91 / 574
第二章 反撃のサナフ教国
第九十話 対面と交渉?
しおりを挟む
赤髪の青年に連れられて通された部屋には、男女合わせて五十人近くが集まっていた。彼らは、全てではないものの、一様にどこか怯えたような目をしており、俺達の姿を見てもそれは変わらなかった。
「それで? 俺達は何のために呼ばれたんだ?」
一番話が通じそうな赤髪の青年に問いかけると、そいつは眉間のしわをさらに深くし、重いため息を吐く。
「交渉のためだ。俺達には戦力がない」
「つまりは、俺達にミルテナ帝国の騎士達と戦う戦力になれと? レジスタンスの仲間入りをしろってことか?」
はっきりと『レジスタンス』という単語を入れて問いかけてみれば、赤髪の青年は頭を抱えて男の子の方を見る。
「おい、色々バレてんぞ」
「知らん」
「どうすりゃ良いんだよ」
「仲間に引き入れられればそれですむ話だ」
男の子に無下にあしらわれた赤髪の青年は、がっくりとうなだれて俺達の方へと向き直る。
「あー、確かに、俺達はレジスタンスだ。それで、仲間になってほしいんだが……えー、もし、仲間にならない場合は……そうだっ、口封じをさせてもらう、で良いんだよな?」
明らかに交渉事に慣れていないであろう赤髪の青年の言葉に、さすがに男の子も呆れているようだったが、口には出さない。代わりに口を出してきたのは、この部屋に通されてから側に来ていた『ノルじい』と呼ばれていた老人だった。
「そこは、『口封じをさせてもらう』とはっきり断言するところだわいっ」
「おぉ、わりぃなノルじい。俺はこういうの、苦手だ」
「堂々と言うな馬鹿者っ」
ノルじいとやらの言葉に内心、全面的に同意しながらも俺は、チラリと確認の意味を込めてラーミアとディアムに視線を送る。そして、うなずくのを確認した後、俺は未だに言い合う赤髪の青年とノルじいを視界に映す。
「レジスタンス、入るのは構わないぞ」
「「えっ?」」
「あんた、本気で言ってんの?」
自身の事情を勘案した結果、出した結論だというのに、赤髪の青年とノルじいは固まり、男の子に至ってはうろんげな視線を寄越してくる。周りに居る他の人間達も、心なしかザワザワとしていた。
「もちろん、本気です。それに、そもそもそちらが提案したことですよね?」
「いや、そりゃあそうなんだけどよ」
「利害、一致。協力、必須」
「利害? あんたらは何をしようとしておる?」
ディアムの言葉に引っ掛かりを覚えたらしきノルじい。しかし、今はまだ、それを教えるべきではないだろう。
「時が来れば話すさ。俺達はまだ、あんた達を信用してるわけでもないしな」
「ふんっ、それは僕達の方も同じだ。お前達は信用ならない」
鼻を鳴らして見下すような発言をする男の子に、何だか生意気で可愛いと思いながらも、俺は一つだけ、この場で開示できそうな情報を開示する。
「あぁ、それと、俺達の仲間がお前達の仲間を五人ほど救出しているぞ」
救出した五人は怪我人であることと、移動が難しいことを説明すると、赤髪の青年はすぐに迎えに行こうとする。
「待て。今はまだ危険だ。動くなら夜が良かろう」
「けど、そいつら、怪我してんだろ? 早く行ってやらねぇとヤバイんじゃないのか?」
そんなことを話している間に、タロから連絡が来る。
《にゃあ(無事、治療を終えて眠らせたのだ)》
《そうか、良くやってくれた。後で、何か美味しいものを調達してきてやる》
《にゃっ(楽しみにしてるのだっ)》
《当面は、そこで待機していてくれ。多分、夜、迎えに行く》
《にゃあ(分かったのだ)》
弾んだ声で応じるタロに苦笑しながらも、俺は、この事実を目の前の者達に伝える。
「怪我人の治療はしているようだから、心配はいらない。そこのご老人が言う通り、夜にした方が良いだろうな」
