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第二章 反撃のサナフ教国
第八十九話 退却の後
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あの『リリナのバー』からの脱出は、そう難しいことではなかった。ミルテナ帝国の騎士達は、俺達だけで簡単に倒せた。練度不足を感じるほどの弱さに、ついつい、ミルテナ帝国は大丈夫だろうかと心配してしまったほどだ。
敵の中で中隊長とか呼ばれていたものも居たが、それは捕虜として捕らえることにも成功した。
地下から上がってきた者達は、俺達の姿に不安を覚える者も居たようだったが、ミルテナ帝国の騎士を倒しているところを見て、味方だと判断してくれたらしい。一通りの敵を一掃すると、一つの民家らしき場所へと案内してもらえた。
「バル、タロは?」
「多分、『転移』を使えるとは思うが、ダメだった場合は迎えに行くさ」
薄暗い部屋の中。丸テーブル一つに椅子が三脚あるだけの小部屋に俺達だけが通されてから、数分。今はまだ、信用までされていないであろう俺達は、扉の側に立つ赤髪の青年に監視された状態で椅子に腰掛けていた。
そして俺は、ついさっき、タロと連絡を取り、一応『転移』のことを伝えてみたところだ。何だかんだで高位の魔法を使えるタロのことだ。怪我人を連れてどこかへ『転移』するくらいできそうだった。
会話を終えると、重苦しい沈黙が場を支配する。
俺達としては、今回助けた人間達がレジスタンスではないかと疑っているものの、確証はない。ただ、ディアムに見せられた地図によると、あの『リリナのバー』はレジスタンスのアジト候補だった場所ではあった。今、連れて来られた場所に関しては載っていなかったが、あれだけの人数が地下に隠れていたとなると、レジスタンスである可能性が高い。
睨むようにしてこちらを観察している赤髪の青年を一瞥しながら、俺はひとまず待機だなと判断する。
コンコンコンと、扉がノックされたのは、そんな時だった。
「っ、誰だ?」
「僕だ」
赤髪の青年に応えたのは、恐らくタロが言っていた欠片の持ち主であろう子供。金髪碧眼の整った顔立ちをしている男の子だった。
「こっちに来るなって言っておいたはずだが?」
扉を開けて入ってきた男の子に、赤髪の青年は疲れたように応じる。しかし、男の子がそれに取り合う様子はなかった。
「お前達が助けてくれたんだな」
「あぁ、そうだな」
子供にしては随分と尊大な態度、と思わなくもなかったが、そこで突っ掛かるほど愚かでもない。動揺すら見せずに肯定すると、男の子は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに真顔に戻る。
「部外者が、随分余計なことをしてくれたな」
「お、おいっ、何言ってんだっ」
助けられたことに対しての礼かと思えば、男の子はその真逆を言い出し、赤髪の青年を慌てさせる。
「ほぅ、余計なこと、だったか?」
「あぁ、余計だね。でも、助かったことは事実だ。礼を言う」
随分とひねくれた礼を言われて、俺達はどうしたものかと、つい、顔を見合わせてしまう。
「はぁ、お前、もうちょっと言葉を選べよな。こいつらは敵かもしれねぇんだぞ?」
「敵だとしたら僕は尊敬するね。あそこまで容赦なく騎士どもを叩きのめしたんだ。演技だとしたら、やり過ぎとしか思えない」
確かに、容赦はしなかった。する必要がなかったのもあるが、ボヤボヤしていたら、タロに全ての手柄をかっさらわれそうだと思って容赦しなかったのもある。
と、そんなことを思っていると、タロからの念話が入る。
《にゃーにゃ。にゃあ(バルディス、我輩、『転移』してルーグ砂漠に今居るのだ。昨日、休んだところなのだ)》
《分かった。怪我人の状態はどうだ?》
《にゃあにゃあ(ううむ、我輩、人間の怪我は良く分からないが、あまり良いとは言えないのだ)》
《そうか……治療して眠らせることができれば良いんだが、できそうか?》
《にゃ? にゃー(む? できるかどうかやってみるのだ)》
《あぁ、できたらまた連絡をくれ》
《にゃっ(了解なのだっ)》
タロからの念話に気を取られていると、どうやら赤髪の青年と男の子の間で話がついたらしい。
「それで良いんだな?」
「あぁ、それしかないだろう?」
話の流れは見えないが、赤髪の青年の問いかけに、男の子が投げやりになっているのだけは分かる。何があるのかと身構えていると、眉間にしわを寄せた赤髪の青年が口を開く。
「俺達の話し合いの場にあんたらも同席してもらう。良いな?」
それは、有無を言わせぬ形相だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日はちょっと早めの更新。
そして、ちょっと長めの分量。
『リリナのバーにて』というタイトルから解放された反動とかではないですよ?(多分……)
それでは、また!
