我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

文字の大きさ
90 / 574
第二章 反撃のサナフ教国

第八十九話 退却の後

しおりを挟む
 あの『リリナのバー』からの脱出は、そう難しいことではなかった。ミルテナ帝国の騎士達は、俺達だけで簡単に倒せた。練度不足を感じるほどの弱さに、ついつい、ミルテナ帝国は大丈夫だろうかと心配してしまったほどだ。

 敵の中で中隊長とか呼ばれていたものも居たが、それは捕虜として捕らえることにも成功した。

 地下から上がってきた者達は、俺達の姿に不安を覚える者も居たようだったが、ミルテナ帝国の騎士を倒しているところを見て、味方だと判断してくれたらしい。一通りの敵を一掃すると、一つの民家らしき場所へと案内してもらえた。


「バル、タロは?」

「多分、『転移』を使えるとは思うが、ダメだった場合は迎えに行くさ」


 薄暗い部屋の中。丸テーブル一つに椅子が三脚あるだけの小部屋に俺達だけが通されてから、数分。今はまだ、信用までされていないであろう俺達は、扉の側に立つ赤髪の青年に監視された状態で椅子に腰掛けていた。

 そして俺は、ついさっき、タロと連絡を取り、一応『転移』のことを伝えてみたところだ。何だかんだで高位の魔法を使えるタロのことだ。怪我人を連れてどこかへ『転移』するくらいできそうだった。

 会話を終えると、重苦しい沈黙が場を支配する。

 俺達としては、今回助けた人間達がレジスタンスではないかと疑っているものの、確証はない。ただ、ディアムに見せられた地図によると、あの『リリナのバー』はレジスタンスのアジト候補だった場所ではあった。今、連れて来られた場所に関しては載っていなかったが、あれだけの人数が地下に隠れていたとなると、レジスタンスである可能性が高い。

 睨むようにしてこちらを観察している赤髪の青年を一瞥しながら、俺はひとまず待機だなと判断する。

 コンコンコンと、扉がノックされたのは、そんな時だった。


「っ、誰だ?」

「僕だ」


 赤髪の青年に応えたのは、恐らくタロが言っていた欠片の持ち主であろう子供。金髪碧眼の整った顔立ちをしている男の子だった。


「こっちに来るなって言っておいたはずだが?」


 扉を開けて入ってきた男の子に、赤髪の青年は疲れたように応じる。しかし、男の子がそれに取り合う様子はなかった。


「お前達が助けてくれたんだな」

「あぁ、そうだな」


 子供にしては随分と尊大な態度、と思わなくもなかったが、そこで突っ掛かるほど愚かでもない。動揺すら見せずに肯定すると、男の子は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに真顔に戻る。


「部外者が、随分余計なことをしてくれたな」

「お、おいっ、何言ってんだっ」


 助けられたことに対しての礼かと思えば、男の子はその真逆を言い出し、赤髪の青年を慌てさせる。


「ほぅ、余計なこと、だったか?」

「あぁ、余計だね。でも、助かったことは事実だ。礼を言う」


 随分とひねくれた礼を言われて、俺達はどうしたものかと、つい、顔を見合わせてしまう。


「はぁ、お前、もうちょっと言葉を選べよな。こいつらは敵かもしれねぇんだぞ?」

「敵だとしたら僕は尊敬するね。あそこまで容赦なく騎士どもを叩きのめしたんだ。演技だとしたら、やり過ぎとしか思えない」


 確かに、容赦はしなかった。する必要がなかったのもあるが、ボヤボヤしていたら、タロに全ての手柄をかっさらわれそうだと思って容赦しなかったのもある。

 と、そんなことを思っていると、タロからの念話が入る。


《にゃーにゃ。にゃあ(バルディス、我輩、『転移』してルーグ砂漠に今居るのだ。昨日、休んだところなのだ)》

《分かった。怪我人の状態はどうだ?》

《にゃあにゃあ(ううむ、我輩、人間の怪我は良く分からないが、あまり良いとは言えないのだ)》

《そうか……治療して眠らせることができれば良いんだが、できそうか?》

《にゃ? にゃー(む? できるかどうかやってみるのだ)》

《あぁ、できたらまた連絡をくれ》

《にゃっ(了解なのだっ)》


 タロからの念話に気を取られていると、どうやら赤髪の青年と男の子の間で話がついたらしい。


「それで良いんだな?」

「あぁ、それしかないだろう?」


 話の流れは見えないが、赤髪の青年の問いかけに、男の子が投げやりになっているのだけは分かる。何があるのかと身構えていると、眉間にしわを寄せた赤髪の青年が口を開く。


「俺達の話し合いの場にあんたらも同席してもらう。良いな?」


 それは、有無を言わせぬ形相だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はちょっと早めの更新。

そして、ちょっと長めの分量。

『リリナのバーにて』というタイトルから解放された反動とかではないですよ?(多分……)

それでは、また!
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...