25 / 574
第一章 アルトルム王国の病
第二十四話 方針
しおりを挟む
襲撃者を全て倒した後、我輩達は、宿屋のカウンターに鍵だけ返して、その場を後にした。お金の方は、先払いなので、鍵さえ返せば問題ないのだ。
問題は、真夜中という時間に、泊まる場所を失ってしまったということと、チャーの安否が分からないことなのだ。
暗闇の中、蠢くものは、せいぜい夜行性の動物くらいのものだ。ときおり、カサコソと黒いモノが通り過ぎていくのを見ながら、我輩、それを踏みつけないよう、用心して歩く。
「にゃあ?(チャーは無事であろうか?)」
「あぁ、あの猫か……正直、全く分からん」
バルディスらの考えが間違っていなければ、チャーは我輩達を売ったということになる。
ただ、どうにも我輩、チャーが進んでそんなことをするとは思えないのだ。まだ知り合って間もないが、チャーはとても素直で優しい弟子なのだ。だから、バルディスらが言うように、脅されたり魔法で操られたりといった状況にあると考えた方が良さそうだ。
「あの猫、捜す?」
チャーの状況を思い、どうにかできないだろうかと考えていると、ふいに、ディアムが問いかけてくる。
いや、問いかけた相手はどうやらバルディスだったらしく、ディアムの視線は我輩には向いていない。しかし、もし、捜してくれるというのであれば、我輩にとって、願ってもない提案であった。
「あー、そう、だなぁ……」
「にゃあにゃー(もし、迷惑でないのであれば、一緒に捜してほしいのだ)」
迷うバルディスに、我輩、要望だけは伝えておくことにする。これは本来、我輩とチャーの問題だ。無理にバルディスらを付き合わせることはできない。だからこそ、我輩は、『迷惑でないのであれば』という言葉を付け加えることとなる。
「言葉は分かりませんが、何となく何を言っているのかは分かりますわね。ねぇ、バル? 私はタロの友達を捜すことに賛成ですよ?」
「にゃ……(ラーミア……)」
「猫を使うということは、向こうに獣人か魔族が居るということです。その者の情報を得るためにも、タロの友達は保護した方が良いと思いますわよ」
ラーミアは、ただ我輩に同情したわけではなく、しっかりと考えているようであった。しかし、我輩としても、同情で助けてもらうよりは、こうした意見がある方が良い。
「もし、魔族なら、目的、聞くべき」
「……確かに、そうだな。帝国は獣人を差別する国だと聞くし、魔族の可能性もある、か……」
どうやら、チャーを助ける方向で話が進みそうである。そして、帝国が獣人を差別する国だということは初めて知ったことであるので、我輩、しっかりと心に留めておく。
「にゃあにゃ? (そういえば、『まぞく』は、全ての者が、我輩の同胞達の言葉を理解するわけではないのではなかろうか?)」
「あぁ、魔族の中でも、獣人の血が入っている者の一部が、猫だとか、犬だとか、他の動物の言葉を解する。ただ、獣人の血を持った魔族は、総じて強い。ほとんど居ない珍しい魔族だが、敵に回るとなると、警戒しなきゃならない」
そこまで説明されて、我輩、ようやくバルディスらが何を警戒しているのかに気づく。
「にゃーにゃ(『まぞく』が関わっているとなると、『ふーひょーひがい』は免れない、とか?)」
「その通りだ」
バルディスらは、あくまでもこのアルトルムの病に魔族が関わっていないことを証明するために動いていた。しかし、そこで、本当に魔族が関わっている可能性が出てきてしまったのだ。魔族を守りたいバルディスとしては、何としても、魔族が関わっているのかどうかの真偽を追求し、魔族が関わっているのであれば、影でどうにかしてしまいたいのだろう。
「にゃー? (では、チャーの捜索を手伝ってもらえるのであろうか?)」
「……仕方ない。あの猫を捜すぞ」
「御意」
「了解よ」
「にゃあぁっ(ありがとうなのだーっ)」
損得勘定で決めたとはいえ、手伝ってもらえるということは、とても心強く、我輩、喉を鳴らしてお礼を言う。
そうして、チャーの捜索は開始された。
「まず、ディアム。どこまで辿れる?」
「…………ぼやけてはいるが、大体の位置、分かる」
「にゃっ!? (そんな簡単に分かるのかっ!?)」
ディアムのとんでもない言葉に、我輩、思わず疑ってしまう。だって、ディアムはバルディスの言葉の後、少しの間、目を閉じただけにしか見えなかったのだ。そんなことで、簡単にチャーの居場所が分かるだなんて思えないのだ。
「バル、タロが驚いているみたいですけど?」
「あぁ、ディアムがすぐに見つけたようなことを言ったから驚いたみたいだな。大丈夫だ。ディアムは魔力を辿ってちゃんと捜してくれているから」
状況を理解できない我輩と、我輩の言葉が分からないラーミアの間に立って、バルディスは説明をこなしてくれる。
「にゃあ? (魔力を、辿る?)」
ううむ、我輩、ここに来て、まだ魔力の扱い方が分かっていないのだ。そんな使い方があるなんて、知らなかったのだ。しかし……。
「にゃあにゃー? (魔力を辿れるのであれば、敵も何か対策を取っていたりするのではないだろうか?)」
敵は、恐らく帝国という大規模な集団。それが、魔力を辿られて見つかるようなことを簡単に許すであろうか?
