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第一章 アルトルム王国の病
第三十話 問題山積み
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タロがまだ眠っていた頃、俺達は互いに情報を確認し合っていた。
「では、アレは魔族で間違いないのですね?」
「あぁ」
「だが、なぜ荷担しているのかが分からないな」
今、話し合っているのは、あの仮面の魔族について。
何者であるかは全くもって不明であるし、あれほどの力を持つ者が帝国側についている理由も分からない。ただ、分かることは、あの魔族が、今後の脅威となりうるだろうということだけだ。
「報告、ある」
「あぁ、話してみてくれ」
自身に敵対する者を頭の中で数えていると、ふいに、ディアムが真剣な表情でこちらを見つめていることに気づいた。
「敵、様子、おかしかった。苦しみながら、『逃げろ』、言ってきた」
「それは……」
「まさか、操られている、などとは言いませんわよね?」
ディアムが話した新たな情報に、俺達は動揺せざるを得ない。
ディアムは、四天王にこそならなかったものの、四天王として申し分のない実力を持っている。そして、そんなディアムを容易く追い詰めた仮面の魔族が、何者かに操られているかもしれないという予測。それは、どう考えても楽観的には見れない異常事態だ。
「こっちに来てから、俺はどんどん解決しない問題を抱え込んで、深みにはまっている気がする……」
「『気がする』ではなく、事実、そうですよ」
そして、俺はラーミアと疲れた顔を見合わせて、一緒にため息を吐く。
「…………もう一つ、報告。敵の角、色は黒」
とても、言いにくそうに報告したディアムに、俺はその意味を察し、もう一つため息を吐きたくなった。
「それは……また何とも言えませんね」
「黒い角でディアムを容易く御せる実力者……そんな者、知らないぞ」
頭の中で実力者の名前を探っていた俺は、黒い角という時点で当てはまる存在が居ないと気づく。
黒い角は、本来、弱者の証しだ。様々な種族と混ざり合った結果、生まれた存在であることを意味するその色は、大抵、中途半端な力しか有していないことが多い。
例外として、稀に、俺のような莫大な力を持つ者が生まれることもあるが、基本的には『黒い角=弱者』だ。
「だぁあっ! 何なんだよ一体っ」
「流れの魔族か、もしくは、反抗勢力に存在していたのか……」
「反抗勢力、黒い角、確認されていない」
「と、なると、流れの魔族、ですね」
つまりは、情報が皆無、ということだ。これからも敵対する可能性を考えると、それはあまりにも心許なかったが、今は仕方ないと思うしかなかった。
「あれほどの実力者が敵。しかも、情報皆無。アルトルムでは病の原因が魔王だとまことしやかに囁かれているし、そういった諸々を調べようにも国には帰れない。その国の方も、今頃どうなっていることやら……」
「バル、お願いですから、問題を並べ立てないでください。頭が痛くなります」
「でも、タロ、強かった。仲間にできたのは、僥倖」
頭を押さえるラーミアに、少しだけ申し訳なく思いながらも、俺はディアムの言葉に首をかしげる。
「そういえば、こっちはこっちで死人相手にダンスするはめになっていたから知らないんだが、タロはどんな戦い方をしていたんだ?」
そう、俺はラーミアを追ってきた死人を追い払っていたため、タロの活躍は知らない。ディアムが褒めるということは、それなりの強さではあると思うのだが……。
「タロ、完全なスピード型。動き、見えなかった。魔力で爪を伸ばし、引っ掻いたようではあった。威力、申し分ない」
そう説明するディアムに、俺はタロの戦っている光景を想像しようとして……。
「……ダメだ。普段、ゴロゴロしてるあいつが、素早く攻撃する姿に結びつかない。ディアムの方へ走った時のスピードは見てるはずなのにな」
どこかのんびりとしていて、ちょくちょく抜けている様子のタロを見ている俺としては、ディアムの言う俊敏さがどうにも思い描けない。
「私も、想像できませんわね」
俺の隣では、ラーミアが難しい顔で、やはり想像できないと唸っている。
