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第一章 アルトルム王国の病
第二十七話 待機組
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しん、と静まり返ったスラムの一画。俺は、小さな勇者、タロとともに一つの建物を遠目に見ながら待機していた。
魔王であるゆえに簡単には動けない俺は、せっかくの救出作戦に参加できないことを残念に思いながらも、一つ、欠伸をする。思えば、もうとっくに眠っているはずの時間なのに、宿を引き払うはめになったのは手痛い。どこか適当な場所で野宿するにしても、手間がかかってしまう。
そんなどうにもならないことを考えながらも、俺は、この件に関与しているであろう国へと意識を向ける。
「ミルテナ帝国、か」
「にゃ? (バルディス?)」
もし、ミルテナ帝国に寄ることがあれば、それなりに調べるべきだろうな。
そう考え、俺は側に居たタロを抱きかかえ、その頭を撫でる。
ファルシス魔国からは離れているといっても、ミルテナ帝国の軍事力は侮れない。このアルトルム王国に毒による攻撃を仕掛けていることから、一番に戦うとすればアルトルム王国となのだろうが、その先は分からない。ファルシス魔国にも、ミルテナ帝国は侵攻してくるかもしれない。
侵攻してくるのであれば、潰すまでだが、情報はいくらでもほしい。それに、ミルテナ帝国に魔族が居るかもしれないということも非常に気になる。
「タロ、俺らの他に、魔族を見たという猫は居なかったか?」
「にゃあ。ゴロゴロ(それは聞いていないのだ。ううむ、気持ち良いのだー)」
首を撫でるとゴロゴロと鳴くタロに、俺は苦笑しながらもタロの言葉の意味を考える。正直に言って、猫の情報網はかなりのものだ。それを、タロはマウマウ討伐と引き換えに使いこなしているらしく、俺としても助かっている。そして、だからこそ、タロが魔族の情報がないと示したことには意味がある。
猫の情報網に引っ掛からないなら……猫を操ったか? それか、殺害か……。
「にゃーにゃー(マウマウの量が異常に増えているらしいが、我輩、たまにはゴロゴロしたいのだ)」
と、そんな思考に陥っていると、タロが聞き捨てならないことを口にする。
「マウマウの量が増えた?」
そんな情報は知らない。と、いうより、マウマウが増えているかどうかなんて気にする者は猫くらいのものだ。
「にゃー。にゃにゃ(そうなのだ。しかもネズミとは違って集団で一度に三十匹くらい襲ってくるから、ちょっと面倒なのだ)」
マウマウが集団で襲い掛かってくる。その情報は、とても貴重なものだった。
マウマウは、そもそも集団で行動などしない。行動するとしても、家族単位でしかあり得ない。三十匹などという量は異常だ。
「マウマウが増えた時期は――――」
『分かるか?』と続けようとした俺だったが、その瞬間、異様な殺気と魔力を感じてハッと前方を見る。
「ふしゃーっ! (なんなのだこれはっ!)」
毛を逆立てて俺の腕から降りたタロは、俺と同じように前方を見つめる。
前方にあるのはただ一つ。ラーミアとディアムが潜入した建物。つまりは……。
「タロっ、すぐに二人が帰ってくるから、先に避難するぞっ!」
失敗するなど全く考えてもみなかったが、二人の内のどちらかが見つかったのだろう。だから、今できることは、二人の撤退の足手まといにならないように、先に避難することだ。
「にゃっ……にゃぁあっ!? (しかしっ……ディアムっ!?)」
一瞬、戸惑いを見せたタロは、次の瞬間、ディアムの名を叫ぶ。
「にゃあっ! (バルディスっ、ディアムが危険なのだっ!)」
どちらが先に見つかったのかは分からないが、どうやらディアムが現在戦闘を行っているらしい。が、どう考えてもディアムが負けるとは思えない。タロには悪いが、さっさと抱えて逃げてしまった方が良いだろう。
ただ、俺はその判断が間違いであることをすぐに思い知らされる。
「っ、ディアム!?」
暴れるタロを何とか抱えて、身を翻そうとしたところ、ディアムが窓から投げ出される姿を視界の端に捉える。
意識を失ってるのか!? あれは、不味いっ!
受け身を取れず、落ちていくディアムに、俺は咄嗟に魔法を発動させる。
「『風枕』っ」
落ちていく先に、俺は風魔法でクッションを作り上げる。そして、その隙をついて、タロは俺の腕から逃れ、駆け出す。……ディアムの方へ。
「はっ、ちょっ、タロっ!?」
そっちは危険だっ!
そう思って声をかけたのだが、止まってくれるつもりはないらしい。目にも止まらぬ速さで……本当に、目で追うのが精一杯という、猫にしては考えられない速度であっという間にディアムの元へと辿り着いてしまう。そして……。
ガキィィンッ!!
