我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第一章 アルトルム王国の病

第二十二話 ファルシスの王

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 俺は、バルディス・ロード・ファルシス。ファルシス魔国、第七十代魔王だ。ただ、そんな俺は、今、ファルシス魔国から南に海と国をいくつか跨いだアルトルム王国に来ている。『宵闇の一日』……ファルシス魔国で魔王に即位したその日に、俺は、アルトルム王国へと飛ばされたのだ。







 闇に覆われた漆黒の城。その大広間では、至るところに魔力の光球が漂い、幻想的な雰囲気の中で、盛大なパーティーが開かれていた。


「兄上。この度は、魔王への即位、おめでとうございます」


 そう言うのは、俺と二百ほど年の離れた可愛い弟。アーディス・ロード。今年で百十歳のまだ年若いアーディスは、緊張した面持ちで祝福の言葉を述べてくれる。


「あぁ、ありがとう」


 狸や狐に見せるものとは違う、柔らかな笑みを浮かべ、俺はアーディスの心からの祝福に心が温まるのを感じる。
 今となっては、たった一人の肉親であるアーディス。その姿は、成人を迎えているにもかかわらず、昔と変わらない、低い身長に中性的な可愛い顔立ちだ。そんな可愛い弟に祝われて、嬉しくないわけがない。


「魔王陛下、おめでとうございます。今後、私は四天王の一人として、誠心誠意、陛下にお仕えいたしますわ」


 アーディスの挨拶が終われば、今度は四天王の一人、ラーミアが祝いを述べる。鈴のようなコロコロとした愛らしい声をする彼女が、実は四天王の中でも最も強い。妖艶で、思わず守ってやりたくなる見た目に騙されて、どれだけの男が散っていったか……俺は、百を越えた辺りから、数えるのをやめた。昔からの幼馴染みでもある彼女だけは、絶対に怒らせたくないものだ。

 そんな風に、次から次へと挨拶をこなし、ようやく落ち着きを取り戻した頃になって、俺はふと、アーディスの姿を探す。すると、左大臣と連れ立ってこちらへと歩いてくるその姿が見えた。


 珍しい組み合わせだな。


 左大臣は、有能ではあるが、権力欲の強い人物であり、対して、アーディスは権力欲もなく、少し卑屈で、優し過ぎるくらい優しい。どう考えても正反対な二人の姿に、俺は内心、首をかしげながらも待つ。こちらへ向かって来るからには、何か話があるのだろう。

 ただ……アーディスの表情が暗いことだけが気になった。

 そうして、事件は起こる。


「兄上……」

「どうした? 具合でも悪いのか?」


 随分と青い表情のアーディスに、俺は無警戒に手を伸ばす。そして……。


「ごめんなさいっ!」


 次の瞬間、足下に魔法陣が出現し、身動きもできなくなる。何が起こっているのかを認識する前に、左右からラーミアとディアムが俺の腕にしがみついたのを感じ、景色が変わった。


「……これは?」

「…どうやら、どこかに飛ばされたらしいですわね」


 真っ暗な闇の中、佇むレンガ造りの家々。どこか空気の違いを感じるその場所で、俺はぼんやりと立ち尽くす。

 まさか、アーディスに転移させられるなどとは思ってもみなかった俺は、少しだけ呆けていたが、ラーミアは優秀で、すぐさま辺りを警戒し、状況を見極めようとする。


「報告、ここ、人間の国。恐らく、アルトルム」


 と、そんな時、影が薄く、優秀な隠密部隊隊長のディアムが目の前でひざまづき、報告してくれた。


「アルトルム、だと?」

「これはまた……アーディス様も、随分と遠くに飛ばしてくれたものですね」


 困ったような表情を浮かべながら、頬に手を当てるラーミアは、随分と余裕があるように見える。それもそのはずだ。人間といえば、魔族である我々にとって、さしたる脅威ではない。むしろ、魔物の方がよっぽど戦闘能力があって、脅威なのだ。


「アーディスは、なぜ、こんなことを……」


 転移魔法陣を構築した犯人は、間違いなく俺の弟、アーディスだが、理由が分からない。俺に良く懐いていたアーディスが、俺を何の理由もなしに他国へ……しかも、お世辞にも仲が良いとは言えない人間の国へと送るはずがなかった。


「バル、アーディス様のことを見ていたのでしょう? 話しなさい」

「手がかり、見つける」

「あぁ」


 混乱した頭に、ラーミアとディアムの声が良く響く。恐らくは、魔王の危機を察知して即座に動いてくれたであろう二人には、感謝の言葉しかない。


「左大臣、ですか」

「……アーディス様、利用された?」

「やはり、そう考えるのが妥当か」


 可愛い弟に転移させられたことのショックが大きく、混乱していた俺だったが、少し落ち着いてみれば、アーディスがこんなことを自分一人の判断で行うなどとは思えない。十中八九、あの左大臣辺りがアーディスに何か吹き込んだのだろう。


「何がしたいのかは分かりませんが、急いで帰った方が良さそうですね」

「あぁ、さっさと転移を……ん?」


 何が起こっているかは分からない俺は、俺に次ぐ実力を持つアーディスなら大丈夫だと思いながらも転移を発動させようとして、固まる。


「どうしました? バル」

「……転移、できない」


 そう、転移が、発動しなかったのだ。


「!? …………俺も、無理」

「……私も、ですわね」

「これは、まさか……」


 全員が転移を発動できないという状況に、俺は考えたくない可能性を考えざるを得ない。すなわち……。


「転移防止の呪いが魔法陣に組み込まれていたの、か?」


 そうなると、術者が呪いを解くか、死ぬか、もしくは、呪いを返すかしなければ、転移は使えないことになる。ちなみに、アーディスが死ぬのも、呪いを返されて苦しむのも論外だ。


「……」
「……」
「……」


 嫌な状況に、全員が黙りこみ、視線を交わす。着の身着のままで来た俺達は、人間の国の常識なんて知らないし、金もない。そんな中で、自国へと帰るために旅をしなければならない。
 しかも、魔族だとバレれば、どうなるかも分からない。いくら人間が弱いと言っても、むやみに殺したりなどすれば、戦争の口実を作ってしまうことになりかねない。即位して最初の仕事が、敵意もない国への挑発なんて、絶対にやりたくない。


「……まずは、姿を隠して、話し合おう」


 そう言えば、ディアムが黙って自分の無属性魔法、『収納』を使用して、黒いローブを三着取り出す。
 こうして、黒いローブを身に纏った俺達は、話し合うのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一日遅れて申し訳ないです。

ちょっとバタバタしてまして……そして、これから忙しくなるかもしれないので、もしかしたら更新ペースが落ちるかもしれません。

できるだけ頑張って書きますので、見捨てないでもらえたら嬉しいです。

さてさて、今回初めてのバルディス視点のお話はいかがでしたでしょうか?

詳しい原因などはまだまだ先のお話で解明されていきますが、とりあえず、今回はここまでです!

それでは、また次回っ!
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