我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第二百十話 進軍の報せ

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 何一つ進展がみられない現状で、その日の昼、凶報が届く。


「ミルテナ帝国が進軍を開始したとの報がただいま入りました!」


 直立不動で報告する一人の聖騎士。それを伝え聞いたオルグは、ギリッと歯を食い縛り、あらかじめ決めていた命を下す。


「新サナフ教国から聖騎士団を撤退させる。今は、国防が最重要事項だ。異論は認めない」

「っ、ははっ」


 もし、これで新サナフ教国が魔物に襲われ、滅びの道を辿ったとするなら、その責任は全て自分にある。それを明確に示しながら、オルグはままならない現状と向かい合う。


「あと、マルスをここへ呼べ」

「はっ、失礼いたしますっ」


 本来なら、オルグはここまでのことを命令できる立場にない。しかし、教皇が倒れ、ディルクが不穏な動きを見せる中、オルグが動かなければセイクリア教国が滅びてしまう。


「くそっ」


 誰も居なくなった部屋で悪態を吐きつつも、オルグは次の手を模索する。
 現在、ミルテナ帝国からの宣戦布告はまだもたらされていない。進軍を開始したとはいえ、それはまだ国境を超えてはいない。ミルテナ帝国にどこまでの情報が漏れているか分からないが、少なくとも教皇が倒れたことくらいは耳に入っていてもおかしくはない。


「おそらく、最初は様子見だろうな」


 聖騎士団の内情までは漏れていないと思いたいが、そうであろうとなかろうと、敵はまず、教皇不在の裏を取ろうとするだろう。そのために、国境沿いで駐留するくらいのことはしてのけるに決まっていた。それだけ、教皇の存在は大きい。


「マルス・ヴェリー、お呼びと聞き、ただ今参上いたしました」


 そう言って入室してきたマルスに、オルグは自身の考えを打ち明ける。


「確かに、その可能性は高いでしょう。そして、新サナフ教国でかつて駐留していたレイグ・アルディー大隊長がミルテナ帝国に帰国していることも気になります。もしかしたら、彼の者が今回出陣するやもしれません」


 レイグ・アルディー大隊長。それは、『暗黒の死神』として敵味方問わず恐れられている人間だ。その力は聖騎士長、グラハム・ヴェリーにも匹敵すると言われ、聖騎士長を欠いた今、敵対するのは避けたい相手でもある。


「今は少しでも時間がほしい。聖騎士団の問題と、父の容態を回復させるだけの時間が」

「時間稼ぎは、いくらかはできましょう。ですが、それにも限界があります。早急な行動が肝要です」

「あぁ、分かっている。分かってはいるさ」


 分かってはいても、長い間解決できなかったことがすぐに解決できるとは思えない。


「……部隊を編成し、あの不審者を殺害しましょう」


 そう告げるマルスに、オルグは苦々しい顔で否定する。


「ダメだ。それでもし、全員がおかしくなってしまったら……この国を守る要を失うことになる」

「しかし、このままではじり貧です。一か八か、試すよりほかないかと」


 マルスの言葉に、空気が張り詰める。確かに、マルスの言葉には一理あるのだ。ただ、オルグはセイクリア教国を失うかもしれないという大きな決断を前に、尻込みしていた。自身が決断しなければならないと知りながら、逃げ出したい気持ちで一杯になっていた。


「オルグ様。どうか、ご決断を。私に、兄を止める資格をお与えください」


 悲痛に叫ぶマルス。マルスの言う兄とは、グラハム・ヴェリー。今、問題となっている聖騎士長本人であった。
 オルグは、ギリリッと、手に爪を食い込ませるほどに握り込むと、不安と恐怖を必死に呑み込み、震える唇で言葉を紡ぐ。


「……分かった。許可、しよう」

「っ、ありがとうございますっ」


 編成は今日中にすませ、新サナフ教国から聖騎士団が帰ってきた直後に作戦を敢行することとなった。
 新サナフ教国に向かった聖騎士団達には、高価でほとんど流通していない通信用の魔法具を持たせているため、撤退の報せ自体はすぐに出せる。後は、その面々が戻ってくるまでの約一週間を、ミルテナ帝国の動向を気にしながら待てば良い。
 作戦の要所を極秘に詰めていき、まとまった頃には、夜に差し掛かっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


もうちょっと、もうちょっとだけ、タロは不在です。

「にゃっ(我輩の活躍を期待するのだっ)」

多分、明日は無理でも、明後日からタロが活躍してくれますので、もうしばらくお待ちください。

「にゃっ(楽しみなのだっ)」

それでは、また!
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