ディアムの上から何者かが落ちてきて、ソイツの降り下ろした斧が、目に見えない結界に弾かれるのを見ることとなった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回は、バルディス視点。
ちょっとタロが恋しいです……。
次は、タロ視点に帰りますので、楽しみにしていてください。
魔王であるゆえに簡単には動けない俺は、せっかくの救出作戦に参加できないことを残念に思いながらも、一つ、欠伸をする。思えば、もうとっくに眠っているはずの時間なのに、宿を引き払うはめになったのは手痛い。どこか適当な場所で野宿するにしても、手間がかかってしまう。
そんなどうにもならないことを考えながらも、俺は、この件に関与しているであろう国へと意識を向ける。
「ミルテナ帝国、か」
「にゃ? (バルディス?)」
もし、ミルテナ帝国に寄ることがあれば、それなりに調べるべきだろうな。
そう考え、俺は側に居たタロを抱きかかえ、その頭を撫でる。
ファルシス魔国からは離れているといっても、ミルテナ帝国の軍事力は侮れない。このアルトルム王国に毒による攻撃を仕掛けていることから、一番に戦うとすればアルトルム王国となのだろうが、その先は分からない。ファルシス魔国にも、ミルテナ帝国は侵攻してくるかもしれない。
侵攻してくるのであれば、潰すまでだが、情報はいくらでもほしい。それに、ミルテナ帝国に魔族が居るかもしれないということも非常に気になる。
「タロ、俺らの他に、魔族を見たという猫は居なかったか?」
「にゃあ。ゴロゴロ(それは聞いていないのだ。ううむ、気持ち良いのだー)」
首を撫でるとゴロゴロと鳴くタロに、俺は苦笑しながらもタロの言葉の意味を考える。正直に言って、猫の情報網はかなりのものだ。それを、タロはマウマウ討伐と引き換えに使いこなしているらしく、俺としても助かっている。そして、だからこそ、タロが魔族の情報がないと示したことには意味がある。
猫の情報網に引っ掛からないなら……猫を操ったか? それか、殺害か……。
「にゃーにゃー(マウマウの量が異常に増えているらしいが、我輩、たまにはゴロゴロしたいのだ)」
と、そんな思考に陥っていると、タロが聞き捨てならないことを口にする。
「マウマウの量が増えた?」
そんな情報は知らない。と、いうより、マウマウが増えているかどうかなんて気にする者は猫くらいのものだ。
「にゃー。にゃにゃ(そうなのだ。しかもネズミとは違って集団で一度に三十匹くらい襲ってくるから、ちょっと面倒なのだ)」
マウマウが集団で襲い掛かってくる。その情報は、とても貴重なものだった。
マウマウは、そもそも集団で行動などしない。行動するとしても、家族単位でしかあり得ない。三十匹などという量は異常だ。
「マウマウが増えた時期は――――」
『分かるか?』と続けようとした俺だったが、その瞬間、異様な殺気と魔力を感じてハッと前方を見る。
「ふしゃーっ! (なんなのだこれはっ!)」
毛を逆立てて俺の腕から降りたタロは、俺と同じように前方を見つめる。
前方にあるのはただ一つ。ラーミアとディアムが潜入した建物。つまりは……。
「タロっ、すぐに二人が帰ってくるから、先に避難するぞっ!」
失敗するなど全く考えてもみなかったが、二人の内のどちらかが見つかったのだろう。だから、今できることは、二人の撤退の足手まといにならないように、先に避難することだ。
「にゃっ……にゃぁあっ!? (しかしっ……ディアムっ!?)」
一瞬、戸惑いを見せたタロは、次の瞬間、ディアムの名を叫ぶ。
「にゃあっ! (バルディスっ、ディアムが危険なのだっ!)」
どちらが先に見つかったのかは分からないが、どうやらディアムが現在戦闘を行っているらしい。が、どう考えてもディアムが負けるとは思えない。タロには悪いが、さっさと抱えて逃げてしまった方が良いだろう。
ただ、俺はその判断が間違いであることをすぐに思い知らされる。
「っ、ディアム!?」
暴れるタロを何とか抱えて、身を翻そうとしたところ、ディアムが窓から投げ出される姿を視界の端に捉える。
意識を失ってるのか!? あれは、不味いっ!
受け身を取れず、落ちていくディアムに、俺は咄嗟に魔法を発動させる。
「『風枕』っ」
落ちていく先に、俺は風魔法でクッションを作り上げる。そして、その隙をついて、タロは俺の腕から逃れ、駆け出す。……ディアムの方へ。
「はっ、ちょっ、タロっ!?」
そっちは危険だっ!
そう思って声をかけたのだが、止まってくれるつもりはないらしい。目にも止まらぬ速さで……本当に、目で追うのが精一杯という、猫にしては考えられない速度であっという間にディアムの元へと辿り着いてしまう。そして……。
ガキィィンッ!!
ディアムの上から何者かが落ちてきて、ソイツの降り下ろした斧が、目に見えない結界に弾かれるのを見ることとなった。
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今回は、バルディス視点。
ちょっとタロが恋しいです……。
次は、タロ視点に帰りますので、楽しみにしていてください。
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