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第一章 アルトルム王国の病
第二十八話 謎の魔族
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あ、ああ、危なかったのだ。もうちょっとで、ディアムが真っ二つだったのだ。
我輩は、ディアムを守ろうとして、恐らく魔法を使った。前に、『サポートシステム』の力で、『映写』という魔法を使った時と同じように体から力が抜ける感覚がしたのだ。
しかし、『サポートシステム』の力に頼らず魔法を行使できたことは僥倖であった。どうやら、魔法というものは、我輩の想像力で形を変えるらしく、今回は『にじげん』とやらでよく登場する『結界』というものを作ってみたつもりだ。
結果は大成功。見事、ディアムは真っ二つにならずにすんだのだ。
それにしても……この落ち着かない、変な感覚は何なのであろうか?
ただ、我輩、ディアムを守った瞬間から、敵であろう者のことが気になって仕方がなかった。どこかで、これと同じような気配を感じたことがある気がするのだが、多分、その時は全く意識をしていなかったために、覚えていない。
むむむっ、今は、考えても仕方ないのだ。
ディアムがゆっくりと、地面に横たわる様子を見ながら、我輩、前を見る。
「ちょっ、何ですかっ、こいつらはっ!」
そして、巻き角を持った白い仮面の者が、地面に降り立って体勢を立て直したのを確認したところで、その声は聞こえた。ラーミアが、こちらへ戻って来ていたのだ。そして、ラーミアが何かを抱えていることだけは、遠目からでも確認できた。
しかし、様子がおかしい。ラーミアは、何者かに追いかけられて、手こずっているように見える。
「ラーミアっ、避けろ!」
「は、はいっ!」
バルディスの大声とともに、ラーミアはバルディスが放った槍状の魔法らしきものを避ける。すると、背後でラーミアに追いすがっていた者達がその攻撃を受け倒れた。しかし……。
「バルっ、こいつらは――――」
バルディスの元まで辿り着いたラーミアは、何事かを告げようとして、反射的に我輩の物に似た結界を展開する。その結界には、球状の魔法が当たり、霧散する。
「にゃあにゃ……(お腹に穴が空いているのに、立ち上がったのだ……)」
バルディスの攻撃を直接受けたであろう者が、ユラリと立ち上がり、攻撃を行っている。そんな衝撃的な光景に、我輩は、あることを思い出す。
これは、あれだ。きっと、飼い主が話していた『ゾンビ』というやつなのだ。映像もしっかり見せてもらったから、間違いないのだ。……とっても怖かったのだ。
と、そのようによそ見をしていると、あの仮面の、恐らくは『まぞく』であろう者が、戦斧を片手にこちらへ迫ってくるのが見え、我輩、咄嗟に避ける。
ドゴンッと地面が陥没する。たった一振り、戦斧を降り下ろした程度で、これだ。
「にゃぁあっ! (どういう力をしているのだっ!)」
怖い、とてつもなく、恐ろしい。けれど、紳士には、退いてはならない時があるのだ。
「ぐっ、タロ?」
軽く気絶していたらしいディアムが目を覚まし、我輩、ホッと安堵しながらも、もうよそ見などしない。あんな突然の攻撃は、心臓に悪いのだっ。
「オォォォオッ!!」
突如として叫び出す『まぞく』。そして、それとともに……多数の気配が、このスラム街の至るところから現れた。
「これ、ここの住民?」
「にゃあ? (そうなのであるか?)」
我輩は『まぞく』から目を離せないから分からないものの、ディアムには、どうやらスラム街の住民が出てきたように見えたらしい。
我輩、無辜の民へ危害を加えることはできないのだが……。
そうは思うものの、『まぞく』の雄叫びとともに出てきたからには、敵である可能性が高い。
「ディアムっ、タロっ、こいつらは全部死体だっ!」
ただ、そんな良心の呵責も、バルディスの言葉によって跡形もなく消え失せる。
「その魔族は、ネクロマンサーですっ」
ネクロマンサーは、確か、死体を操る者なのだと飼い主に聞いたことがある。だから、我輩、バルディスとラーミアの叫びを正しく理解し、全身の毛を逆立てて『まぞく』へと飛びかかる。
「!? 待てっ、タロっ!」
「にゃおーんっ! (猫流奥義、ガリガリプラスっ!)」
我輩、マウマウを仕留める時のように力加減などしないで、全力で爪を立て、『まぞく』の顔面を狙って手を降り下ろす。しかし、流石に『まぞく』も黙って見ているわけではなく、我輩の技を避けようとした。ただ……。
我輩が手を降り下ろした瞬間、『まぞく』の肩口が裂け、赤い血が吹き出す。
「アァッ」
