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第一章 アルトルム王国の病
第二十九話 チャーの話
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町の外である、エルブ山脈へ向かう道の途中。少し拓けた場所で、我輩達は野宿していた。バルディスらが野宿の準備をしているのを横目に、我輩、宿のフカフカのベッドには劣るものの、フカフカの草のベッドの上で、戦闘の疲れからいつの間にか眠っていたのだった。
そして、目が覚めてすぐに、我輩は顔を洗い、毛繕いし、チャーの元へと向かう。我輩、眠る前に話を聞こうと思っていたのだが、どうやらチャーは魔法で眠っている状態だとのことであったため、疲れをとってからということになったのだ。
檻の中で大人しくしているチャーを、バルディスらが囲っているのが見え、我輩、急いでそちらに向かう。すると……。
「にゃあ……(し、師匠……)」
我輩の姿を見つけたチャーの方が、声をかけてくる。しかし、その声には怯えが混ざり、チャー自身の耳もヘタッと横に倒れてしまっている。
チャーは、自分が何をしたのか、ある程度は理解しているのかもしれない。
「あぁ、ちょうど良かった。タロ、こいつに話を聞いてみてくれ。俺達だと警戒されて、何も話しちゃくれない」
「にゃあ……にゃーにゃあ? (分かった……と言いたいところだが、我輩が居ない間に話を聞こうとしていたのか?)」
「いや、そういうつもりはなかったんだが……あんまりにも警戒されているから、どうにかしようと思っていただけで、他意はない」
困ったというようにそう言ったバルディスだが、それは明らかに嘘だ。もし、警戒されているのをどうにかするつもりなら、距離を取り、我輩を呼ぶのが最も効果的なのだから……。
むぅ、何のつもりかは分からないが、悪意はなさそうだから、このまま騙されてやるのが良いのだろうな。
「にゃー。にゃにゃにゃ(そうであったか。では、話をするから、バルディス達は離れていてほしいのだ)」
「あぁ、分かった。ディアム、ラーミア、向こうで待機するぞ」
「御意」
「えぇ。分かりましたわ」
『離れていてほしい』と要求すれば、バルディスはすんなりと頷く。やはり、近くに居れば警戒されることを理解できているのであろう。
昨日、大怪我を負ったのではと思われていたディアムは、何やら『治癒魔法』とやらで自分を治しており、ほぼ元通りになったらしく、普段と変わりない様子でバルディスに従う。
ちなみに、ラーミアの方は、真意の分からないニコニコとした笑顔で応じており……何だか、その笑顔を見ているだけで寒気がしてくる。
そんなこんなで、チャーからバルディスらが見えなくなったところで、我輩、本題に入ることにしたのだ。
「にゃあ…にゃ……(師匠…俺は……)」
「にゃー。にゃにゃあ。にゃにゃーにゃあ……(チャーよ。すまないが、教えてほしい。なぜ、我輩達のことをあの者に教えたのかを……)」
チャーには、『何をしたのか?』ではなく、『なぜ話したのか?』を問いかける。それは、すでにチャーの行ったことを我輩達が承知しているということを指し示す言葉だった。
「にゃにゃ……? (師匠は、全部知って……?)」
驚いたように目を丸くするチャーに、我輩は何も答えず、ただ待つ。
「……にゃにゃー(……俺、師匠に会う前に、アイツに、仮面の男に会ったんです)」
しばらくすると、チャーはそんなことを話し始めた。
「にゃあにゃ。にゃーにゃ(最初は、変な奴が居るくらいに思ってましたが、ソイツは、俺に取引してきたんです。猫の情報網を使わせてくれたら、マウマウを減らしてやるって)」
「にゃにゃ(猫の情報網、それに、マウマウ、か)」
当時は、マウマウが異常発生し始めた頃で、同胞達は皆、マウマウに怯えていたらしい。そこに、そんな取引を持ちかけられて、チャーは悩むこともなく、飛び付いたそうだ。
「にゃにゃあ。にゃー(俺、前のボスだったから、情報網は使えました。だから、全く問題ないと、その時は思っていたんです)」