「俺、タロが、猫でなければ、弟子入り、してた」
そして、俺はそんな思いがけない言葉にギョッとしてディアムを見ると……そこには、どことなく目を輝かせ、タロを尊敬しているかのようなディアムが居た。心なしか、いつもよりも気配が明るい気がしないでもない。
「猫ながら、無駄のない、動きだった」
よくは分からないが、何となく、タロにディアムが取られる気がして落ち着かない。
「ですが、タロは猫です。弟子入りはできませんわよ」
「分かってる」
が、どうやらそんなハラハラとした気持ちは杞憂だったらしい。ラーミアの一言で、ディアムの気配は一気に普段通りの影の薄い感覚に戻る。
これでこそ、ディアムだな。
影の薄くないディアムは、ディアムじゃないとばかりにそんな感想を抱いた俺は、少しだけホッとする。
「タロのことは、ひとまず置いておくとして、そろそろあの猫が目覚める頃です。先に、あの仮面の魔族について、聞き出してみませんか?」
「それは良いが……タロも居た方が良いんじゃないか?」
「いえ、できることなら、あの魔族についての情報はあまり知られたくありませんわ。隠せなければ隠せなかったで良いとも思いますが、今後のことを考えると、タロにはあまり深入りされないようにしておかなければ、巻き込んでしまいますわよ」
確かに、タロはこんな危険な話に関与する必要はない。勇者ではあるし、このアルトルムの病を何とかしようとはしているらしいが、それ以上の危険を背負う必要などない。
「分かった。なら、そういう方向で話をしてみよう」
結局、あの猫からは情報を引き出せず、タロに不信感を与えて終わることになるのだが、俺達は、こうして、あの猫と対面するのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
はい、今回は、時系列としては、前回の話の少し前に当たるお話です。
魔族側の事情というか、背景というかをちょくちょく入れておかないとなぁってことで、書いております。
まだまだ『アルトルムの病』は続きますので、楽しく読んでいただけると嬉しいです!
感想も、随時お待ちしております!(感想があれば、作者は跳び跳ねて喜びますのでっ)
ではでは、また次回。
「では、アレは魔族で間違いないのですね?」
「あぁ」
「だが、なぜ荷担しているのかが分からないな」
今、話し合っているのは、あの仮面の魔族について。
何者であるかは全くもって不明であるし、あれほどの力を持つ者が帝国側についている理由も分からない。ただ、分かることは、あの魔族が、今後の脅威となりうるだろうということだけだ。
「報告、ある」
「あぁ、話してみてくれ」
自身に敵対する者を頭の中で数えていると、ふいに、ディアムが真剣な表情でこちらを見つめていることに気づいた。
「敵、様子、おかしかった。苦しみながら、『逃げろ』、言ってきた」
「それは……」
「まさか、操られている、などとは言いませんわよね?」
ディアムが話した新たな情報に、俺達は動揺せざるを得ない。
ディアムは、四天王にこそならなかったものの、四天王として申し分のない実力を持っている。そして、そんなディアムを容易く追い詰めた仮面の魔族が、何者かに操られているかもしれないという予測。それは、どう考えても楽観的には見れない異常事態だ。
「こっちに来てから、俺はどんどん解決しない問題を抱え込んで、深みにはまっている気がする……」
「『気がする』ではなく、事実、そうですよ」
そして、俺はラーミアと疲れた顔を見合わせて、一緒にため息を吐く。
「…………もう一つ、報告。敵の角、色は黒」
とても、言いにくそうに報告したディアムに、俺はその意味を察し、もう一つため息を吐きたくなった。
「それは……また何とも言えませんね」
「黒い角でディアムを容易く御せる実力者……そんな者、知らないぞ」
頭の中で実力者の名前を探っていた俺は、黒い角という時点で当てはまる存在が居ないと気づく。
黒い角は、本来、弱者の証しだ。様々な種族と混ざり合った結果、生まれた存在であることを意味するその色は、大抵、中途半端な力しか有していないことが多い。
例外として、稀に、俺のような莫大な力を持つ者が生まれることもあるが、基本的には『黒い角=弱者』だ。
「だぁあっ! 何なんだよ一体っ」
「流れの魔族か、もしくは、反抗勢力に存在していたのか……」
「反抗勢力、黒い角、確認されていない」
「と、なると、流れの魔族、ですね」
つまりは、情報が皆無、ということだ。これからも敵対する可能性を考えると、それはあまりにも心許なかったが、今は仕方ないと思うしかなかった。
「あれほどの実力者が敵。しかも、情報皆無。アルトルムでは病の原因が魔王だとまことしやかに囁かれているし、そういった諸々を調べようにも国には帰れない。その国の方も、今頃どうなっていることやら……」
「バル、お願いですから、問題を並べ立てないでください。頭が痛くなります」
「でも、タロ、強かった。仲間にできたのは、僥倖」
頭を押さえるラーミアに、少しだけ申し訳なく思いながらも、俺はディアムの言葉に首をかしげる。
「そういえば、こっちはこっちで死人相手にダンスするはめになっていたから知らないんだが、タロはどんな戦い方をしていたんだ?」
そう、俺はラーミアを追ってきた死人を追い払っていたため、タロの活躍は知らない。ディアムが褒めるということは、それなりの強さではあると思うのだが……。
「タロ、完全なスピード型。動き、見えなかった。魔力で爪を伸ばし、引っ掻いたようではあった。威力、申し分ない」
そう説明するディアムに、俺はタロの戦っている光景を想像しようとして……。
「……ダメだ。普段、ゴロゴロしてるあいつが、素早く攻撃する姿に結びつかない。ディアムの方へ走った時のスピードは見てるはずなのにな」
どこかのんびりとしていて、ちょくちょく抜けている様子のタロを見ている俺としては、ディアムの言う俊敏さがどうにも思い描けない。
「私も、想像できませんわね」
俺の隣では、ラーミアが難しい顔で、やはり想像できないと唸っている。
「俺、タロが、猫でなければ、弟子入り、してた」
そして、俺はそんな思いがけない言葉にギョッとしてディアムを見ると……そこには、どことなく目を輝かせ、タロを尊敬しているかのようなディアムが居た。心なしか、いつもよりも気配が明るい気がしないでもない。
「猫ながら、無駄のない、動きだった」
よくは分からないが、何となく、タロにディアムが取られる気がして落ち着かない。
「ですが、タロは猫です。弟子入りはできませんわよ」
「分かってる」
が、どうやらそんなハラハラとした気持ちは杞憂だったらしい。ラーミアの一言で、ディアムの気配は一気に普段通りの影の薄い感覚に戻る。
これでこそ、ディアムだな。
影の薄くないディアムは、ディアムじゃないとばかりにそんな感想を抱いた俺は、少しだけホッとする。
「タロのことは、ひとまず置いておくとして、そろそろあの猫が目覚める頃です。先に、あの仮面の魔族について、聞き出してみませんか?」
「それは良いが……タロも居た方が良いんじゃないか?」
「いえ、できることなら、あの魔族についての情報はあまり知られたくありませんわ。隠せなければ隠せなかったで良いとも思いますが、今後のことを考えると、タロにはあまり深入りされないようにしておかなければ、巻き込んでしまいますわよ」
確かに、タロはこんな危険な話に関与する必要はない。勇者ではあるし、このアルトルムの病を何とかしようとはしているらしいが、それ以上の危険を背負う必要などない。
「分かった。なら、そういう方向で話をしてみよう」
結局、あの猫からは情報を引き出せず、タロに不信感を与えて終わることになるのだが、俺達は、こうして、あの猫と対面するのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
はい、今回は、時系列としては、前回の話の少し前に当たるお話です。
魔族側の事情というか、背景というかをちょくちょく入れておかないとなぁってことで、書いております。
まだまだ『アルトルムの病』は続きますので、楽しく読んでいただけると嬉しいです!
感想も、随時お待ちしております!(感想があれば、作者は跳び跳ねて喜びますのでっ)
ではでは、また次回。
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