今回は、普通の『ガリガリ』ではないのだ。『ガリガリプラス』なのだ。魔力を用いて、見えない爪が伸びている想像を実現させたのだ。
そうして、見えざる爪によってダメージを受けた『まぞく』は、呻き声を上げて我輩と距離を取るべく、一気に後退する。
「……すごい」
「にゃあっ。ふしゃーっ(まだまだなのだっ。さぁ行くぞっ)」
バルディスとラーミアは、あのゾンビ達を相手にしている。それならば、我輩は、怪我をしているらしいディアムを守りながら、この『まぞく』と戦うまでなのだ。きっと、この『まぞく』さえ倒せば、ゾンビは居なくなるのだ。
そう思って、『まぞく』と対峙する我輩。しかし、何やらその『まぞく』の様子が変化する。
「アァァ……ウ……ぐ……に、逃げ、ろ」
頭を抱え、そう言い出す『まぞく』。呻くか喚くかしかできないと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。そして、その言葉も意外で、我輩、思わず目を見張る。
「……逃げて、くれっ! た、のむ……」
テノールの心地よい声は苦悶に満ち、我輩達の撤退を望む。そして、それと同時に、バルディスらを襲っていたゾンビも動きを止める。
「っ、撤退するぞっ!」
バルディスのその宣言に、我輩はヒョイッとディアムに抱えられ、そのまま走り出すディアムに身を任せる。
事情はよく分からないものの、『逃げろ』と言った『まぞく』は、何かに抗っているように見えた。もしかしたら、彼もまた、何らかの被害者なのかもしれない。
闇夜の中を駆け抜け、町の外にまで出た我輩達は、追っ手が来ないことを確認する。しばらくして、朝日が昇るまで、我輩は、あの『まぞく』のことを思うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回は、ここまで話を書こうとして、『謎の魔族』ってタイトルにしていましたが、到底書ききれなかったので『待機組』というタイトルに変えました。
更新したその日に変えたので、気づいた人は少ないかとは思いますが……変更があったことをお知らせしておきます。
今回のタイトルが『謎の魔族』です。
今回の話は、後々回収する伏線ということで……多分、回収を忘れることはありません。
……結構、後になっての回収にはなりそうですけどね。
伏線張ったまま回収を忘れてたってことにならないよう、頑張りますね。
それでは、また三日後に!
我輩は、ディアムを守ろうとして、恐らく魔法を使った。前に、『サポートシステム』の力で、『映写』という魔法を使った時と同じように体から力が抜ける感覚がしたのだ。
しかし、『サポートシステム』の力に頼らず魔法を行使できたことは僥倖であった。どうやら、魔法というものは、我輩の想像力で形を変えるらしく、今回は『にじげん』とやらでよく登場する『結界』というものを作ってみたつもりだ。
結果は大成功。見事、ディアムは真っ二つにならずにすんだのだ。
それにしても……この落ち着かない、変な感覚は何なのであろうか?
ただ、我輩、ディアムを守った瞬間から、敵であろう者のことが気になって仕方がなかった。どこかで、これと同じような気配を感じたことがある気がするのだが、多分、その時は全く意識をしていなかったために、覚えていない。
むむむっ、今は、考えても仕方ないのだ。
ディアムがゆっくりと、地面に横たわる様子を見ながら、我輩、前を見る。
「ちょっ、何ですかっ、こいつらはっ!」
そして、巻き角を持った白い仮面の者が、地面に降り立って体勢を立て直したのを確認したところで、その声は聞こえた。ラーミアが、こちらへ戻って来ていたのだ。そして、ラーミアが何かを抱えていることだけは、遠目からでも確認できた。
しかし、様子がおかしい。ラーミアは、何者かに追いかけられて、手こずっているように見える。
「ラーミアっ、避けろ!」
「は、はいっ!」
バルディスの大声とともに、ラーミアはバルディスが放った槍状の魔法らしきものを避ける。すると、背後でラーミアに追いすがっていた者達がその攻撃を受け倒れた。しかし……。
「バルっ、こいつらは――――」
バルディスの元まで辿り着いたラーミアは、何事かを告げようとして、反射的に我輩の物に似た結界を展開する。その結界には、球状の魔法が当たり、霧散する。
「にゃあにゃ……(お腹に穴が空いているのに、立ち上がったのだ……)」
バルディスの攻撃を直接受けたであろう者が、ユラリと立ち上がり、攻撃を行っている。そんな衝撃的な光景に、我輩は、あることを思い出す。
