我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第一章 アルトルム王国の病

第二十四話 方針

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 襲撃者を全て倒した後、我輩達は、宿屋のカウンターに鍵だけ返して、その場を後にした。お金の方は、先払いなので、鍵さえ返せば問題ないのだ。

 問題は、真夜中という時間に、泊まる場所を失ってしまったということと、チャーの安否が分からないことなのだ。

 暗闇の中、蠢くものは、せいぜい夜行性の動物くらいのものだ。ときおり、カサコソと黒いモノが通り過ぎていくのを見ながら、我輩、それを踏みつけないよう、用心して歩く。


「にゃあ?(チャーは無事であろうか?)」

「あぁ、あの猫か……正直、全く分からん」


 バルディスらの考えが間違っていなければ、チャーは我輩達を売ったということになる。
 ただ、どうにも我輩、チャーが進んでそんなことをするとは思えないのだ。まだ知り合って間もないが、チャーはとても素直で優しい弟子なのだ。だから、バルディスらが言うように、脅されたり魔法で操られたりといった状況にあると考えた方が良さそうだ。


「あの猫、捜す?」


 チャーの状況を思い、どうにかできないだろうかと考えていると、ふいに、ディアムが問いかけてくる。

 いや、問いかけた相手はどうやらバルディスだったらしく、ディアムの視線は我輩には向いていない。しかし、もし、捜してくれるというのであれば、我輩にとって、願ってもない提案であった。


「あー、そう、だなぁ……」

「にゃあにゃー(もし、迷惑でないのであれば、一緒に捜してほしいのだ)」


 迷うバルディスに、我輩、要望だけは伝えておくことにする。これは本来、我輩とチャーの問題だ。無理にバルディスらを付き合わせることはできない。だからこそ、我輩は、『迷惑でないのであれば』という言葉を付け加えることとなる。


「言葉は分かりませんが、何となく何を言っているのかは分かりますわね。ねぇ、バル? 私はタロの友達を捜すことに賛成ですよ?」

「にゃ……(ラーミア……)」

「猫を使うということは、向こうに獣人か魔族が居るということです。その者の情報を得るためにも、タロの友達は保護した方が良いと思いますわよ」


 ラーミアは、ただ我輩に同情したわけではなく、しっかりと考えているようであった。しかし、我輩としても、同情で助けてもらうよりは、こうした意見がある方が良い。


「もし、魔族なら、目的、聞くべき」

「……確かに、そうだな。帝国は獣人を差別する国だと聞くし、魔族の可能性もある、か……」


 どうやら、チャーを助ける方向で話が進みそうである。そして、帝国が獣人を差別する国だということは初めて知ったことであるので、我輩、しっかりと心に留めておく。


「にゃあにゃ? (そういえば、『まぞく』は、全ての者が、我輩の同胞達の言葉を理解するわけではないのではなかろうか?)」

「あぁ、魔族の中でも、獣人の血が入っている者の一部が、猫だとか、犬だとか、他の動物の言葉を解する。ただ、獣人の血を持った魔族は、総じて強い。ほとんど居ない珍しい魔族だが、敵に回るとなると、警戒しなきゃならない」


 そこまで説明されて、我輩、ようやくバルディスらが何を警戒しているのかに気づく。


「にゃーにゃ(『まぞく』が関わっているとなると、『ふーひょーひがい』は免れない、とか?)」

「その通りだ」


 バルディスらは、あくまでもこのアルトルムの病に魔族が関わっていないことを証明するために動いていた。しかし、そこで、本当に魔族が関わっている可能性が出てきてしまったのだ。魔族を守りたいバルディスとしては、何としても、魔族が関わっているのかどうかの真偽を追求し、魔族が関わっているのであれば、影でどうにかしてしまいたいのだろう。


「にゃー? (では、チャーの捜索を手伝ってもらえるのであろうか?)」

「……仕方ない。あの猫を捜すぞ」

「御意」

「了解よ」

「にゃあぁっ(ありがとうなのだーっ)」


 損得勘定で決めたとはいえ、手伝ってもらえるということは、とても心強く、我輩、喉を鳴らしてお礼を言う。

 そうして、チャーの捜索は開始された。


「まず、ディアム。どこまで辿れる?」

「…………ぼやけてはいるが、大体の位置、分かる」

「にゃっ!? (そんな簡単に分かるのかっ!?)」


 ディアムのとんでもない言葉に、我輩、思わず疑ってしまう。だって、ディアムはバルディスの言葉の後、少しの間、目を閉じただけにしか見えなかったのだ。そんなことで、簡単にチャーの居場所が分かるだなんて思えないのだ。


「バル、タロが驚いているみたいですけど?」

「あぁ、ディアムがすぐに見つけたようなことを言ったから驚いたみたいだな。大丈夫だ。ディアムは魔力を辿ってちゃんと捜してくれているから」


 状況を理解できない我輩と、我輩の言葉が分からないラーミアの間に立って、バルディスは説明をこなしてくれる。


「にゃあ? (魔力を、辿る?)」


 ううむ、我輩、ここに来て、まだ魔力の扱い方が分かっていないのだ。そんな使い方があるなんて、知らなかったのだ。しかし……。


「にゃあにゃー? (魔力を辿れるのであれば、敵も何か対策を取っていたりするのではないだろうか?)」


 敵は、恐らく帝国という大規模な集団。それが、魔力を辿られて見つかるようなことを簡単に許すであろうか?


「あぁ、確かに、対策していないわけじゃないだろうが……ディアムなら、その程度、どうにでもできる」


 ……どうやら、ディアムの力なら、妨害があろうとも気にするほどのことはないらしい。バルディスのその瞳は、絶対的な信頼を寄せるものだった。


「まだ、猫、生きてる。敵、恐らく、十五。今から、向かう?」

「もちろん。宿を追い出された分、敵を叩きのめさないと気がすまないしな」

「ふふっ、私もバルに同意見です」

「にゃあっ(我輩も行くのだっ)」


 ディアムの言葉を信じるなら、チャーは生きている。それならば、我輩、師匠として助けに行くに決まっているのだ。


「それじゃ、殴り込みと行こうか」


 そう言ったバルディスは、とても良い笑みを浮かべていたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

更新が遅くなり、申し訳ありませんっ!

忙しい、プラスの体調不良でちょっと更新が止まってました。

また、三日に一回のペースに戻そうと思いますので、これからもまた、よろしくお願いします。
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