そう言えば、赤髪の青年は素直に引き下がった。こういうところは、好感が持てそうだ。
「な、なぁ、あんたら、強いんだろ? なら、俺達を守ってくれるんだよな?」
そうして、話に一段落ついたところで、他に居た、周りの人間が声をかけてきた。しかし、どうにもおかしな内容だ。
「守る? そんなわけないだろ? 俺達がやるのは、クーデターを成功させるために戦うことだ」
「それなら当然、レジスタンスに入ってる私達を守ってくれるものでしょ?」
「そうだそうだ」
俺達は、あくまでも魔族に対する冤罪を晴らすため、クーデターを成功させようとしているに過ぎない。そして、クーデターを起こそうとしている人間達も、クーデターをメインに考えているはずだった。にもかかわらず、なぜか『レジスタンスの人間を守るのが当たり前』という姿勢を示され、不可解に思って赤髪の青年達、三人を見る。すると、彼らは、それぞれ険しい顔をしていた。
なるほど、だから、『余計なこと』と言ったのか。
彼らの表情に、俺は全てを悟る。恐らくは、俺達に守りを求めるこの人間達に、クーデターの意思はない。ただ、レジスタンスに入っている方が何かしらの利益があると思っているだけなのだろう。
俺達に守れと言い募る声が次第に大きくなってきたところで、パンパンっとノルじいが大きく手を叩く。
「今はまだ、外に騎士が居るのだ。騒げば見つかるぞ?」
そう告げれば、騒ぎは一気に鎮静化する。
「三人とも、詳しい話は、やはり別室で行おうと思うが、良いかの?」
「あぁ」
「えぇ」
「同意」
そうして、俺達は元居た部屋へと逆戻りするのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
レジスタンス内部の憂いを上手く書けているだろうかと思いながら、頑張って執筆!
どんな組織も一枚岩ではないということですね。
そして、次もまた、バルディス視点でお送りする予定です。
それでは、また!
「それで? 俺達は何のために呼ばれたんだ?」
一番話が通じそうな赤髪の青年に問いかけると、そいつは眉間のしわをさらに深くし、重いため息を吐く。
「交渉のためだ。俺達には戦力がない」
「つまりは、俺達にミルテナ帝国の騎士達と戦う戦力になれと? レジスタンスの仲間入りをしろってことか?」
はっきりと『レジスタンス』という単語を入れて問いかけてみれば、赤髪の青年は頭を抱えて男の子の方を見る。
「おい、色々バレてんぞ」
「知らん」
「どうすりゃ良いんだよ」
「仲間に引き入れられればそれですむ話だ」
男の子に無下にあしらわれた赤髪の青年は、がっくりとうなだれて俺達の方へと向き直る。
「あー、確かに、俺達はレジスタンスだ。それで、仲間になってほしいんだが……えー、もし、仲間にならない場合は……そうだっ、口封じをさせてもらう、で良いんだよな?」
明らかに交渉事に慣れていないであろう赤髪の青年の言葉に、さすがに男の子も呆れているようだったが、口には出さない。代わりに口を出してきたのは、この部屋に通されてから側に来ていた『ノルじい』と呼ばれていた老人だった。
「そこは、『口封じをさせてもらう』とはっきり断言するところだわいっ」
「おぉ、わりぃなノルじい。俺はこういうの、苦手だ」
「堂々と言うな馬鹿者っ」
ノルじいとやらの言葉に内心、全面的に同意しながらも俺は、チラリと確認の意味を込めてラーミアとディアムに視線を送る。そして、うなずくのを確認した後、俺は未だに言い合う赤髪の青年とノルじいを視界に映す。
「レジスタンス、入るのは構わないぞ」
「「えっ?」」
「あんた、本気で言ってんの?」
自身の事情を勘案した結果、出した結論だというのに、赤髪の青年とノルじいは固まり、男の子に至ってはうろんげな視線を寄越してくる。周りに居る他の人間達も、心なしかザワザワとしていた。
