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第一章 アルトルム王国の病
第十九話 花屋の娘(一)
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狭い路地を歩き、馬車が時々通るらしい大通を抜け、やってきたのは、小ぢんまりとした花屋だった。
しかし、そこは花屋であるにもかかわらず、肝心の花がほとんど見当たらない。普段なら花を挿しているのであろう壺はいくつかあったものの、そのほとんどは空っぽだ。
「にゃあ。にゃー(こっちです。師匠)」
「にゃ(うむ)」
どこか寂れたその花屋で、チャーは我輩に振り返った後、ズンズンと店の奥へと足を踏み入れる。それに、我輩は大人しくついていきながら、花屋の観察を続けることにした。
「にゃあ。にゃー(姐さん。ここ、開けてー)」
あまりにも華やかさに欠ける花屋の奥は、どうやら居住スペースがあるらしい。古ぼけた色合いの煉瓦と、木製の扉がチラリと見える。チャーは、その木製の扉に爪を立ててカリカリと引っ掻き、扉を開けてもらえるよう催促していた。
我輩は、ここの勝手など分からないので、とりあえず待機なのだ。
「はいはーい。今開けるわー」
チャーが扉を引っ掻き始めると、ほどなくして、明るいレディの声が返ってきた。
む、これが、落ち込んでいるレディの声、なのであろうか?
チャーからは落ち込んでいると聞いていた分、そのレディの声の明るさが意外で、我輩、内心、首をかしげる。しかし、チャーはその声を気にした様子もなく、扉が開けられるのをカリカリ引っ掻きながら待つ。そうして、扉はすぐに開かれた。
「おはよう。チャー。あら? あんた、友達連れて来たの?」
「にゃー。にゃにゃ(違う。師匠は師匠なんだ)」
「師匠?」
チャーと話していたレディが、我輩をマジマジと見る。彼女は、茶色のロングヘアーに、琥珀色の瞳、可愛らしい顔立ちをした、十代後半くらいのレディだった。服装は作業着らしいが、それでも胸ポケットに小さな花のアップリケが付いていてちょっと可愛らしい。ただ、我輩も、不躾とは分かっていたものの、そのレディの姿が気になってしまい、じっと見つめてしまう。
「にゃあにゃ(師匠、こちらは、この花屋の姐さんで、猫の獣人です)」
「にゃあ? (獣人?)」
そのレディの頭には、我輩達と同じ、耳が付いていた。ほんのり紅茶色の可愛らしい毛並みで、我輩、一瞬コスプレとやらだと思ったのだが、チャーの言葉を聞く限り違うようだ。事実、我輩達と会話ができている。
そして、気づいたことは他にもある。それは、チャーのこのレディが落ち込んでいるという言葉が真実であったということだ。声はそれなりに明るいが、表情は明らかに無理をしていた。
「うん、私は猫の獣人だよ。それより、師匠って……?」
「にゃにゃー。にゃあ。にゃー(これは、挨拶が遅れて申し訳ない。我輩は紳士タロである。チャーの紳士道を指導する師匠なのだ)」
無理矢理、微笑んで問いかけるレディに、我輩、問い詰めることはせずに答える。こういう時は、無理に聞き出すのは禁物なのだ。
「へぇ、珍しいね。チャーは強い猫になりたいとは言ってたけど、紳士だなんて」
我輩の答えに、レディは本当に驚いたらしく、目を丸くする。チャーの方はというと、レディの足にスリスリとじゃれついていたが、レディの答えに何か不満でもあるのか、不機嫌な鳴き声を漏らす。
「にゃあっ! ににゃっ(姐さんっ、師匠はすごいんだ! あのマウマウをやっつけたんだぜっ)」
「チャー、さすがにそれはないよ。マウマウを倒す猫なんて、居るわけない」
「ふしゃーっ(俺が見たんだから、本当だっ)」
うむ、何やら、我輩の行いについてで口論になりかけているようなのだ。ここは、早く止めなくてはっ。
「にゃあ。にゃあにゃ?(我輩のことは良いのだ。チャー、レディに突っかかるのは感心しないぞ?)」
「にゃ!? に、にゃあっ(師匠!? み、見捨てないでくださいっ)」
「……ふーん、マウマウのことはともかくとして、師匠って言うのは本当みたいね」
グリンッと振り返ってすがるように我輩の前に来て目を潤ませるチャーと、それを呆れたように見るレディ。我輩、チャーの信仰が強すぎて、ちょっと辛いのだ。
「それで、今日は餌を二倍ってことで良いの?」
「……にゃあ(……うん、姐さん、ごめんなさい)」
我輩への信仰は強くとも、チャーには周りを見る力があるようで、我輩が促すことなく、謝罪を行った。ただ、餌の件は知らないのだ。二倍ということは、きっと、我輩の分も入っているのであろう。しかし、我輩、確かにもらえたら嬉しいが、それが目的ではないのだ。
「にゃー? (師匠、一緒に食べてくれますか?)」
ただ、こうも必死に懇願されては、我輩、要らないとは言えないのだ。チャーは、一生懸命、上目づかいで我輩に伺いを立てる。花屋のレディは、その隙にまた、扉の内側に去ってしまい、もう、物理的にも拒否できないのだ。
「にゃ(分かったのだ)」
「にゃーお(師匠ぉー)」
渋々頷くと、チャーが感激をあらわに襲い…ゲフンゲフン、じゃれてきたのだ。我輩は、別に勢いよくじゃれられることには抵抗などないが、これは、下手をすれば引かれるレベルのものなのだ。引かれるレベルのじゃれ具合に関しては、ご想像にお任せするが……。
そうして待つこと数分で、餌を入れた器をレディが持ってきてくれた。
「にゃあ(ありがとうなのだ)」
「どういたしまして」
「に、にゃあ(あ、ありがとう)」
「うん、どういたしまして」
慣れない様子で我輩を真似てお礼を言うチャーに、我輩、子を見守る親の気持ちになりながら、ほのぼのとする。食事中くらいは、こんなのんびりとした雰囲気も悪くはないだろう。
外に出ていた椅子に腰掛け、我輩達を見るレディも、きっと同じ気持ちなのだ。どことなく落ち着いた空気を醸し出すレディに、我輩、ホッと安堵しながら、器に盛られた魚を食べるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
花屋の娘、本題まではたどり着けなかったので、まだ続きます!
猫を飼ってないから、猫ってどんなもの食べるんだろうと思いながら、ちょくちょく調べて書いてます。
魚は定番のイメージでしょうけどね。
そして、チャーの躾はしっかりとタロが担ってます(笑)
頑張れタロっ、信仰されながらだけど……と応援してあげてくださいなー。
それでは、次回をお楽しみにっ!
しかし、そこは花屋であるにもかかわらず、肝心の花がほとんど見当たらない。普段なら花を挿しているのであろう壺はいくつかあったものの、そのほとんどは空っぽだ。
「にゃあ。にゃー(こっちです。師匠)」
「にゃ(うむ)」
どこか寂れたその花屋で、チャーは我輩に振り返った後、ズンズンと店の奥へと足を踏み入れる。それに、我輩は大人しくついていきながら、花屋の観察を続けることにした。
「にゃあ。にゃー(姐さん。ここ、開けてー)」
あまりにも華やかさに欠ける花屋の奥は、どうやら居住スペースがあるらしい。古ぼけた色合いの煉瓦と、木製の扉がチラリと見える。チャーは、その木製の扉に爪を立ててカリカリと引っ掻き、扉を開けてもらえるよう催促していた。
我輩は、ここの勝手など分からないので、とりあえず待機なのだ。
「はいはーい。今開けるわー」
チャーが扉を引っ掻き始めると、ほどなくして、明るいレディの声が返ってきた。
む、これが、落ち込んでいるレディの声、なのであろうか?
