかけに答えることなく、質問を返してくる。
ううむ、我輩も質問したいのだが…仕方ない。全て答えてからにするのだ。
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「具体的には?」
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「はっ?」
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まるで信じられないことを聞いたとでも言うかのように、バルディスは目を見開く。しかし、我輩、なぜバルディスがそのような反応を示すのかが分からず、首をかしげることしかできない。我輩、間違ったことは言っていないのだ。
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バルディスの姿を見つめながら考えていると、バルディスはなんと、我輩と同じような目的を持っていると話す。そして、それは同時に、やはり、この病の原因が、バルディス達にはないことを意味していた。
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