「もちろん、本気です。それに、そもそもそちらが提案したことですよね?」
「いや、そりゃあそうなんだけどよ」
「利害、一致。協力、必須」
「利害? あんたらは何をしようとしておる?」
ディアムの言葉に引っ掛かりを覚えたらしきノルじい。しかし、今はまだ、それを教えるべきではないだろう。
「時が来れば話すさ。俺達はまだ、あんた達を信用してるわけでもないしな」
「ふんっ、それは僕達の方も同じだ。お前達は信用ならない」
鼻を鳴らして見下すような発言をする男の子に、何だか生意気で可愛いと思いながらも、俺は一つだけ、この場で開示できそうな情報を開示する。
「あぁ、それと、俺達の仲間がお前達の仲間を五人ほど救出しているぞ」
救出した五人は怪我人であることと、移動が難しいことを説明すると、赤髪の青年はすぐに迎えに行こうとする。
「待て。今はまだ危険だ。動くなら夜が良かろう」
「けど、そいつら、怪我してんだろ? 早く行ってやらねぇとヤバイんじゃないのか?」
そんなことを話している間に、タロから連絡が来る。
《にゃあ(無事、治療を終えて眠らせたのだ)》
《そうか、良くやってくれた。後で、何か美味しいものを調達してきてやる》
《にゃっ(楽しみにしてるのだっ)》
《当面は、そこで待機していてくれ。多分、夜、迎えに行く》
《にゃあ(分かったのだ)》
弾んだ声で応じるタロに苦笑しながらも、俺は、この事実を目の前の者達に伝える。
「怪我人の治療はしているようだから、心配はいらない。そこのご老人が言う通り、夜にした方が良いだろうな」
そう言えば、赤髪の青年は素直に引き下がった。こういうところは、好感が持てそうだ。
「な、なぁ、あんたら、強いんだろ? なら、俺達を守ってくれるんだよな?」
そうして、話に一段落ついたところで、他に居た、周りの人間が声をかけてきた。しかし、どうにもおかしな内容だ。
「守る? そんなわけないだろ? 俺達がやるのは、クーデターを成功させるために戦うことだ」
「それなら当然、レジスタンスに入ってる私達を守ってくれるものでしょ?」
「そうだそうだ」
俺達は、あくまでも魔族に対する冤罪を晴らすため、クーデターを成功させようとしているに過ぎない。そして、クーデターを起こそうとしている人間達も、クーデターをメインに考えているはずだった。にもかかわらず、なぜか『レジスタンスの人間を守るのが当たり前』という姿勢を示され、不可解に思って赤髪の青年達、三人を見る。すると、彼らは、それぞれ険しい顔をしていた。
なるほど、だから、『余計なこと』と言ったのか。
彼らの表情に、俺は全てを悟る。恐らくは、俺達に守りを求めるこの人間達に、クーデターの意思はない。ただ、レジスタンスに入っている方が何かしらの利益があると思っているだけなのだろう。
俺達に守れと言い募る声が次第に大きくなってきたところで、パンパンっとノルじいが大きく手を叩く。
「今はまだ、外に騎士が居るのだ。騒げば見つかるぞ?」
そう告げれば、騒ぎは一気に鎮静化する。
「三人とも、詳しい話は、やはり別室で行おうと思うが、良いかの?」
「あぁ」
「えぇ」
「同意」
そうして、俺達は元居た部屋へと逆戻りするのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
レジスタンス内部の憂いを上手く書けているだろうかと思いながら、頑張って執筆!
どんな組織も一枚岩ではないということですね。
そして、次もまた、バルディス視点でお送りする予定です。
それでは、また!
10
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる