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ウィリアムとの生活
しおりを挟む婚約破棄されて、領地から追い出されることになった私は、隣のセントリー領へ向かう乗り合い馬車を待つベンチで深くため息をつきました。
婚約破棄されて、領地から追い出されることになった私は、隣のセントリー領へ向かう乗り合い馬車を待つベンチで深くため息をつきました。
私がこの地を去るときの、私を陥れたアーサー様とローズの満足そうな顔を思い出していたのです。
いつの間にここまで嫌われていたんだろう…。
その時、執事のウィリアムが「セシリア様、お待ちください」と言って私を追いかけてきたのが見えました。
普段は整った執事服姿だが、今日はラフなズボンとシャツ姿です。
「私も退職してきました。セシリア様と一緒にいさせてもらえませんか。きっと自分は役に立ちます。」
私は驚いてウィリアムに目を向けました。
彼はアーサー様の横領を暴くため一緒に戦った相棒です。
心底信頼できる彼が一緒に来てくれれば、どんなに心強いかわかりません。
でも、真面目なウィリアムのことです。この事態に責任を感じてそう言っているのかもしれません。
彼のように有能な執事ならば、マクマレー家での仕事を辞めても引く手数多なはず。
私はウィリアムの負担にならないに「プロポーズのようね」と、軽口を叩きました。
するとウィリアムは、赤くなりながら「そう思ってくれてかまいません。」とうなずいたのです。
「横領を暴くために共に戦った時間は厳しくも充実していました。だんだんとセシリア様の優しさや強さに心惹かれていきました。はじめは戦友のように思っていましたが、今はあなたを守りたいと思っています。共に人生を歩んでもらえないでしょうか」
私もつられて頬に熱が集まっていくのがわかりました。
「馬車の待合所で言う言葉じゃないわ。でも、嬉しい」
ウィリアムと一緒なら、きっと大丈夫。私たちは、セントレー領へ向かう馬車に乗り込みました。
***********
その後は間をおかず私たちは結婚し、彼と共に平民として暮らすことになりました。私の安全も考えてのことです。
私は、王都の学院を首席で卒業した経歴を活かし、下級貴族の家庭教師として働くことになりました。
ウィリアムも同様に貴族家の使用人としてのお仕事を見つけていました。
雇われたばかりのウィリアムはまだ下働きのような扱いで、元は執事として大きな仕事を任されていた彼の能力が発揮できていないことに、私は申し訳なさを感じていたのです。
「元は貴族家の執事だったのだから、下働きなんて退屈でしょう?」
ウィリアムは笑って答えました。
「セシリア様と暮らせるのだから何の問題もありませんよ。」
庶民としての暮らしは新鮮で、私自身が日々成長しているのを実感でき、充実していました。
最初、子爵令嬢として育った私は、家事はまったくと言っていいほどできませんでした。
しかし、ウィリアムは何でもできる多才な人物で、彼が根気強く教えてくれたことで少しずつ家事を覚えていきました。
「セシリア様、こう切るのですよ。そうすれば早くできるし、美味しく仕上がりますから。」
私は緊張しながらも、彼の指示に従いながら包丁を握ってみました。
最初はぎこちなかったのですが、手慣れてくると楽しいもので、自分でも驚くほど美味しく料理が仕上がりました。
「すごいです、セシリア様。もう少しで、私よりも上手くなりますね。」
ウィリアムの言葉はお世辞に違いありませんが、私は嬉しくなりました。
「ウィリアム、ありがとう。あなたがいなかったら、こんなに家事を上手にできるようにならなかったわ。」
「そのようなことはありませんよ。あなたはもともと、真面目で誠実な心の持ち主です。私が教えたのは、技術的なことにすぎません。あとは、あなた自身の努力の成果ですよ。」
そう言うと、ウィリアムは私をぎゅっと抱きしめました。
ウィリアムはまだ私への敬語が抜けきれないようでしたが、スキンシップは大胆なのです。
今までの生活にはなかった幸福感が、私を包み込んでいました。
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