「あぁ、確かに、対策していないわけじゃないだろうが……ディアムなら、その程度、どうにでもできる」
……どうやら、ディアムの力なら、妨害があろうとも気にするほどのことはないらしい。バルディスのその瞳は、絶対的な信頼を寄せるものだった。
「まだ、猫、生きてる。敵、恐らく、十五。今から、向かう?」
「もちろん。宿を追い出された分、敵を叩きのめさないと気がすまないしな」
「ふふっ、私もバルに同意見です」
「にゃあっ(我輩も行くのだっ)」
ディアムの言葉を信じるなら、チャーは生きている。それならば、我輩、師匠として助けに行くに決まっているのだ。
「それじゃ、殴り込みと行こうか」
そう言ったバルディスは、とても良い笑みを浮かべていたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新が遅くなり、申し訳ありませんっ!
忙しい、プラスの体調不良でちょっと更新が止まってました。
また、三日に一回のペースに戻そうと思いますので、これからもまた、よろしくお願いします。
問題は、真夜中という時間に、泊まる場所を失ってしまったということと、チャーの安否が分からないことなのだ。
暗闇の中、蠢くものは、せいぜい夜行性の動物くらいのものだ。ときおり、カサコソと黒いモノが通り過ぎていくのを見ながら、我輩、それを踏みつけないよう、用心して歩く。
「にゃあ?(チャーは無事であろうか?)」
「あぁ、あの猫か……正直、全く分からん」
バルディスらの考えが間違っていなければ、チャーは我輩達を売ったということになる。
ただ、どうにも我輩、チャーが進んでそんなことをするとは思えないのだ。まだ知り合って間もないが、チャーはとても素直で優しい弟子なのだ。だから、バルディスらが言うように、脅されたり魔法で操られたりといった状況にあると考えた方が良さそうだ。
「あの猫、捜す?」
チャーの状況を思い、どうにかできないだろうかと考えていると、ふいに、ディアムが問いかけてくる。
いや、問いかけた相手はどうやらバルディスだったらしく、ディアムの視線は我輩には向いていない。しかし、もし、捜してくれるというのであれば、我輩にとって、願ってもない提案であった。
「あー、そう、だなぁ……」
「にゃあにゃー(もし、迷惑でないのであれば、一緒に捜してほしいのだ)」
迷うバルディスに、我輩、要望だけは伝えておくことにする。これは本来、我輩とチャーの問題だ。無理にバルディスらを付き合わせることはできない。だからこそ、我輩は、『迷惑でないのであれば』という言葉を付け加えることとなる。
「言葉は分かりませんが、何となく何を言っているのかは分かりますわね。ねぇ、バル? 私はタロの友達を捜すことに賛成ですよ?」
「にゃ……(ラーミア……)」
「猫を使うということは、向こうに獣人か魔族が居るということです。その者の情報を得るためにも、タロの友達は保護した方が良いと思いますわよ」
ラーミアは、ただ我輩に同情したわけではなく、しっかりと考えているようであった。しかし、我輩としても、同情で助けてもらうよりは、こうした意見がある方が良い。
「もし、魔族なら、目的、聞くべき」
「……確かに、そうだな。帝国は獣人を差別する国だと聞くし、魔族の可能性もある、か……」
どうやら、チャーを助ける方向で話が進みそうである。そして、帝国が獣人を差別する国だということは初めて知ったことであるので、我輩、しっかりと心に留めておく。
「にゃあにゃ? (そういえば、『まぞく』は、全ての者が、我輩の同胞達の言葉を理解するわけではないのではなかろうか?)」