敵の中で中隊長とか呼ばれていたものも居たが、それは捕虜として捕らえることにも成功した。
地下から上がってきた者達は、俺達の姿に不安を覚える者も居たようだったが、ミルテナ帝国の騎士を倒しているところを見て、味方だと判断してくれたらしい。一通りの敵を一掃すると、一つの民家らしき場所へと案内してもらえた。
「バル、タロは?」
「多分、『転移』を使えるとは思うが、ダメだった場合は迎えに行くさ」
薄暗い部屋の中。丸テーブル一つに椅子が三脚あるだけの小部屋に俺達だけが通されてから、数分。今はまだ、信用までされていないであろう俺達は、扉の側に立つ赤髪の青年に監視された状態で椅子に腰掛けていた。
そして俺は、ついさっき、タロと連絡を取り、一応『転移』のことを伝えてみたところだ。何だかんだで高位の魔法を使えるタロのことだ。怪我人を連れてどこかへ『転移』するくらいできそうだった。
会話を終えると、重苦しい沈黙が場を支配する。
俺達としては、今回助けた人間達がレジスタンスではないかと疑っているものの、確証はない。ただ、ディアムに見せられた地図によると、あの『リリナのバー』はレジスタンスのアジト候補だった場所ではあった。今、連れて来られた場所に関しては載っていなかったが、あれだけの人数が地下に隠れていたとなると、レジスタンスである可能性が高い。
睨むようにしてこちらを観察している赤髪の青年を一瞥しながら、俺はひとまず待機だなと判断する。
コンコンコンと、扉がノックされたのは、そんな時だった。
「っ、誰だ?」
「僕だ」
赤髪の青年に応えたのは、恐らくタロが言っていた欠片の持ち主であろう子供。金髪碧眼の整った顔立ちをしている男の子だった。
「こっちに来るなって言っておいたはずだが?」
扉を開けて入ってきた男の子に、赤髪の青年は疲れたように応じる。しかし、男の子がそれに取り合う様子はなかった。
「お前達が助けてくれたんだな」
「あぁ、そうだな」
子供にしては随分と尊大な態度、と思わなくもなかったが、そこで突っ掛かるほど愚かでもない。動揺すら見せずに肯定すると、男の子は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに真顔に戻る。
「部外者が、随分余計なことをしてくれたな」
「お、おいっ、何言ってんだっ」
助けられたことに対しての礼かと思えば、男の子はその真逆を言い出し、赤髪の青年を慌てさせる。
「ほぅ、余計なこと、だったか?」
「あぁ、余計だね。でも、助かったことは事実だ。礼を言う」
随分とひねくれた礼を言われて、俺達はどうしたものかと、つい、顔を見合わせてしまう。
「はぁ、お前、もうちょっと言葉を選べよな。こいつらは敵かもしれねぇんだぞ?」
「敵だとしたら僕は尊敬するね。あそこまで容赦なく騎士どもを叩きのめしたんだ。演技だとしたら、やり過ぎとしか思えない」
確かに、容赦はしなかった。する必要がなかったのもあるが、ボヤボヤしていたら、タロに全ての手柄をかっさらわれそうだと思って容赦しなかったのもある。
と、そんなことを思っていると、タロからの念話が入る。
《にゃーにゃ。にゃあ(バルディス、我輩、『転移』してルーグ砂漠に今居るのだ。昨日、休んだところなのだ)》
《分かった。怪我人の状態はどうだ?》
《にゃあにゃあ(ううむ、我輩、人間の怪我は良く分からないが、あまり良いとは言えないのだ)》
《そうか……治療して眠らせることができれば良いんだが、できそうか?》
《にゃ? にゃー(む? できるかどうかやってみるのだ)》
《あぁ、できたらまた連絡をくれ》
《にゃっ(了解なのだっ)》
タロからの念話に気を取られていると、どうやら赤髪の青年と男の子の間で話がついたらしい。
「それで良いんだな?」
「あぁ、それしかないだろう?」
話の流れは見えないが、赤髪の青年の問いかけに、男の子が投げやりになっているのだけは分かる。何があるのかと身構えていると、眉間にしわを寄せた赤髪の青年が口を開く。
「俺達の話し合いの場にあんたらも同席してもらう。良いな?」
それは、有無を言わせぬ形相だった。
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今日はちょっと早めの更新。
そして、ちょっと長めの分量。
『リリナのバーにて』というタイトルから解放された反動とかではないですよ?(多分……)
それでは、また!
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