我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第百六十一話 ナージャ様の旅(四)

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 晴天の空の下、アルトルム王国では今日もまた、男の悲鳴が上がっていた。


ビシッ。


「あぁんっ、もっとぉっ」


 ……失敬。悲鳴きょうせいが上がっていた。

 原因はファルシス魔国から来た絶世の美女、ナージャだった。あの後、着実に下僕ドMを増やしたナージャは、その人間達を使い、バルディス達を捜していたのだ。


「おーほほほほほっ。全く、使えない豚ですわねっ」


 ビシッ。


「あふんっ」


 鞭を振るうナージャの姿は、町娘のような服装ながらとても様になっていて、逆らう者は誰一人としていない。むしろ、鞭を振るわれている男を羨ましそうに見つめる視線ばかりだ。


「さて、そろそろリリアンヌと合流しませんとね」


 使えない男を軽く無視して、ナージャは呟く。執務のために度々ファルシス魔国へ帰っていたナージャだったが、リリアンヌとはアルトルム王国に来て以来、別れたままだったため、久方ぶりの再会となる。


「良いこと? 使えないあなた達は、普段の生活に戻りなさい。もちろん、悪事を働くのは禁止ですわよ」

「「「はいっ、ナージャ様っ」」」


 この台詞によって、アルトルム王国の治安は他の国ではあり得ないほどに改善されるのだが、それをナージャが知ることはない。今は待ち合わせの場所へと向かうことばかりが頭の中を占めていて、そんな些事に注意を払うことなどない。
 そうして、下僕達を残して、ナージャはリリアンヌと合流すべく歩き出すのだった。









「なーにしてるんですかっ、ナージャ様っ!」


 路地裏の一画にて、緑の角を持つ少女、リリアンヌは防音結界を展開しながら荒ぶっていた。


「私、申しましたよね? 『くれぐれも問題を起こさぬように』って」

「あら、問題など起こしていませんわ。私がやったことといえば、豚の調教だけですもの」

「その豚は、人間の男どものことでしょうっ! それにっ、なぜ、ナージャ様は幻術を使っていないのですかっ」

「幻術は使っていますわ。ほら、角は見えないでしょう?」

「角だけじゃないですかっ! ただでさえナージャ様は目立つのですっ。全体的に隠してくださいっ」


 勢い良く反論を続けるリリアンヌは、ゼーゼーと肩で息をする。


「どうしたのかしら? 疲れたのかしら?」

「誰のせいですかっ」


 しかし、ナージャに反省の色は全く見られない。飄々としてリリアンヌの言葉を聞き流してしまう。


「ですが、これで分かったことがありますわ」

「……何ですか?」


 胡乱げにナージャを見るリリアンヌ。


「バル様はこの国にいらっしゃらないということよっ。おーほほほっ」

「……確かに、確かに、バルディス様はこの国を発った後のようです。それらしき人物が、約一月前にルーグ砂漠へ向かったことが確認できました」


 リリアンヌは隠密部隊の一員だ。国民のほとんどが病に倒れていたという状態だったため、調査は難航したものの、しっかりとバルディスの行き先を調べていた。


「ルーグ砂漠というと、その先はサナフ教国ですわね」

「はい。ただ、サナフ教国の情報が少なすぎます。準備もなしに向かうのは危険かと」

「あら? いざとなれば『転移』でいくらでも逃げられますわ。準備など不要! すぐに行きますわよっ。おーほほほっ」

「って、『転移』魔法!? 待ってくださいっ! せめて、そのお姿だけでも隠してくださいーっ」


 そうして、稀代の女王様とされるナージャは、『転移』魔法の光に包まれて、アルトルム王国を後にするのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さぁっ、『セイクリア教国の歪み』が始まりましたっ。

プロットは……まだ全部はできていませんが、進めながら完成させられるだけ完成させようと思います。(また行き詰まったら更新を休むかもしれませんが)

サナフ教国に引き続き、今回も『ナージャ様の旅』です。

わりとお気に入りのキャラクターであるナージャ様。

もうちょっと続きますので、楽しく読んでいただけたら嬉しいです。

それでは、また!
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