「あぁ、魔族の中でも、獣人の血が入っている者の一部が、猫だとか、犬だとか、他の動物の言葉を解する。ただ、獣人の血を持った魔族は、総じて強い。ほとんど居ない珍しい魔族だが、敵に回るとなると、警戒しなきゃならない」
そこまで説明されて、我輩、ようやくバルディスらが何を警戒しているのかに気づく。
「にゃーにゃ(『まぞく』が関わっているとなると、『ふーひょーひがい』は免れない、とか?)」
「その通りだ」
バルディスらは、あくまでもこのアルトルムの病に魔族が関わっていないことを証明するために動いていた。しかし、そこで、本当に魔族が関わっている可能性が出てきてしまったのだ。魔族を守りたいバルディスとしては、何としても、魔族が関わっているのかどうかの真偽を追求し、魔族が関わっているのであれば、影でどうにかしてしまいたいのだろう。
「にゃー? (では、チャーの捜索を手伝ってもらえるのであろうか?)」
「……仕方ない。あの猫を捜すぞ」
「御意」
「了解よ」
「にゃあぁっ(ありがとうなのだーっ)」
損得勘定で決めたとはいえ、手伝ってもらえるということは、とても心強く、我輩、喉を鳴らしてお礼を言う。
そうして、チャーの捜索は開始された。
「まず、ディアム。どこまで辿れる?」
「…………ぼやけてはいるが、大体の位置、分かる」
「にゃっ!? (そんな簡単に分かるのかっ!?)」
ディアムのとんでもない言葉に、我輩、思わず疑ってしまう。だって、ディアムはバルディスの言葉の後、少しの間、目を閉じただけにしか見えなかったのだ。そんなことで、簡単にチャーの居場所が分かるだなんて思えないのだ。
「バル、タロが驚いているみたいですけど?」
「あぁ、ディアムがすぐに見つけたようなことを言ったから驚いたみたいだな。大丈夫だ。ディアムは魔力を辿ってちゃんと捜してくれているから」
状況を理解できない我輩と、我輩の言葉が分からないラーミアの間に立って、バルディスは説明をこなしてくれる。
「にゃあ? (魔力を、辿る?)」
ううむ、我輩、ここに来て、まだ魔力の扱い方が分かっていないのだ。そんな使い方があるなんて、知らなかったのだ。しかし……。
「にゃあにゃー? (魔力を辿れるのであれば、敵も何か対策を取っていたりするのではないだろうか?)」
敵は、恐らく帝国という大規模な集団。それが、魔力を辿られて見つかるようなことを簡単に許すであろうか?
「あぁ、確かに、対策していないわけじゃないだろうが……ディアムなら、その程度、どうにでもできる」
……どうやら、ディアムの力なら、妨害があろうとも気にするほどのことはないらしい。バルディスのその瞳は、絶対的な信頼を寄せるものだった。
「まだ、猫、生きてる。敵、恐らく、十五。今から、向かう?」
「もちろん。宿を追い出された分、敵を叩きのめさないと気がすまないしな」
「ふふっ、私もバルに同意見です」
「にゃあっ(我輩も行くのだっ)」
ディアムの言葉を信じるなら、チャーは生きている。それならば、我輩、師匠として助けに行くに決まっているのだ。
「それじゃ、殴り込みと行こうか」
そう言ったバルディスは、とても良い笑みを浮かべていたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新が遅くなり、申し訳ありませんっ!
忙しい、プラスの体調不良でちょっと更新が止まってました。
また、三日に一回のペースに戻そうと思いますので、これからもまた、よろしくお願いします。
11
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる