我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第二章 反撃のサナフ教国

第百五十一話 ままならないもの

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「クソッ! なぜ、上は分からないんだっ」


 壁を殴り付ける僕は、ままならない事態に苛立ちを隠せないでいた。


「なぜっ、こんな時に帰還命令なんだっ」


 苛立ちの原因は、レジスタンスのアジト壊滅の報告の後にもたらされたミルテナ帝国からの命令。曰く、『レジスタンスのアジト壊滅に伴い、レイグ・アルディー大隊長率いる大隊は、二個中退を残しミルテナ帝国騎士団本部へ帰還する旨を申し渡す』とのこと。レイグ・アルディー大隊長というのは僕のことで、ミルテナ帝国に忠誠を誓う者として、命令に背くことはできない。しかし、しかしだ。


「なぜっ、今なんだっ」


 レジスタンスのアジトを壊滅させたことは報告した。しかし、奴らが新たなアジトを作ってしまったことも報告はしているのだ。叩くなら今。まだ浮き足立っている今をおいて、他にない。それなのに、帰還命令ときたものだ。
 せめて、一番の脅威であろうあの猫を仕留めようと、急いで少数精鋭の部隊を送り込んだが、それは誰一人として帰ってこない。作戦は失敗したとみて間違いなかった。


「それでも、今以外に打撃を与えられる機会なんてないのにっ」


 時間が経てば経つほど、レジスタンスの防衛は強固なものとなるだろう。旗頭である子供を生け捕りにしろという命令が下っている以上、それを殺すことはできないものの、今動ければレジスタンスの幹部を皆殺しにするくらいはできるかもしれない。しかし、その時間は、与えられていなかった。


「それに、あのタイミングでの脱走者も気になる」


 五日前、セイクリア教国へ向かう脱走者が出た。それを、あろうことか警備にあたっていた中隊が取り逃がしたのだ。レジスタンスで話し合われていた作戦では、セイクリア教国へ助力を求めに行く者達は四日前に発つ予定だとされていたが、その四日前には特に脱走者はいなかった。それを考えると、五日前のそれがレジスタンスのメンバーだった可能性が高い。


「馬を奪われたことを考えて……一週間、くらいか?」


 もしも、そいつらがレジスタンスのメンバーだったとして、普通に駆ければ一週間ほどでセイクリア教国に着いてしまうだろう。それから謁見を申し込み、すぐに聖騎士の部隊を送り込むとすれば、早くても二週間。現在、五日経っていることを考えると、あと九日しか猶予がない。それなのに、今、大隊を帰還させ、部隊を入れ換えるなど、危険極まりない。


「本当に、上は何を考えているんだっ」


 もしや、新たなアジトを作ったという報告を読んでいないのだろうか? 脱走者のことも報告はしたが、それに関する返答はない。もしかすると、上は事態を軽く見ているのではないだろうか?


「し、失礼しますっ」

「何?」


 報告で入ってきたのであろう中隊長を見て、僕は低い声で問いただす。


「はっ! 先程、宙に何かが飛んでいたとの報告がありまして……」

「それが、何?」


 そんなことで、いちいち報告するなと言いたいのをグッと堪え、僕は怯える中隊長に問う。


「そ、それが、動物のようだったと……」

「……動物? まさか、あのレジスタンスの?」


 そうだとするなら、これは最後のチャンスかもしれない。


「い、いえ、遠目で白と黒の動物というような報告は上がっておりますが、断定はできないかと」


 あの時出会った猫は、白猫だった。黒の紳士服を着た、白猫だった。つまりは……。


「急いで捜せっ! そして、見つけ次第報告しろっ!」

「はっ!」


 これで何もできなければ、僕は、今日、このまま帰還することになる。残った中隊の指揮権は、新たにこちらへ来るという人間に移譲される。どういう目的で僕を帰還させ、新たに人間を寄越すのかまでは分からないが、その人間がすぐに使い物になるとも思えない。


「あぁ、それと、例の場所からも増援を出せ。何としても、見つけるんだ。良いな?」

「はっ!」


 例の場所とは、なぜか守るように命令されている詰め所の奥にある建物だ。中に何があるのかは知らないし、詮索するのはやぶ蛇だろうとは分かっているものの、どうやら何かの生き物を連れてきては、そこに閉じ込めるなりなんなりしているらしいということだけは分かっている。もしかしたら、何かの動物実験でも行っているのかもしれなかった。
 しかし、そんな場所を守護するよりも、今はあの猫の方が重要だ。何としても、見つけなければならない。

 僕は、まさかその猫が例の場所を調べているとは思わずに、指示を出し、動く。レジスタンスのアジトの詳しい位置が分からない以上、できることはそれだけだった。結果として、僕は猫を見つけることもできずに帰還することになるのだが……僕は、またいずれ、あの猫と再会するような気がしてならなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回は敵視点……やっと、大隊長の名前が出てきました。

あの黒の甲冑の騎士のことです!

そして、今回の『サナフ教国の反撃』におけるレイグの活躍(?)はここでおしまいです。

また、別の場面での活躍の場を用意する予定です。

それでは、また!
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