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三章 異世界からの脱出を目指すにあたり、男になります
3.魔女の弟子は傲岸不遜のようです
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なんだかんだこの世界に馴染みつつはあるが、私の目的はブレてなどいない。
なんとかして現世に――拓斗のもとへ戻ること。
それが可能か否かで、私の心持ちはまったく変わってしまうのだ。
私を現世に返せるのか。返答は。
(知るか!)
……なに?
(主だって転移を組むのは、アレクシスだ。我輩にできるのはせいぜいその補助のみ。仔細を知るわけないだろう!)
すごく怒られたし、すごく肩透かしをくらったかんじだ。
結局、アレクシスに会うしか解決の糸口はないのね。
でもとにかく私がどうしてこの世界に来たのかがわかった。これは大きい。
理由はわからないけど、アレクシスが私を呼んだのだ。ならば話はシンプルだ。彼女に会おう。
もちろん今までもそれが目標ではあったが、裏づけが強くなったので、私は精神的にとても開放されていた。
「ねえ、私アレクシスに会いたい。会わせてよ!」
いてもたってもいられず、手のひらに載せているたまに叫ぶ。
(我輩だってそうしたい。今だってようやく小娘を見つけて、アレクシスのもとへ連れていこうとしたのだ)
とたん、ばつがわるそうにもごもごと小声になる。
そういえばククルージャの露店でたまが光って、気づいたらここにいたってことは、たまが私たちをここへ移転させたということだ。
アレクシスのところへ行こうとして、こんなツンドラみたいなところへ来たのか。
ということは。
「もしかして、ちょっとだけ、転移が苦手だったり……?」
プライドを傷つけないように控えめに言ったつもりだったのに、やはりというか、たまは爆発した。
(違う! 我輩に苦手なことなど、あるわけが! ときどき、ずれてしまうだけだ! 小娘を呼ぶときだってアレクシスは我輩には黙って見てろと言ったのだ。我輩は! よかれと思って手伝ったのに!)
何もするなと言われて、でも手伝っちゃったんだ。
なるほど。そういうわけで、私はククルージャ周辺の砂漠だったり、今この極寒の地にいるのだなあと、しみじみ思った。
たまは、転移音痴に違いない。
※
「それで、もう一度転移をすることは、難しいのね?」
念のため、というようにさらっと聞いて見る。幸い彼の逆鱗には触れなかった。
(そうだ。先ほども言ったように、我輩の魔力はからっぽに等しい)
どうやら魔力というのは、たまが言うには、たとえるなら髪の毛のようなものだという。
量が多い人は多いしないひとはない。また、伸びる速さが異様に速いものもいればとてもゆっくりの人もいるように。
たまの魔力の溜まり方はもちろん通常より圧倒的に速いらしいのだが、転移は燃費が悪いので大量の魔力を消費する。
アレクシスの元へ転移を計るには、私がククルージャに滞在したくらいの時間は必要とのことだった。
一面の雪景色のなか、私たちはしばらく沈黙した。
私は私でこの現実に適応する時間が必要だったし、たまはたまでこのあとどうすべきか考えを巡らせたかったのだろう。
ふと足元をみると、転移するときに抱えていた鶏肉やレタス、パンなどが雪に半分埋もれている。
みんな、心配しているだろうな。
とくに月花は護衛をしてくれていたのに、一瞬で私が消えてしまったのだ。すごく困惑するに違いない。
ユーリオットさんはきっと目を吊り上げて怒るのだろう。彼の怒った顔は、生命力に溢れていて美しい。だからユーリオットさんの怒り顔は、私はちっとも怖くない。
ナラ・ガルさんはどうかな。静かに悲しみに暮れてしまいそう。その勢いで、フリルのエプロンを完成させなければいいんだけど。
阿止里さんは――。わからない。彼のことは、この一緒に暮らしていた期間では深く知ることができないままだった。
会いたいな。
この世界に来たときに拓斗が恋しかったように。今、彼らに会いたいと思う。
この状況でしょんぼりするのは簡単だ。
でもおなかだってすくし、眠るところも必要だ。衣食住をおろそかにするわけにはいかない。私は生きて、拓斗に会うのだ。
こんなところで雪に埋もれて冷凍保存されるわけにはいかない。
よし、と腹に力を込める。しょうがない。起こったことは、しょうがないのだ。
「ねえ、どうすればアレクシスのところへ行けるかな」
たまが訝しがる気配がする。まさか行き方がわからないのかな。
(小娘、怒らぬのか)
怒る? たまに対して?
こちらを伺うように息をひそめる腕輪を見て、なるほどと得心した。
この腕輪、尊大で高慢だけど、常識は持ち合わせているようだ。彼の失敗のせいで、私がひどい目にあっているとちゃんとわかっているのだ。
確かに怒ってもいい状況かもしれない。
でもね、二十五を超えると、怒ることすら疲れるのよね。
「怒るというよりは、困っているかな。理由はどうあれ、私はここに来てしまった。そして私はどうしても、前の世界に帰りたい。たまの主人でもある、アレクシスが私を呼んだんでしょう? なら、いまは一緒に彼女のいるところを目指そうよ。そうしてくれると私はうれしい」
きっと、たまはアレクシスの役に立ちたかったのだ。だから手を出すなと言われても、つい出しゃばってしまったのだ。
それだけ考えるとかわいいやつではないか。
魔法そのものは偉大な魔女の弟子らしくけっこう使えるっぽいし。
暴走しやすい性格みたいだから、扱い方は要注意だけど。
なんだかその代でいちばん厄介な新卒の面倒をみている気分になってきた。
たまはしばらく黙った後で、ありえないというように聞いてきた。
(なあ小娘。その”たま”という貧弱な呼び名が、もしや我輩につけた呼称ではあるまいな?)
贅沢言うな。
なんとかして現世に――拓斗のもとへ戻ること。
それが可能か否かで、私の心持ちはまったく変わってしまうのだ。
私を現世に返せるのか。返答は。
(知るか!)
……なに?
(主だって転移を組むのは、アレクシスだ。我輩にできるのはせいぜいその補助のみ。仔細を知るわけないだろう!)
すごく怒られたし、すごく肩透かしをくらったかんじだ。
結局、アレクシスに会うしか解決の糸口はないのね。
でもとにかく私がどうしてこの世界に来たのかがわかった。これは大きい。
理由はわからないけど、アレクシスが私を呼んだのだ。ならば話はシンプルだ。彼女に会おう。
もちろん今までもそれが目標ではあったが、裏づけが強くなったので、私は精神的にとても開放されていた。
「ねえ、私アレクシスに会いたい。会わせてよ!」
いてもたってもいられず、手のひらに載せているたまに叫ぶ。
(我輩だってそうしたい。今だってようやく小娘を見つけて、アレクシスのもとへ連れていこうとしたのだ)
とたん、ばつがわるそうにもごもごと小声になる。
そういえばククルージャの露店でたまが光って、気づいたらここにいたってことは、たまが私たちをここへ移転させたということだ。
アレクシスのところへ行こうとして、こんなツンドラみたいなところへ来たのか。
ということは。
「もしかして、ちょっとだけ、転移が苦手だったり……?」
プライドを傷つけないように控えめに言ったつもりだったのに、やはりというか、たまは爆発した。
(違う! 我輩に苦手なことなど、あるわけが! ときどき、ずれてしまうだけだ! 小娘を呼ぶときだってアレクシスは我輩には黙って見てろと言ったのだ。我輩は! よかれと思って手伝ったのに!)
何もするなと言われて、でも手伝っちゃったんだ。
なるほど。そういうわけで、私はククルージャ周辺の砂漠だったり、今この極寒の地にいるのだなあと、しみじみ思った。
たまは、転移音痴に違いない。
※
「それで、もう一度転移をすることは、難しいのね?」
念のため、というようにさらっと聞いて見る。幸い彼の逆鱗には触れなかった。
(そうだ。先ほども言ったように、我輩の魔力はからっぽに等しい)
どうやら魔力というのは、たまが言うには、たとえるなら髪の毛のようなものだという。
量が多い人は多いしないひとはない。また、伸びる速さが異様に速いものもいればとてもゆっくりの人もいるように。
たまの魔力の溜まり方はもちろん通常より圧倒的に速いらしいのだが、転移は燃費が悪いので大量の魔力を消費する。
アレクシスの元へ転移を計るには、私がククルージャに滞在したくらいの時間は必要とのことだった。
一面の雪景色のなか、私たちはしばらく沈黙した。
私は私でこの現実に適応する時間が必要だったし、たまはたまでこのあとどうすべきか考えを巡らせたかったのだろう。
ふと足元をみると、転移するときに抱えていた鶏肉やレタス、パンなどが雪に半分埋もれている。
みんな、心配しているだろうな。
とくに月花は護衛をしてくれていたのに、一瞬で私が消えてしまったのだ。すごく困惑するに違いない。
ユーリオットさんはきっと目を吊り上げて怒るのだろう。彼の怒った顔は、生命力に溢れていて美しい。だからユーリオットさんの怒り顔は、私はちっとも怖くない。
ナラ・ガルさんはどうかな。静かに悲しみに暮れてしまいそう。その勢いで、フリルのエプロンを完成させなければいいんだけど。
阿止里さんは――。わからない。彼のことは、この一緒に暮らしていた期間では深く知ることができないままだった。
会いたいな。
この世界に来たときに拓斗が恋しかったように。今、彼らに会いたいと思う。
この状況でしょんぼりするのは簡単だ。
でもおなかだってすくし、眠るところも必要だ。衣食住をおろそかにするわけにはいかない。私は生きて、拓斗に会うのだ。
こんなところで雪に埋もれて冷凍保存されるわけにはいかない。
よし、と腹に力を込める。しょうがない。起こったことは、しょうがないのだ。
「ねえ、どうすればアレクシスのところへ行けるかな」
たまが訝しがる気配がする。まさか行き方がわからないのかな。
(小娘、怒らぬのか)
怒る? たまに対して?
こちらを伺うように息をひそめる腕輪を見て、なるほどと得心した。
この腕輪、尊大で高慢だけど、常識は持ち合わせているようだ。彼の失敗のせいで、私がひどい目にあっているとちゃんとわかっているのだ。
確かに怒ってもいい状況かもしれない。
でもね、二十五を超えると、怒ることすら疲れるのよね。
「怒るというよりは、困っているかな。理由はどうあれ、私はここに来てしまった。そして私はどうしても、前の世界に帰りたい。たまの主人でもある、アレクシスが私を呼んだんでしょう? なら、いまは一緒に彼女のいるところを目指そうよ。そうしてくれると私はうれしい」
きっと、たまはアレクシスの役に立ちたかったのだ。だから手を出すなと言われても、つい出しゃばってしまったのだ。
それだけ考えるとかわいいやつではないか。
魔法そのものは偉大な魔女の弟子らしくけっこう使えるっぽいし。
暴走しやすい性格みたいだから、扱い方は要注意だけど。
なんだかその代でいちばん厄介な新卒の面倒をみている気分になってきた。
たまはしばらく黙った後で、ありえないというように聞いてきた。
(なあ小娘。その”たま”という貧弱な呼び名が、もしや我輩につけた呼称ではあるまいな?)
贅沢言うな。
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