チャーからは落ち込んでいると聞いていた分、そのレディの声の明るさが意外で、我輩、内心、首をかしげる。しかし、チャーはその声を気にした様子もなく、扉が開けられるのをカリカリ引っ掻きながら待つ。そうして、扉はすぐに開かれた。
「おはよう。チャー。あら? あんた、友達連れて来たの?」
「にゃー。にゃにゃ(違う。師匠は師匠なんだ)」
「師匠?」
チャーと話していたレディが、我輩をマジマジと見る。彼女は、茶色のロングヘアーに、琥珀色の瞳、可愛らしい顔立ちをした、十代後半くらいのレディだった。服装は作業着らしいが、それでも胸ポケットに小さな花のアップリケが付いていてちょっと可愛らしい。ただ、我輩も、不躾とは分かっていたものの、そのレディの姿が気になってしまい、じっと見つめてしまう。
「にゃあにゃ(師匠、こちらは、この花屋の姐さんで、猫の獣人です)」
「にゃあ? (獣人?)」
そのレディの頭には、我輩達と同じ、耳が付いていた。ほんのり紅茶色の可愛らしい毛並みで、我輩、一瞬コスプレとやらだと思ったのだが、チャーの言葉を聞く限り違うようだ。事実、我輩達と会話ができている。
そして、気づいたことは他にもある。それは、チャーのこのレディが落ち込んでいるという言葉が真実であったということだ。声はそれなりに明るいが、表情は明らかに無理をしていた。
「うん、私は猫の獣人だよ。それより、師匠って……?」
「にゃにゃー。にゃあ。にゃー(これは、挨拶が遅れて申し訳ない。我輩は紳士タロである。チャーの紳士道を指導する師匠なのだ)」
無理矢理、微笑んで問いかけるレディに、我輩、問い詰めることはせずに答える。こういう時は、無理に聞き出すのは禁物なのだ。
「へぇ、珍しいね。チャーは強い猫になりたいとは言ってたけど、紳士だなんて」
我輩の答えに、レディは本当に驚いたらしく、目を丸くする。チャーの方はというと、レディの足にスリスリとじゃれついていたが、レディの答えに何か不満でもあるのか、不機嫌な鳴き声を漏らす。
「にゃあっ! ににゃっ(姐さんっ、師匠はすごいんだ! あのマウマウをやっつけたんだぜっ)」
「チャー、さすがにそれはないよ。マウマウを倒す猫なんて、居るわけない」
「ふしゃーっ(俺が見たんだから、本当だっ)」
うむ、何やら、我輩の行いについてで口論になりかけているようなのだ。ここは、早く止めなくてはっ。
「にゃあ。にゃあにゃ?(我輩のことは良いのだ。チャー、レディに突っかかるのは感心しないぞ?)」
「にゃ!? に、にゃあっ(師匠!? み、見捨てないでくださいっ)」
「……ふーん、マウマウのことはともかくとして、師匠って言うのは本当みたいね」
グリンッと振り返ってすがるように我輩の前に来て目を潤ませるチャーと、それを呆れたように見るレディ。我輩、チャーの信仰が強すぎて、ちょっと辛いのだ。
「それで、今日は餌を二倍ってことで良いの?」
「……にゃあ(……うん、姐さん、ごめんなさい)」
我輩への信仰は強くとも、チャーには周りを見る力があるようで、我輩が促すことなく、謝罪を行った。ただ、餌の件は知らないのだ。二倍ということは、きっと、我輩の分も入っているのであろう。しかし、我輩、確かにもらえたら嬉しいが、それが目的ではないのだ。
「にゃー? (師匠、一緒に食べてくれますか?)」
ただ、こうも必死に懇願されては、我輩、要らないとは言えないのだ。チャーは、一生懸命、上目づかいで我輩に伺いを立てる。花屋のレディは、その隙にまた、扉の内側に去ってしまい、もう、物理的にも拒否できないのだ。
「にゃ(分かったのだ)」
「にゃーお(師匠ぉー)」
渋々頷くと、チャーが感激をあらわに襲い…ゲフンゲフン、じゃれてきたのだ。我輩は、別に勢いよくじゃれられることには抵抗などないが、これは、下手をすれば引かれるレベルのものなのだ。引かれるレベルのじゃれ具合に関しては、ご想像にお任せするが……。
そうして待つこと数分で、餌を入れた器をレディが持ってきてくれた。
「にゃあ(ありがとうなのだ)」
「どういたしまして」
「に、にゃあ(あ、ありがとう)」
「うん、どういたしまして」
慣れない様子で我輩を真似てお礼を言うチャーに、我輩、子を見守る親の気持ちになりながら、ほのぼのとする。食事中くらいは、こんなのんびりとした雰囲気も悪くはないだろう。
外に出ていた椅子に腰掛け、我輩達を見るレディも、きっと同じ気持ちなのだ。どことなく落ち着いた空気を醸し出すレディに、我輩、ホッと安堵しながら、器に盛られた魚を食べるのであった。
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花屋の娘、本題まではたどり着けなかったので、まだ続きます!
猫を飼ってないから、猫ってどんなもの食べるんだろうと思いながら、ちょくちょく調べて書いてます。
魚は定番のイメージでしょうけどね。
そして、チャーの躾はしっかりとタロが担ってます(笑)
頑張れタロっ、信仰されながらだけど……と応援してあげてくださいなー。
それでは、次回をお楽しみにっ!
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