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第一章 アルトルム王国の病
第二十五話 救出開始
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雲行きが怪しくなり、湿度で自慢の髭がピクピクとなってきた頃。あれから、約一時間程経った一時頃になって、我輩達はその場所に辿り着いた。
「スラム街、か」
バルディスのその言葉通り、ここは、スラム街だった。所々に死者が横たわるその場所に、今は生者の気配はない。ただただ、異臭が辺りを漂い、淀んだ空気を醸し出すのみ。暗く、寂しい場所だった。
「猫、この奥、気配、ある」
そうして、ディアムが指し示す方向には、一つの家らしきものがあった。屋根が傾き、壁の一部が剥がれたその家は、他の周りに建つ建物とあまり変わらない。ボロボロに崩れ、家としてどうにか体裁を保てている程度の家。
ただし、そこに、チャーが居ること、そこに、敵が居ることを知っている我輩達からすれば、特別に警戒すべき場所だ。
視界に写る範囲では、どこにも隠れている者は見当たらない。それどころか、生き物の気配がこれでもかというくらいに見当たらない。どこか不気味なその場所で、我輩、毛を逆立てて建物を見据える。
しかし……。
「では、バルとタロはここで待っていてくださいね」
「にゃっ!? (な、なぜっ!?)」
これから突入かと思える瞬間に、ラーミアからそんな宣言がなされた。我輩、一瞬、冗談かとも思ったものの、その翡翠の瞳は真剣そのものだ。
「バル、主君。タロ、戦力外」
そして、バルディスの通訳もなしに、ディアムは我輩の言いたいことを読み取ったらしく、淡々と我輩達が除外される理由を告げる。
ただ、我輩は物申したい。我輩だって、戦えるのだと。
「にゃあにゃあっ(我輩だって、役に立つのだっ)」
「おい、二人とも。タロは納得してないぞ? 自分でも役に立つと言ってる」
その通訳を聞くと、ラーミアは我輩と目線を合わせるようにしてしゃがみこむ。
「良いですか? 正直に言いますと、タロは足手纏いです。猫だからと見向きもされないかもしれませんが、敵は猫から情報を得られる相手です。もしも捕まれば、私達は二度手間になってしまいますわ。それは、とても、とても、迷惑です。ですので、ここで待機しておいてください」
グサリ、グサリ、と言葉が我輩の小さなハートに突き刺さる。我輩がチャーを助けたいと思っていても、それをするには力不足なのだと、ラーミアの冷たい視線が雄弁に語ってくれる。
確かに、我輩は人間相手に戦ったことなどない。それは、そもそも人間は、戦うべき相手ではなかったからであるが、それでも、経験不足という事実に変わりはない。
我輩、いつの間にか傲慢になっていたのだ。……紳士、失格なのだ。
チャーを助けたいあまりに、我輩は自分の力を見誤っていた。言われるまで気づけなかったことにショックを受けながらも、我輩は、それを認める。そして、だからこそ、我輩、耳を垂れながら一つ鳴く。
「……にゃ(……分かったのだ)」
本当は、悔しい。友を助けられない自分の無力がもどかしい。それでも、邪魔をしてはいけないのだ。ここに居る三人は、我輩のことを助けてくれようとしているのだから。
「にゃにゃ。にゃー(力になれず、申し訳ないのだ。二人とも、怪我をしないでほしいのだ)」
我輩、まだまだもらった力を使いこなせていない。もしかしたら、この力さえあれば、チャーを助けられるのかもしれないが、使えない力は、ないのと同義だ。
「必ず助けてみせますので、ここでゆっくり待っていてくださいね」
「早めに、片付ける」
我輩が納得したことをバルディスが伝えると、二人の目が心なしか優しくなったように見えた。
そうして、チャーの救出は始まったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どうしよう。
今回、キリの良いところで終わらせようと思ったら、かなり短くなってしまった……。
……つ、次は、ラーミアとディアムの視点を入れてそれなりの量を書きますので、お許しをっ。
「スラム街、か」
バルディスのその言葉通り、ここは、スラム街だった。所々に死者が横たわるその場所に、今は生者の気配はない。ただただ、異臭が辺りを漂い、淀んだ空気を醸し出すのみ。暗く、寂しい場所だった。
「猫、この奥、気配、ある」
そうして、ディアムが指し示す方向には、一つの家らしきものがあった。屋根が傾き、壁の一部が剥がれたその家は、他の周りに建つ建物とあまり変わらない。ボロボロに崩れ、家としてどうにか体裁を保てている程度の家。
ただし、そこに、チャーが居ること、そこに、敵が居ることを知っている我輩達からすれば、特別に警戒すべき場所だ。
視界に写る範囲では、どこにも隠れている者は見当たらない。それどころか、生き物の気配がこれでもかというくらいに見当たらない。どこか不気味なその場所で、我輩、毛を逆立てて建物を見据える。
しかし……。
「では、バルとタロはここで待っていてくださいね」
「にゃっ!? (な、なぜっ!?)」
これから突入かと思える瞬間に、ラーミアからそんな宣言がなされた。我輩、一瞬、冗談かとも思ったものの、その翡翠の瞳は真剣そのものだ。
「バル、主君。タロ、戦力外」
そして、バルディスの通訳もなしに、ディアムは我輩の言いたいことを読み取ったらしく、淡々と我輩達が除外される理由を告げる。
ただ、我輩は物申したい。我輩だって、戦えるのだと。
「にゃあにゃあっ(我輩だって、役に立つのだっ)」
「おい、二人とも。タロは納得してないぞ? 自分でも役に立つと言ってる」
その通訳を聞くと、ラーミアは我輩と目線を合わせるようにしてしゃがみこむ。
「良いですか? 正直に言いますと、タロは足手纏いです。猫だからと見向きもされないかもしれませんが、敵は猫から情報を得られる相手です。もしも捕まれば、私達は二度手間になってしまいますわ。それは、とても、とても、迷惑です。ですので、ここで待機しておいてください」
グサリ、グサリ、と言葉が我輩の小さなハートに突き刺さる。我輩がチャーを助けたいと思っていても、それをするには力不足なのだと、ラーミアの冷たい視線が雄弁に語ってくれる。
確かに、我輩は人間相手に戦ったことなどない。それは、そもそも人間は、戦うべき相手ではなかったからであるが、それでも、経験不足という事実に変わりはない。
我輩、いつの間にか傲慢になっていたのだ。……紳士、失格なのだ。
チャーを助けたいあまりに、我輩は自分の力を見誤っていた。言われるまで気づけなかったことにショックを受けながらも、我輩は、それを認める。そして、だからこそ、我輩、耳を垂れながら一つ鳴く。
「……にゃ(……分かったのだ)」
本当は、悔しい。友を助けられない自分の無力がもどかしい。それでも、邪魔をしてはいけないのだ。ここに居る三人は、我輩のことを助けてくれようとしているのだから。
「にゃにゃ。にゃー(力になれず、申し訳ないのだ。二人とも、怪我をしないでほしいのだ)」
我輩、まだまだもらった力を使いこなせていない。もしかしたら、この力さえあれば、チャーを助けられるのかもしれないが、使えない力は、ないのと同義だ。
「必ず助けてみせますので、ここでゆっくり待っていてくださいね」
「早めに、片付ける」
我輩が納得したことをバルディスが伝えると、二人の目が心なしか優しくなったように見えた。
そうして、チャーの救出は始まったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どうしよう。
今回、キリの良いところで終わらせようと思ったら、かなり短くなってしまった……。
……つ、次は、ラーミアとディアムの視点を入れてそれなりの量を書きますので、お許しをっ。
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