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第一章 アルトルム王国の病
第二十一話 探索能力
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宿屋に戻る道中、やはり襲いかかってきたマウマウを倒し、同胞を救って、我輩、食後の運動を終える。もちろん、チャーの話し方もしっかり指導を加え、紳士として申し分ない話し方を伝授した。まだまだ指導は足りないが、宿屋までの道すがら教えたにしては、それなりに習得してもらえたように思う。
「にゃあ。にゃーにゃ、にゃ(師匠。俺はここで待ちますので、どうかお連れの方とご一緒に、えーっと、お越しください)」
「にゃ(うむ、そうさせてもらおう)」
宿屋の前にたどり着いた我輩は、チャーを待たせて、先にバルディスらを呼びに行くこととする。
「にゃーにゃあ(バルディス、案内役を連れて来たのだ)」
宿屋の主人の目を盗み、ささっとバルディスらが居る部屋の前に来た我輩は、扉を開けてほしくて、小声で呼び掛ける。
「おっ、ようやくか。遅かったな」
カチャリとドアノブが回り、開いたそこには、バルディスが立っていた。
「にゃあ。にゃーにゃ。にゃっ(遅くなってすまないのだ。だが、貴重な情報も手に入れたのだ。許してほしいのだっ)」
「情報? それは今話せるか?」
「にゃーにゃ(む、今は、チャーを待たせているから、目的地に向かいながらでも話すのだ)」
さすがに情報を話してチャーを待たせるわけにはいかない。そう思って提案してみたのだが、バルディスはそんな我輩の言葉に困ったように頭を掻く。
「……いや、妙なところに情報が漏れるのはいただけない。後で、防音の結界を張った時に頼む」
「にゃあ(分かったのだ)」
ふむ、そういえば、人間の中には情報を悪用しようとする者も居るのだと聞いたことがある。それを考えるのであれば、我輩、バルディスの言葉に従うべきなのだ。まだまだ、我輩、考え方が未熟なようなのだ。
人間社会に直接首を突っ込んだのは、これが初めてであるため、その未熟さは当たり前だったが、これから先、未熟だからという理由は通用しないことも出てくるだろうと思われる。今から、バルディスらのように信頼できる者へ確認することを習慣付けておいた方が良いだろう。
「バル、準備完了よ」
「いつでも、出られる」
「そうか、なら、行くぞ」
我輩は、すぐにチャーの元まで先導して歩いた。そして、黒いフードを被った三人に髭をピクピクさせて警戒するチャーを宥めたり、途中でやはりマウマウの退治を行ったりしながらしばらく歩き……ようやく、北の川辺へとたどり着く。
「ここか」
「普通の川にしか見えないけど……」
「猫、どこに、人間、居た?」
そこは、草原の中に川が渡してある、のどかな風景だった。一見すると、どこにも異常はなさそうだ。
「にゃー(人間達は、川の側でコソコソしていたらしいです)」
キョロキョロと辺りを見渡す中、チャーの告げた言葉に、我輩、川の側に行ってみることにする。通訳はバルディスがしてくれているから、放っておいても良いだろう。
「にゃあにゃあ(うーむ、さすがに、日が経ってるせいで、植物を採ったのかなんて分からないのだ)」
メリムの話と照らし合わせるなら、ここに居た大量の人間とやらは、パクの花を採取していったはずだ。しかし、肝心のパクの花の特徴を知らないため、我輩、どうにもできないのだ。
「にゃ…? (何か、役立つ能力はなかったものか…?)」
何となく、疑問を口にすれば、あの『サポートシステム』とやらが答えてくれる気がして、我輩、あえて呟く。そして、その目論みは上手く的中したようだった。
《『サポートシステム』起動します。この場合、『探索能力』が適切です》
『探索能力』は、確か、能力を発動させることで、視界に捉えたものの情報を読み取るというものだったはず。もしかしたら、この能力を発動させることで、何か手がかりが得られるかもしれない。
「にゃあ。にゃにゃー(ありがとうなのだ。早速、やってみるのだ)」
《どういたしまして》
お礼を言えば、やはり『サポートシステム』は答えてくれる。ちゃんと言葉が返ってきてくれるのは嬉しいのだ。
「何、独り言言ってるんだ?」
「にゃ。にゃあぁ(何でもないのだ。それよりも、『探索』開始なのだ)」
『サポートシステム』の声は、どうやらバルディスには聞こえていないらしく、我輩、独り言を言っていたことになってしまったが、別に構わないのだ。
怪訝そうなバルディスを無視して、我輩は『探索』の言葉を告げる。使ったことはないが、こうすれば能力が発動するはずなのだ。
「にゃー(これは、すごいのだ)」
目の前の川辺にある植物を見ると、その詳細な情報が頭の中に流れ込んでくる。
『マリス草
ミルテナ帝国の帝都でのみ栽培されている植物。
パクの花が咲く時期にだけ、毒性を帯びる。
水につけ込むとその水が猛毒となり、その水を摂取すれば、主に吐き気、頭痛、咳、腹痛などの症状に見舞われる。
解毒にはパクの花の花弁とハチツボ草の葉を擂り潰したものが効果的。
もしくは、パクの花で作ったお茶を日常的に飲んでいると、この毒は効かない。
水の状態であれば、沸騰させてしまえば毒の効果はなくなる。
また、パクの花が開花している付近ではマリス草の毒は中和される。
ミルテナ帝国の騎士がパクの花を採取し、代わりに植えていった』
…………これのせいなのだっ!!
我輩、『探索能力』で知った思いがけない事実に放心してしまう。川辺にこのマリス草があることを考えると、確実にここの水は猛毒になっている。病の原因となっている。そして、パクの花が採取されてしまった原因も、解毒をされないためだと分かる。きっと、エルブ山脈に行けなくなったのも、パクの花で解毒されたくない者の仕業なのだ。
大変な事実を知ってしまった我輩は、ピキンッと体を硬直させてしまう。
「? どうしたんだ? タロ」
「に、にゃあ(大変なことが分かったのだ)」
何はともあれ、この事実はすぐにでもバルディスらに伝えなくてはならない。そして、すぐにでも、パクの花とハチツボ草の採取を呼び掛けなければならないだろう。
そう、これは、我輩が動かなければならないことなのだ。我輩が、世界を救う使命を託されたのだから。
すぐに防音結界を張ってもらい、この状況を伝えた我輩は、衝撃の事実を前に、気づいていなかった。我輩達を見張る者が居たことを……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっと、病の原因にまでたどり着けましたっ!
あぁ、でも、ここからがタロにとっては大変なのかも?
ちょっとばかし、人間の陰謀に巻き込まれつつあるタロ。
果たして、その命運やいかにっ!
「にゃあ。にゃーにゃ、にゃ(師匠。俺はここで待ちますので、どうかお連れの方とご一緒に、えーっと、お越しください)」
「にゃ(うむ、そうさせてもらおう)」
宿屋の前にたどり着いた我輩は、チャーを待たせて、先にバルディスらを呼びに行くこととする。
「にゃーにゃあ(バルディス、案内役を連れて来たのだ)」
宿屋の主人の目を盗み、ささっとバルディスらが居る部屋の前に来た我輩は、扉を開けてほしくて、小声で呼び掛ける。
「おっ、ようやくか。遅かったな」
カチャリとドアノブが回り、開いたそこには、バルディスが立っていた。
「にゃあ。にゃーにゃ。にゃっ(遅くなってすまないのだ。だが、貴重な情報も手に入れたのだ。許してほしいのだっ)」
「情報? それは今話せるか?」
「にゃーにゃ(む、今は、チャーを待たせているから、目的地に向かいながらでも話すのだ)」
さすがに情報を話してチャーを待たせるわけにはいかない。そう思って提案してみたのだが、バルディスはそんな我輩の言葉に困ったように頭を掻く。
「……いや、妙なところに情報が漏れるのはいただけない。後で、防音の結界を張った時に頼む」
「にゃあ(分かったのだ)」
ふむ、そういえば、人間の中には情報を悪用しようとする者も居るのだと聞いたことがある。それを考えるのであれば、我輩、バルディスの言葉に従うべきなのだ。まだまだ、我輩、考え方が未熟なようなのだ。
人間社会に直接首を突っ込んだのは、これが初めてであるため、その未熟さは当たり前だったが、これから先、未熟だからという理由は通用しないことも出てくるだろうと思われる。今から、バルディスらのように信頼できる者へ確認することを習慣付けておいた方が良いだろう。
「バル、準備完了よ」
「いつでも、出られる」
「そうか、なら、行くぞ」
我輩は、すぐにチャーの元まで先導して歩いた。そして、黒いフードを被った三人に髭をピクピクさせて警戒するチャーを宥めたり、途中でやはりマウマウの退治を行ったりしながらしばらく歩き……ようやく、北の川辺へとたどり着く。
「ここか」
「普通の川にしか見えないけど……」
「猫、どこに、人間、居た?」
そこは、草原の中に川が渡してある、のどかな風景だった。一見すると、どこにも異常はなさそうだ。
「にゃー(人間達は、川の側でコソコソしていたらしいです)」
キョロキョロと辺りを見渡す中、チャーの告げた言葉に、我輩、川の側に行ってみることにする。通訳はバルディスがしてくれているから、放っておいても良いだろう。
「にゃあにゃあ(うーむ、さすがに、日が経ってるせいで、植物を採ったのかなんて分からないのだ)」
メリムの話と照らし合わせるなら、ここに居た大量の人間とやらは、パクの花を採取していったはずだ。しかし、肝心のパクの花の特徴を知らないため、我輩、どうにもできないのだ。
「にゃ…? (何か、役立つ能力はなかったものか…?)」
何となく、疑問を口にすれば、あの『サポートシステム』とやらが答えてくれる気がして、我輩、あえて呟く。そして、その目論みは上手く的中したようだった。
《『サポートシステム』起動します。この場合、『探索能力』が適切です》
『探索能力』は、確か、能力を発動させることで、視界に捉えたものの情報を読み取るというものだったはず。もしかしたら、この能力を発動させることで、何か手がかりが得られるかもしれない。
「にゃあ。にゃにゃー(ありがとうなのだ。早速、やってみるのだ)」
《どういたしまして》
お礼を言えば、やはり『サポートシステム』は答えてくれる。ちゃんと言葉が返ってきてくれるのは嬉しいのだ。
「何、独り言言ってるんだ?」
「にゃ。にゃあぁ(何でもないのだ。それよりも、『探索』開始なのだ)」
『サポートシステム』の声は、どうやらバルディスには聞こえていないらしく、我輩、独り言を言っていたことになってしまったが、別に構わないのだ。
怪訝そうなバルディスを無視して、我輩は『探索』の言葉を告げる。使ったことはないが、こうすれば能力が発動するはずなのだ。
「にゃー(これは、すごいのだ)」
目の前の川辺にある植物を見ると、その詳細な情報が頭の中に流れ込んでくる。
『マリス草
ミルテナ帝国の帝都でのみ栽培されている植物。
パクの花が咲く時期にだけ、毒性を帯びる。
水につけ込むとその水が猛毒となり、その水を摂取すれば、主に吐き気、頭痛、咳、腹痛などの症状に見舞われる。
解毒にはパクの花の花弁とハチツボ草の葉を擂り潰したものが効果的。
もしくは、パクの花で作ったお茶を日常的に飲んでいると、この毒は効かない。
水の状態であれば、沸騰させてしまえば毒の効果はなくなる。
また、パクの花が開花している付近ではマリス草の毒は中和される。
ミルテナ帝国の騎士がパクの花を採取し、代わりに植えていった』
…………これのせいなのだっ!!
我輩、『探索能力』で知った思いがけない事実に放心してしまう。川辺にこのマリス草があることを考えると、確実にここの水は猛毒になっている。病の原因となっている。そして、パクの花が採取されてしまった原因も、解毒をされないためだと分かる。きっと、エルブ山脈に行けなくなったのも、パクの花で解毒されたくない者の仕業なのだ。
大変な事実を知ってしまった我輩は、ピキンッと体を硬直させてしまう。
「? どうしたんだ? タロ」
「に、にゃあ(大変なことが分かったのだ)」
何はともあれ、この事実はすぐにでもバルディスらに伝えなくてはならない。そして、すぐにでも、パクの花とハチツボ草の採取を呼び掛けなければならないだろう。
そう、これは、我輩が動かなければならないことなのだ。我輩が、世界を救う使命を託されたのだから。
すぐに防音結界を張ってもらい、この状況を伝えた我輩は、衝撃の事実を前に、気づいていなかった。我輩達を見張る者が居たことを……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっと、病の原因にまでたどり着けましたっ!
あぁ、でも、ここからがタロにとっては大変なのかも?
ちょっとばかし、人間の陰謀に巻き込まれつつあるタロ。
果たして、その命運やいかにっ!
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