我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第二百三話 マギウス・オルビリオ

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 ディアムの説教が、だんだんとラーミアの恐怖伝説の語りになってきたところで、我輩、ようやく会話に割り込む。


「にゃー(そろそろ止めるのだ)」

「む、タロ?」

「おぉっ、そうだよなっ。もう説教は止めても良い頃合いだよなっ」


 じっと正座で堪え忍んでいたバルディスは、我輩の一声に大袈裟なくらい喜びをあらわにして賛同する。


「にゃあ(情報確認が先なのだ)」

「あぁっ。そうだな。情報確認、大事だよなっ」


 一応、我輩とディアムはラーミアの無事を確認しているものの、バルディスはまだだ。少しばかりバルディスの喜びようが鬱陶しく感じるものの、そこはきっちりしなくてはならないだろう。


「……分かった。情報確認、する」


 ディアムがそう言えば、バルディスの顔はパァッと明るくなる。しかし……。


「ただし、バル。正座、そのまま」

「…………はい」


 正座を解くのは許してもらえなかったらしい。正座というのは、精神を鍛えるもの、もしくは拷問の一種だと聞くので、どのくらい辛いものなのかは分からないものの、バルディスには頑張ってもらいたい。

 プルプルと震えるバルディスを横目に、最初に話したのは我輩だった。まずは、ラーミアと教皇庁で出会い、蹴り飛ばされたことを話した後、ミケからもらった情報を伝える。


「にゃあにゃ。にゃーにゃあ(我輩、ラーミアの残り香をまとった者が教皇の近くに居ると聞いたのだ。もしかしたら、ラーミアはその者に操られているかもしれないのだ)」


 入らずの祠に人間達が入って帰ってこないという情報に関しては、さすがにラーミアの件には関係なさそうなので、今は話さない。この件は、余裕ができれば話して協力を求めたいところなのだ。

 我輩が話し終えると、バルディスはディアムに通訳をしながら難しい顔をする。何を考えているかは分からないものの、きっとこの情報は良くないものなのだろう。
 そうして通訳が終わると、ディアムがこれで我輩が持っている情報は終わりかと聞いてくる。


「にゃ(終わりなのだ)」

「終わりだそうだ」


 すると、今度はディアムが聖騎士長を尾行した後のことを語り始める。


「マギウス? まさか、マギウス・オルビリオか?」


 ディアムが話している途中に、バルディスは驚愕の声を上げる。


「にゃ? (マギウス・オルビリオ?)」


 何を驚いているのか分からずに、我輩、とりあえずバルディスへと問いかける。


「……マギウス・オルビリオ。前四天王の一人で、操術士。前魔王が居なくなった時に同時に行方知れずとなり、死んだとされていた魔族だ」


 『四天王』という言葉は分かる。ラーミアが今はその四天王の一人だからだ。しかし、『そうじゅつし』というのが分からない。


「にゃあ? (『そうじゅつし』?)」

「生き物を操る術を使う者のことだ」


 つまりは、ラーミアはそのマギウスとやらに操られている可能性が高く、下手な行動ができないとのことだった。もし、魔族がこの国で暗躍していることが知られれば、セイクリア教国は容赦なくファルシス魔国に牙を剥くだろう。


「何で、そんな大物が、この国に居るんだ」

「目的、不明。聖騎士長に気づかれる可能性、あり。撤退した」

「マギウス・オルビリオといえば、操術によって敵軍を混乱に陥れる天才だったな」

「内側から、崩壊、専売特許」

「このセイクリア教国に喧嘩を売ろうとしてるのか?」

「可能性、あり」


 しかし、それではなぜ、ラーミアを操る必要があるのか分からないと、バルディス達は頭を悩ませる。


「にゃー? (直接聞きにいくことはできないのだろうか?)」

「……聖騎士長が居ない時を狙えば、あるいは。だが、マギウスが味方だとは限らないぞ?」


 同じ魔族ならば、話し合いという選択もあり得るのではないかと提案したものの、バルディスの反応はいまいちだ。


「まず、目的調査、優先。それ次第で、話し合い、できる」

「にゃ……(そういうものか……)」


 何にせよ、今後の方針は決まった。ラーミアを元に戻すためにも、早く調査を進めなければならないだろう。


「ディアムの情報はそれで終わりか?」

「是」

「そうか、なら、俺からの情報だ。どうやら、聖騎士長からのギルドへの依頼に、不備が多いらしい。関係あるかどうかは分からないが、聖騎士長が関わっている以上、頭に入れておいた方が良いと思ってな」


 思いがけずもたらされたバルディスからの情報。それが、どれだけ重要かはまだ分からないものの、大切な情報の一つであることは確かだ。


 うむ、これは、バルディスを労うべきなのだ。


 我輩、バルディスの労に報いるべく、その膝にピョンっと飛び乗る。


「〇$★¥Δ●£っ!!!」


 正座で限界を迎えていたバルディスが、悲痛な悲鳴を上げたのは、その直後だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


タロが無意識にバルディスにとどめを刺しました。

猫には正座がないから、その辛さは分からないですよね。

ちょんちょんつつかれるだけでも大変なのに、タロの重量がいきなり乗ってきたら……ちょっとした拷問になりそうです。

それでは、また!
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