我輩、チャーが前のボスだったという新事実に驚いた。何となく、他の同胞とは違う気もしていたが、それはただ変わっているだけだと思っていたのだ。
しかし、そうして驚いている間にも話は続く。
「にゃーにゃあ。にゃあにゃー……(でも、俺、知ってしまったんです。マウマウの異常発生の原因が、アイツだったってことを……)」
それを知ったことを、仮面の男に気づかれてしまったチャーは、マウマウに追われる日々を送ることになったと言う。そして、そんな時に現れたのが、我輩、というわけらしい。
「にゃにゃーにゃ。にゃあにゃ(俺、まさか同じ猫なのにマウマウと戦える猫が居るとは思ってなくて、とても驚きました。でも、同時に思ったんです)」
そこで、チャーは言葉を区切り、我輩を見つめる。
「にゃーにゃ……( この猫なら、俺の現状を変えてくれるんじゃないかって……) 」
苦しそうに、切なそうに、言葉を吐き出したチャーは、きっと、本当に苦しかったのだろう。マウマウを異常発生させ、同胞を危機的状況に追いやった奴に、知らなかったとはいえ、情報を流してしまい、なおかつ、そのことを知ってからは毎日、殺されかねない日々を送っていたのだろうから。
「にゃっ。にゃあにゃ(師匠は素晴らしかったっ。強いし、交渉で猫の情報網を掌握してしまうし、優しかった)」
「に、にゃ……(そ、そんなことは……)」
「にゃあっ。にゃ……にゃー(いいえっ、そんなことあるんですっ。でも、だからこそ……アイツに目をつけられてしまった)」
とてもキラキラとした目で、我輩を尊敬していることを訴えるチャーは、仮面の男の話になると、顔を曇らせる。
どうやら、我輩がバルディスらと初めて会った日、チャーはその仮面の男と再会したらしい。それもこれも、我輩がマウマウを討伐して、目立ってしまったからのようだが……。
そして、そこで、我輩の情報を流せば、マウマウをけしかけるのを止めてやるといったことを言われたらしい。
「にゃ。にゃーにゃあ……にゃ(師匠を売るなんて、したくなかった。でも、アイツはマウマウを連れてきていて、囲まれて、怖くて……つい、頷いてしまったんです)」
そして、チャーはその後も我輩の情報を仕入れるために、我輩を捜しに行かされた。そして見つけたのは、宿屋でバルディスらと共に居る我輩だったらしい。そして、我輩と接触して、道案内を買って出てくれたそうだ。
「にゃにゃあ。にゃあにゃにゃ(俺、北の川辺で何かしていたのが、アイツの仲間だってことだけは知っていたんです。でも、アイツが何をしているのかは知らなかったから、それを調べようとしている師匠達に興味を持っていたのもあります)」
そして、病の実態を知ったチャーは、深く絶望した。自分は、とんでもない相手に使われていたのだと。
あまりの事態に困惑していたチャーは、逃げようとして失敗し、仮面の男に捕まっていたらしい。
「にゃあ(捕まって、脅されて。俺、師匠が掴んだ情報のことを話してしまったんです)」
暗い顔でそう言うチャーだが、我輩、ただの脅しだったとは思えず、チャーの姿をよくよく観察する。チャーは震えて、完全に怯えた目をしていた。
「にゃ? (拷問でもされたか?)」
ポツリと、そう溢すと、チャーはピクリと反応する。どうやら、図星らしい。今、何ともないのは、きっとディアムと同じように、『治癒魔法』を使ったからなのだろう。
「にゃ。にゃあにゃー(話は分かったのだ。大丈夫、きっと、悪いことにはならないのだ)」
これで、チャーからの大まかな情報は得られた。後は、このことをバルディスらに伝え、チャーを守るのみだ。
「にゃあ。にゃあ。にゃ……(ごめんなさい。ごめんなさい。師匠……)」
我輩は、後悔の念に苛まれるチャーを宥め、落ち着くまで、ずっと寄り添うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
案外、チャーって色々なことを抱えていましたね。
作者は結構チャーのことが気に入ってるから虐めたゲフンゲフン、活躍の場を増やしたくて書いていたりもします。
いやぁ、素直に慕ってくる弟子っていう要素がきっとツボなんですけどね~
さてさて、それでは続きは、バルディスに頑張ってもらいましょう。
それではまたっ!