これは、あれだ。きっと、飼い主が話していた『ゾンビ』というやつなのだ。映像もしっかり見せてもらったから、間違いないのだ。……とっても怖かったのだ。
と、そのようによそ見をしていると、あの仮面の、恐らくは『まぞく』であろう者が、戦斧を片手にこちらへ迫ってくるのが見え、我輩、咄嗟に避ける。
ドゴンッと地面が陥没する。たった一振り、戦斧を降り下ろした程度で、これだ。
「にゃぁあっ! (どういう力をしているのだっ!)」
怖い、とてつもなく、恐ろしい。けれど、紳士には、退いてはならない時があるのだ。
「ぐっ、タロ?」
軽く気絶していたらしいディアムが目を覚まし、我輩、ホッと安堵しながらも、もうよそ見などしない。あんな突然の攻撃は、心臓に悪いのだっ。
「オォォォオッ!!」
突如として叫び出す『まぞく』。そして、それとともに……多数の気配が、このスラム街の至るところから現れた。
「これ、ここの住民?」
「にゃあ? (そうなのであるか?)」
我輩は『まぞく』から目を離せないから分からないものの、ディアムには、どうやらスラム街の住民が出てきたように見えたらしい。
我輩、無辜の民へ危害を加えることはできないのだが……。
そうは思うものの、『まぞく』の雄叫びとともに出てきたからには、敵である可能性が高い。
「ディアムっ、タロっ、こいつらは全部死体だっ!」
ただ、そんな良心の呵責も、バルディスの言葉によって跡形もなく消え失せる。
「その魔族は、ネクロマンサーですっ」
ネクロマンサーは、確か、死体を操る者なのだと飼い主に聞いたことがある。だから、我輩、バルディスとラーミアの叫びを正しく理解し、全身の毛を逆立てて『まぞく』へと飛びかかる。
「!? 待てっ、タロっ!」
「にゃおーんっ! (猫流奥義、ガリガリプラスっ!)」
我輩、マウマウを仕留める時のように力加減などしないで、全力で爪を立て、『まぞく』の顔面を狙って手を降り下ろす。しかし、流石に『まぞく』も黙って見ているわけではなく、我輩の技を避けようとした。ただ……。
我輩が手を降り下ろした瞬間、『まぞく』の肩口が裂け、赤い血が吹き出す。
「アァッ」
今回は、普通の『ガリガリ』ではないのだ。『ガリガリプラス』なのだ。魔力を用いて、見えない爪が伸びている想像を実現させたのだ。
そうして、見えざる爪によってダメージを受けた『まぞく』は、呻き声を上げて我輩と距離を取るべく、一気に後退する。
「……すごい」
「にゃあっ。ふしゃーっ(まだまだなのだっ。さぁ行くぞっ)」
バルディスとラーミアは、あのゾンビ達を相手にしている。それならば、我輩は、怪我をしているらしいディアムを守りながら、この『まぞく』と戦うまでなのだ。きっと、この『まぞく』さえ倒せば、ゾンビは居なくなるのだ。
そう思って、『まぞく』と対峙する我輩。しかし、何やらその『まぞく』の様子が変化する。
「アァァ……ウ……ぐ……に、逃げ、ろ」
頭を抱え、そう言い出す『まぞく』。呻くか喚くかしかできないと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。そして、その言葉も意外で、我輩、思わず目を見張る。
「……逃げて、くれっ! た、のむ……」
テノールの心地よい声は苦悶に満ち、我輩達の撤退を望む。そして、それと同時に、バルディスらを襲っていたゾンビも動きを止める。
「っ、撤退するぞっ!」
バルディスのその宣言に、我輩はヒョイッとディアムに抱えられ、そのまま走り出すディアムに身を任せる。
事情はよく分からないものの、『逃げろ』と言った『まぞく』は、何かに抗っているように見えた。もしかしたら、彼もまた、何らかの被害者なのかもしれない。
闇夜の中を駆け抜け、町の外にまで出た我輩達は、追っ手が来ないことを確認する。しばらくして、朝日が昇るまで、我輩は、あの『まぞく』のことを思うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回は、ここまで話を書こうとして、『謎の魔族』ってタイトルにしていましたが、到底書ききれなかったので『待機組』というタイトルに変えました。
更新したその日に変えたので、気づいた人は少ないかとは思いますが……変更があったことをお知らせしておきます。
今回のタイトルが『謎の魔族』です。
今回の話は、後々回収する伏線ということで……多分、回収を忘れることはありません。
……結構、後になっての回収にはなりそうですけどね。
伏線張ったまま回収を忘れてたってことにならないよう、頑張りますね。
それでは、また三日後に!
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