合法異常者【R-18G】

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 犬の射精が長過ぎた。
 いつまで経っても終わらないものだから痺れを切らして引き剥がそうとするも、根本からがっちり嵌り込んでいて全く抜けないうちに子どもは生き返った。
 その間に男はすっかり落ち着いてしまったのである。もう少し長く死んでいてくれれば良かったものを。

 男は幼少の時分から死体に性的興奮を覚える人種ネクロフィリアであった。
 物心つく前に両親が死に、幼い男を引き取った女性も男が10になった頃に台所で冷たくなって倒れていた。
 動かなくなった女性に触れた時、無機質でゴムのような感触が人間のそれと思えず、人なのに人でない不思議なものに興味を惹かれ頬を上気させながらあちこち触っている間に男は人生で初の射精を果たしたのだ。
 時が経ち青年になっても生きた女性には元気になってくれない愚息は、まだしも動物の死骸の方が反応するといった体たらくだ。
 今、男にとって理想の性処理具が手に入ったという事象がどれだけ僥倖なことかおわかりいただけたであろうか。



「…………はあ、酷い目に遭った」

 獣の肉を運ぶのに使っていた空の麻袋にナイフを入れていると、まだ息を乱している子どもがむくりと起き上がった。
 何やら呑気なことを抜かしている。酷い目程度で済む事態ではなかったが、所詮彼は死体だったものだ。人間の常識の上から外れた思考回路を有しているのだろう。
 男にとってもそちらの方が都合がいい。

「約束は守れよ、おまえは今から俺の所有物だ」
「ああ、わかっているよ」

 子どもはこちらを見もせずに腹を押し、中に残った犬の子種を追い出している。血の気を失ったままの鼠径部をとぽとぽと勢いなく溢れた精液が伝い落ちる様子は悪くない。生き返ったら肌の色も健康になっていくのだろうか? 出来れば今のままでいて欲しいが。

 あらかた出し終わった子どもに、底と側面に穴を開けた麻袋を被せる。
 頭と両腕を出した姿は不格好ながらも一応ワンピースに見えなくもないであろう。さすがに人間の形をしたものを裸で歩かせる訳にはいかない。
 はたと男は気付き、不思議そうに麻袋を引っ張っている子どもを見下ろす。聞いていないことがあった。

「そういやおまえ、名は?」

 子どもは実に子供らしい仕草できょとんと首を傾げると、右手を顎の下、左手を腰に添えて考え込み始めた。

「んん、困ったな。元の名をそのまま使ってはいけないだろうね」

 発音は舌足らずな癖に、大人のようなこまっしゃくれた言い回しに苦笑する。この歳の頃だと背伸びをしたいのかもしれない。人間の振りをするのが上手いな、と鼻白んだ。
 ふむ、と頷いた子どもは、こちらを真っ直ぐ見上げて穏やかな笑顔を見せた。

「そうだな、ぼくのことはラヴェリントとでも呼んでおくれ」
「長い、呼びづらい」
「ではラヴィと。きみの名は何と言うんだ?」
「俺に名は無い」

 男の返答に、子どもが驚いた顔をする。
 男の両親はさっさと死んでしまったし、育ての親も何の意図があったのか男を「坊や」としか呼ばなかった。
 成長してからも森の中で独り隠居生活をしている男に名など必要なかったのだ。
 しかし今からは死体とはいえ意思の疎通ができる物を家に置くなら、名が無いと不便かもしれないな、と男は考えた。

「おまえが適当に付けてくれ」
「ぼくが付けてもいいのか?」
「何だって構わねえよ、呼べねえとおまえが不便だろ」

 それなら、と思案し始める子どもの手を取り地上を目指す。そろそろ帰路につかなければ。森に戻る頃に夜になってしまうと危ないのだ。

「決めた。きみのことはプロジモと呼ぼう」
「初めて聞く音だ、意味はあるのか?」
「確か、隣人、だったかな」
「へえ、どこの言葉なんだ?」

 特に興味もない疑問をぶつける男に、子ども──ラヴィは全く感情の読めない笑みを寄越してくる。

「さあ、忘れてしまったよ」

 緩やかに細められた目に、どこか歪な底知れなさを感じた。




 街を出て森に差し掛かると、ラヴィは興味深そうにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

「東の森は凶暴な肉食獣が多く住み着いて誰も寄り付かないと聞いたが、ここを抜けるのか?」

 繋いだ手に力を込めて、そう問うてくる。
 怖いのかもしれない。かといってそれがプロジモの歩を止める理由にはなり得ないが。

「森ん中に家があンだよ。ビビってんのか?」
「ここに住んでいるのか!? 先程からきみはその……」
「俺が何だよ」
「いや、少し特殊な子だと思ってね」

 自己紹介か?
 プロジモは怪訝な目を隠せなかった。おまえよりは余程一般人だと言い返したい気持ちをぐっと堪える。
 何故か子供扱いを受けたが、相手こそ子供なのである。怒るだけ損だ。

「森に入るのが嫌か? 悪いがおまえの都合なんか知ったこっちゃねえんだよ」
「ああ、構わないよ。恩を仇で返す程薄情ではないつもりさ。きみは狩人なのかい?」
「そんなもんだ」

 おもむろに猟銃を構える。視線はラヴィに固定したまま、あさっての方角に銃口を向け、引き金を引く。
 タァン、と耳を劈く音が上がったあと、遠方で何かがドサリと落ちた。

「良い肉が落ちてるといいが」
「……へえ、見事なものだね」

 あっさりとした物言いに少々プライドを刺激されムッときたが、ラヴィの顔があまりにも期待と尊敬に満ちたものだったので溜飲を下げた。
 瞳がキラキラと輝いている。先程までの濁ったそれと違い活力に満ちていた。
 プロジモは勿論濁っていた方が性癖的に好ましいのは自明の理として、彼がもし普通の生きた人間だったならその素直な表情を可愛らしいと評したかもしれない、と思った。





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