そして、目が覚めてすぐに、我輩は顔を洗い、毛繕いし、チャーの元へと向かう。我輩、眠る前に話を聞こうと思っていたのだが、どうやらチャーは魔法で眠っている状態だとのことであったため、疲れをとってからということになったのだ。
檻の中で大人しくしているチャーを、バルディスらが囲っているのが見え、我輩、急いでそちらに向かう。すると……。
「にゃあ……(し、師匠……)」
我輩の姿を見つけたチャーの方が、声をかけてくる。しかし、その声には怯えが混ざり、チャー自身の耳もヘタッと横に倒れてしまっている。
チャーは、自分が何をしたのか、ある程度は理解しているのかもしれない。
「あぁ、ちょうど良かった。タロ、こいつに話を聞いてみてくれ。俺達だと警戒されて、何も話しちゃくれない」
「にゃあ……にゃーにゃあ? (分かった……と言いたいところだが、我輩が居ない間に話を聞こうとしていたのか?)」
「いや、そういうつもりはなかったんだが……あんまりにも警戒されているから、どうにかしようと思っていただけで、他意はない」
困ったというようにそう言ったバルディスだが、それは明らかに嘘だ。もし、警戒されているのをどうにかするつもりなら、距離を取り、我輩を呼ぶのが最も効果的なのだから……。
むぅ、何のつもりかは分からないが、悪意はなさそうだから、このまま騙されてやるのが良いのだろうな。
「にゃー。にゃにゃにゃ(そうであったか。では、話をするから、バルディス達は離れていてほしいのだ)」
「あぁ、分かった。ディアム、ラーミア、向こうで待機するぞ」
「御意」
「えぇ。分かりましたわ」
『離れていてほしい』と要求すれば、バルディスはすんなりと頷く。やはり、近くに居れば警戒されることを理解できているのであろう。
昨日、大怪我を負ったのではと思われていたディアムは、何やら『治癒魔法』とやらで自分を治しており、ほぼ元通りになったらしく、普段と変わりない様子でバルディスに従う。
ちなみに、ラーミアの方は、真意の分からないニコニコとした笑顔で応じており……何だか、その笑顔を見ているだけで寒気がしてくる。
そんなこんなで、チャーからバルディスらが見えなくなったところで、我輩、本題に入ることにしたのだ。
「にゃあ…にゃ……(師匠…俺は……)」
「にゃー。にゃにゃあ。にゃにゃーにゃあ……(チャーよ。すまないが、教えてほしい。なぜ、我輩達のことをあの者に教えたのかを……)」
チャーには、『何をしたのか?』ではなく、『なぜ話したのか?』を問いかける。それは、すでにチャーの行ったことを我輩達が承知しているということを指し示す言葉だった。
「にゃにゃ……? (師匠は、全部知って……?)」
驚いたように目を丸くするチャーに、我輩は何も答えず、ただ待つ。
「……にゃにゃー(……俺、師匠に会う前に、アイツに、仮面の男に会ったんです)」
しばらくすると、チャーはそんなことを話し始めた。
「にゃあにゃ。にゃーにゃ(最初は、変な奴が居るくらいに思ってましたが、ソイツは、俺に取引してきたんです。猫の情報網を使わせてくれたら、マウマウを減らしてやるって)」
「にゃにゃ(猫の情報網、それに、マウマウ、か)」
当時は、マウマウが異常発生し始めた頃で、同胞達は皆、マウマウに怯えていたらしい。そこに、そんな取引を持ちかけられて、チャーは悩むこともなく、飛び付いたそうだ。
「にゃにゃあ。にゃー(俺、前のボスだったから、情報網は使えました。だから、全く問題ないと、その時は思っていたんです)」
我輩、チャーが前のボスだったという新事実に驚いた。何となく、他の同胞とは違う気もしていたが、それはただ変わっているだけだと思っていたのだ。
しかし、そうして驚いている間にも話は続く。
「にゃーにゃあ。にゃあにゃー……(でも、俺、知ってしまったんです。マウマウの異常発生の原因が、アイツだったってことを……)」
それを知ったことを、仮面の男に気づかれてしまったチャーは、マウマウに追われる日々を送ることになったと言う。そして、そんな時に現れたのが、我輩、というわけらしい。
「にゃにゃーにゃ。にゃあにゃ(俺、まさか同じ猫なのにマウマウと戦える猫が居るとは思ってなくて、とても驚きました。でも、同時に思ったんです)」
そこで、チャーは言葉を区切り、我輩を見つめる。
「にゃーにゃ……( この猫なら、俺の現状を変えてくれるんじゃないかって……) 」
苦しそうに、切なそうに、言葉を吐き出したチャーは、きっと、本当に苦しかったのだろう。マウマウを異常発生させ、同胞を危機的状況に追いやった奴に、知らなかったとはいえ、情報を流してしまい、なおかつ、そのことを知ってからは毎日、殺されかねない日々を送っていたのだろうから。
「にゃっ。にゃあにゃ(師匠は素晴らしかったっ。強いし、交渉で猫の情報網を掌握してしまうし、優しかった)」
「に、にゃ……(そ、そんなことは……)」
「にゃあっ。にゃ……にゃー(いいえっ、そんなことあるんですっ。でも、だからこそ……アイツに目をつけられてしまった)」
とてもキラキラとした目で、我輩を尊敬していることを訴えるチャーは、仮面の男の話になると、顔を曇らせる。
どうやら、我輩がバルディスらと初めて会った日、チャーはその仮面の男と再会したらしい。それもこれも、我輩がマウマウを討伐して、目立ってしまったからのようだが……。
そして、そこで、我輩の情報を流せば、マウマウをけしかけるのを止めてやるといったことを言われたらしい。
「にゃ。にゃーにゃあ……にゃ(師匠を売るなんて、したくなかった。でも、アイツはマウマウを連れてきていて、囲まれて、怖くて……つい、頷いてしまったんです)」
そして、チャーはその後も我輩の情報を仕入れるために、我輩を捜しに行かされた。そして見つけたのは、宿屋でバルディスらと共に居る我輩だったらしい。そして、我輩と接触して、道案内を買って出てくれたそうだ。
「にゃにゃあ。にゃあにゃにゃ(俺、北の川辺で何かしていたのが、アイツの仲間だってことだけは知っていたんです。でも、アイツが何をしているのかは知らなかったから、それを調べようとしている師匠達に興味を持っていたのもあります)」
そして、病の実態を知ったチャーは、深く絶望した。自分は、とんでもない相手に使われていたのだと。
あまりの事態に困惑していたチャーは、逃げようとして失敗し、仮面の男に捕まっていたらしい。
「にゃあ(捕まって、脅されて。俺、師匠が掴んだ情報のことを話してしまったんです)」
暗い顔でそう言うチャーだが、我輩、ただの脅しだったとは思えず、チャーの姿をよくよく観察する。チャーは震えて、完全に怯えた目をしていた。
「にゃ? (拷問でもされたか?)」
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「にゃ。にゃあにゃー(話は分かったのだ。大丈夫、きっと、悪いことにはならないのだ)」
これで、チャーからの大まかな情報は得られた。後は、このことをバルディスらに伝え、チャーを守るのみだ。
「にゃあ。にゃあ。にゃ……(ごめんなさい。ごめんなさい。師匠……)」
我輩は、後悔の念に苛まれるチャーを宥め、落ち着くまで、ずっと寄り添うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
案外、チャーって色々なことを抱えていましたね。
作者は結構チャーのことが気に入ってるから虐めたゲフンゲフン、活躍の場を増やしたくて書いていたりもします。
いやぁ、素直に慕ってくる弟子っていう要素がきっとツボなんですけどね~
さてさて、それでは続きは、バルディスに頑張ってもらいましょう。
それではまたっ!
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