我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第二章 反撃のサナフ教国

第百五十四話 クーデター当日(一)

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 すっかり日が落ちた闇の中。ミルテナ帝国の騎士達の詰め所には、いくつかの松明のみが明かりを生み出している。
 静寂に包まれて、今夜もまた、平和に時が流れることを、騎士達は誰も疑っていなかった。

 ……ソレが現れるまでは。


「グォオォォォォオンッ!!!」


 地を揺るがす咆哮がビリビリと上がり、騎士達は揃って飛び上がる。


「今のはっ?」

「なんだなんだっ!?」


 眠っていた騎士達は大急ぎで装備を整えて自身の隊の元へと向かう。起きていた騎士達は、事態を理解できていない者達は事態の把握のため、声の方向へと向かい、目の前で理解するはめになった者は、腰を抜かした。




 そこには、全長五十メートルを超える、あまりにも巨大すぎる竜が現れていた。それも、何の前触れもなく、唐突に。
 暗黒色の厳つい顔立ちの竜が、真っ赤な瞳を光らせ、四つの太い足で、確かに地面を踏みしめていた。


「ひ、ひぃっ」

「……夢、か?」


 普通の竜は、大きくても精々二十から三十メートルだ。それなのに、目の前の竜は五十メートルを超えているという事態。夢や幻の類いだと疑いたくもなる。訓練を積んだはずの騎士達は、ある者はへたりこみ、ある者は現実を否定する。しかし……。


「ギュオォォォォオッ!!」


 その咆哮はどう考えても本物でしかあり得ない。咆哮を聞いているだけで、耳の鼓膜は破れ、全ての音が消えてしまう。


「は、ははっ……あり得ねぇ」


 いつ襲来したかも分からない竜を前に、ミルテナ帝国の騎士達は、大混乱に陥った。そして、その混乱に乗じて動く部隊が二つ。


「今だっ! かかれーっ!!」

「お、おぉぉぉおっ!!」


 一つの部隊は、ジルクの掛け声に応じて、混乱に陥ったミルテナ帝国の騎士達へと奇襲をかける。


「挟み撃ちにするぞっ! 進めーっ!!」


 まともに戦闘準備すらできないミルテナ帝国の騎士達は、竜から逃げようとする者から順にレジスタンス達に刈られる。そして、そこからさらにあぶれた者達は、また別の部隊。鉄の甲冑に、赤い紋章を肩に持つ一団、聖騎士の部隊に刈り取られていく。

 そして、そんな惨劇の最中、その様子を、竜はじっと見つめる。時には、自棄になったミルテナ帝国の騎士から魔法攻撃を受けることもあったが、全身を覆う結界がそれを阻み、傷つけることすらできないままレジスタンスや聖騎士達にその首を差し出していく。

 これにより、元サナフ教国で起こったクーデターは、レジスタンス、および、聖騎士の間に一人の死者ももたらすことなく成功する。後に、『暗黒竜のクーデター』と呼ばれるこの事件。その直後、ミルテナ帝国の騎士達を混乱に陥れた竜は、現れた時と同様に突如として姿を消したとされる。暗黒竜の正体や向かった先には諸説あるものの、それ以降、彼の者がこの国に姿を現すことはなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回は第三者視点でお送りしております。

次回以降で、この時、何が起こっていたのかを書いていく予定ですが……今年の更新は、これで最後になります。

明日以降はちょっと忙しいので、次の更新は一月三日となりますので、それまでお待ちください。

それでは、良いお年を!
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